モントリオールにマンガ旅行―第5回 旅のカギを握る3人【最終回】

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モントリオールにマンガ旅行―第1回 マンガのスタジオ訪問
モントリオールにマンガ旅行―第2回 マンガと図書館、マンガと大学
モントリオールにマンガ旅行―第3回 フェスティバルの作家たち
モントリオールにマンガ旅行―第4回 初めてのフランス語版


はじめまして。山本美希と申します。これまで3冊(『爆弾にリボン』、『SunnySunny Ann!』、『ハウアーユー?』)のマンガを描いているマンガ家で、今は同時に大学でマンガや絵本創作の授業を担当しています。

わたしはこの5月末、カナダのケベック州で最大の都市モントリオールを訪れました。ズバリその目的はモントリオール・コミック・アート・フェスティバルに参加して、たくさんのマンガ家と交流すること! そこで触れたマンガ文化や作家たちについて、5回にわたってレポートします。最終回では、私たちがケベック州へマンガ訪問の旅に出るきっかけになったキーパーソンである3人の作家を紹介します。


カギを握る人物1:フィリップ・ジラール

さかのぼること2年前、筑波大学の吉原ゆかり先生から「海外から来日するマンガ家の講演会があるから、遊びにきてみない?」というお誘いをいただき、軽い気持ちで話を聞きに行くことにました。その頃は海外マンガに関心を持ってはいましたが詳しいわけでもなく、またケベック州がどんなところかすら全く知りません。会場に着くと、作品のミニ展示がされていて、同じく吉原先生を通じて参加していた横井三歩さんにお会いすることになりました。

さて、来日していたマンガ家は、フィリップ・ジラール(Philippe Girard)です。フィリップさんはフランスなどの国ですでに数多くの作品を発表しているベテランのマンガ家です。彼はとにかくパワフルな人物で、その講演会では、ケベック州のマンガ市場がとても小さくて国内では全く売れない(!)ということや、自身が文化的には英語圏よりも仏語文化圏の影響を受けていることなど、わたしがこれまで全く知らない場所や背景でマンガ家として活動してきたことを話していました。

「ぼくはシェイクスピアよりもモリエールを読んできたんです。」

フィリップさんがサインをしているところも見ましたが、1回ごとに違う絵を描くうえに、使うペンなどもどんどん変えていて、さまざまなタッチの絵を自在に描いていました。マンガが全然売れない場所に、こんなにレベルの高いマンガ家がいるの?  彼の作品は翻訳されていないため残念ながら絵を眺めることしかできませんが、皮肉とユーモアのある大人向けの作風です。フィリップさんは、昨年は京都マンガミュージアム行われた展示「ケベックマンガを知っていますか?」でライブドローイングを行っていました(展示レポート記事がこちらから読めます)し、もちろん今回のフェスティバルにも参加していました。

とにかく大勢の人に届けられるという意味では日本以上に恵まれているところはないと改めて実感する一方、シビアな環境であったり、大衆に届くものではないという環境から生み出されている作品にも魅力があるということを、フィリップさんの作品を通して感じることになりました。

Philippe Girard, Hamlet vs Spectre, 2016

カギを握る人物2:イリス

それからまたしばらくした頃、新たにケベック州からマンガ家が来日するという話が聞こえてきました。フィリップさんとも全く異なるタイプの作家で、さらに若手の女性作家とのことで、これは絶対話を聞きたい! わたしが出会った2人目のケベック州出身のマンガ家は、イリス(Iris)です。2017年に来日し、いくつかの場所で彼女の講演会やワークショップがありました。イリスさんはエッセイ風の軽いタッチのマンガが得意なタイプで、作品から伝わってくるのは、日常の中から面白いことを拾い上げる独自の視点と漂うユーモア。親しみやすいスタイルのマンガ家なのですが、イリスさんの講演で印象的だったのは、

「わたしは情熱のためにマンガを描いています」

という言葉でした。お金や生活のためにというよりも、情熱があるから、表現したいから描いていると言っていて、おおらかで柔らかい雰囲気の彼女にも強い信念があってマンガに取り組んでいるんだと感じました。

ベルギーのレジデンス滞在記『28 Jours de pluie(直訳:雨の28日間)』。Iris, 28 jours de pluie, 2017

またイリスさんは自己紹介で、「ケベックの大学でバンド・デシネを勉強しました」という経歴を話していました。日本であれば、いくつかの大学でマンガの創作教育を行っているのを知っていましたが、ケベックでも10数年前からバンド・デシネの創作について大学で学ぶことができたそうなのです。誰がどんなふうにしてバンド・デシネを教えているのか、ということがずっと頭に引っかかっていました。今回訪問することが決まり、真っ先にその疑問がわたしの頭に浮かんできました。この機会にケベックにおける大学でのマンガ教育について情報を集めたいと思い、事前に該当の大学が州立大学であるケベック大学ウタウエ校だということを教えてもらい、担当の先生と連絡を取ることができました。(詳しくは、第2回のレポートをご覧ください。)

もちろんイリスさんにも、フェスティバルで再会しました!彼女は最近、ベルギーで1ヶ月間のアーティスト・イン・レジデンスに参加したそうで、その経験をまとめた小さな冊子をプレゼントしてくれました。また、第3回で紹介したマンガ家キャトンさんと共同制作した新作『La liste des choses qui existent, L’integrale,(直訳:存在するもののリスト 完全版)』を出版するなど、精力的に活動しています。

パステック(La pastèque)という出版社のブースで、新作にサイン中のイリスさん。(撮影:横井三歩)
Iris & Cathon, La liste des choses qui existent, L’intégrale, La pastèque,2018

カギを握る人物3:ヌヌミ

2017年の秋に来日した最後のキーパーソンは、マンガ家でありアニメーターのヌヌミ(Nunumi)です。彼女はまたこれまでの2人とはタイプの異なる作家でした。というのは、彼女は実は商業的な出版物として発表したマンガ作品はなく、主なキャリアをアニメーションの業界で積んできたアーティストだからです。例えば、彼女は昨年日本でも公開された『フェリシーと夢のトウシューズ』のキャラクターの表情デザインを担当していますし、最近はストーリーボードなどの仕事も担当しているそうです。

ヌヌミさんは自主的にマンガ作品も制作しており、『Sky rover(直訳:空の旅人)』は日本の文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品に選出されました。その展覧会の時期に彼女が来日することになり、アニメーションもマンガも作れる多才なアーティストと聞いて、とにかくダメ元で、授業で学生たちにワークショップをしてほしい! とお願いしてみました。ヌヌミさんは快く引き受けてくれ、キャラクターの表情デザインを中心にしたワークショップをしてくれました。現役のアニメーターから現場の知恵を学べるとあって、いつもの授業の3倍くらいの学生が集まりました。

右が飛行気乗りの男の子。光を出す妖精なども登場します。Nunumi, Sky Rover, 2016

『Sky Rover』は、嵐に巻き込まれ飛行機ごと墜落した男の子を、近所に住んでいる女の子が助けるところから始まり、飛行機を修理する期間中に起こる2人の交流の物語です。親しみやすいキャラクター造形でファンタジーの要素があり、またサイレントコミックなので誰でも物語を楽しめます。彼女のWebサイトで読むことができますし、彼女は今年11月の海外マンガフェスタに参加するために来日します。受賞作だけでなく新作を発表するそうなので、このチャンスをどうか逃さないでくださいね!

ヌヌミさんはとても気さくな人で、今回の旅行でも空港で私たちを迎えるところから、スタジオ訪問のための日程調整などあらゆる調整をやってくれました。本当に彼女なしではこの旅は成り立たなかったと思います。私たちが帰国する日には、そのあとスタジオで仕事があるのに、早朝空港まで来て私たちを見送ってくれました。最後の最後まで、よい旅行になるように気遣ってくれた彼女に、心から感謝します!

フェスティバルでのヌヌミさんのブース。新作が楽しみです。

マンガ旅行のおわりに

今回のマンガ旅行は、ケベック州出身の3人のマンガ家との出会いと交流をきっかけに実現したものでした。環境は違っても、彼らの活動や行動力・作品に同じマンガ家として本当に刺激を受けました。モントリオールやケベック州でのマンガ事情について、このレポートを通じて興味を持ってもらえたら何よりも嬉しく思います。

これで、モントリオールへのマンガ旅行記は一旦、終わりになります。もちろん作家同士の交流は今回で終わりではなく、これからも活発に続けて、さらにいろいろな活動に発展させていくつもりです。いまは日本とケベックの作家たちで合同誌を作ることや、来日に合わせての講演会の企画などを考えています。というわけで、支援をしたい!と思っていただける方はぜひ引き続き関心を持っていただけますと嬉しいです。

以上、山本美希の「モントリオールにマンガ旅行」でした。興味があれば、わたしのホームページや作品も下のリンクからご覧ください。
それでは、またどこかで!

第5回のおさらい
Philippe Girard
〈ケベック・バンド・デシネ〉を知っていますか-25の足跡と7人の作家から展
Iris
Nunumi
Sky Rover
山本美希
『ハウアーユー?』


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About Author

山本 美希

マンガ作家、イラストレーター、筑波大学芸術系助教。単行本としては『ハウアーユー?』(祥伝社2014、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品)、『Sunny Sunny Ann!』(講談社2012、第17回手塚治虫文化賞新生賞、第29回MANGA OPEN大賞)、『爆弾にリボン』(三才ブックス2011)の3冊がある。フリーで活動後、2016年から筑波大学で勤務し、主に絵本とマンガの創作に関する授業を担当している。秋に向けて、4冊目を執筆中!

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