モントリオールにマンガ旅行―第3回 フェスティバルの作家たち

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モントリオールにマンガ旅行―第1回 マンガのスタジオ訪問
モントリオールにマンガ旅行―第2回 マンガと図書館、マンガと大学
モントリオールにマンガ旅行―第4回 初めてのフランス語版
モントリオールにマンガ旅行―第5回 旅のカギを握る3人


はじめまして。山本美希と申します。これまで3冊(『爆弾にリボン』、『SunnySunny Ann!』、『ハウアーユー?』)のマンガを描いているマンガ家で、今は同時に大学でマンガや絵本創作の授業を担当しています。

わたしはこの5月末、カナダのケベック州で最大の都市モントリオールを訪れました。ズバリその目的はモントリオール・コミック・アート・フェスティバルに参加して、たくさんのマンガ家と交流すること! そこで触れたマンガ文化や作家たちについて、5回にわたってレポートします。今回は第3回目、いよいよフェスティバルです!


ケベック州とは?

カナダと言えばすぐにいろいろなイメージが思い浮かぶと思いますが、ケベック州はカナダの中でも少し特別な場所です。ケベックの綴りは「Québec」。英語にはないアクセント記号がついていることでわかるように、ケベック州はフランス語が公用語になっている地域です。大人にはおおよそ英語が通じますが、たどたどしい人もいて、やはりフランス語の方が一般的に使用されている印象です。本屋に並んでいる本もフランス語がほとんどで、英語も多少、というバランス。北米なのにヨーロッパの雰囲気を感じられる、ちょっと面白い場所なんです。

今年の5/26-28に、ケベック州のモントリオール市内で、モントリオール・コミック・アート・フェスティバル(MCAF)が開催されました。今回で7回目、もちろんFBDM(Festival BD de Montréal)という仏語の名称もついています。広い公園の芝の上に白い大きなテントが立ててあり、その中にアーティストたちがそれぞれのブースを借りて、作品を並べて販売するというイベントです。わたしたちも今回1つブースをもらって、フェスティバルに来場するみなさんに作品をPRしてきました。

フェスティバルの会場は、まさに緑に囲まれています。

いよいよフェスティバル!

ブースを出しているのは、個人の作家(プロ・アマ)、書店、学校などで、このあたりは日本と変わりません。チケットなどはなく、誰でも公園に遊びに来て気軽に立ち寄っていきます。モントリオールでは他にも、大きな会場で華やかなコスプレイヤー達が集まるコミコンなどもありますが、MCAFは日本で例えれば比較的コミティア寄り、いわば「作家中心」のイベントだと思います。規模としては日本のコミティアとは比較にならないのですが、何より5月の青空の下という開放感がとても気持ちいいのと、作家とお客さんとの距離が近くて、交流を楽しむのにちょうどいい規模感です。書店のブースでは作家達が交代でサイン会も行なっています。講演会やラウンドテーブルを行うイベントスペースは公園内の建物の中にあり、その隣にはレストランと、展示スペースがあります。この展示スペースでは、今年はシリス(Siris)という作家の展示がされていました。ニワトリのキャラクターが特徴的で、アンダーグラウンドな作風のモントリオールの人気作家です。

アクの強い絵が特徴的。よく見ると目は目玉焼きだったり、皮肉たっぷり。

初日、早速フランス語の洗礼が。初日はチルドレンデイといって、黄色いスクールバスで子ども達が一斉にやってくる日になっています。子ども達は突然ブースの周りを取り囲み、フランス語で話しかけてきます。わかっていただけると思いますが、子ども達は恥ずかしいのか、あまり英語をしゃべってくれないんです。英語ならわかるよと伝えても、友達同士で肘でつつき合って「アングレ!アングレ!(Englishをフランス語でいうとanglaisなので、わたしにはアングレと聞こえる)」と言うだけで、手応えなし。しかも大人のように「ボンジュール」などの無難な挨拶はなく、突然話しかけてくるので、ごめん、全然わかんなかったよ…!

インディペンデント系のマンガ家たち

さて、フェスティバル当日に交流できたモントリオールの才能溢れる作家たちのことを紹介する段階にやっとたどり着きました。実は、わたしたちはすでに昨年、日本に来日していたケベック州の作家に何人か会っているのですが、それは最後の回に触れることにして、まずはこの訪問で新しく知ることができたBD作家を紹介します。

フェスティバル当日の早朝、作家たちが集まって交流するモーニングカクテルがあり、そこですぐに声をかけてくれたのは、キャトン(Cathon)とアレクサンドル・フォンテーヌ・ルソー(Alexandre Fontaine Rousseau)です。 彼らは二人で『Les cousines of vampires(直訳:吸血鬼のいとこ)』というバンド・デシネを出版していて、アレクサンドレが物語を、キャトンが絵を担当しています。これは吸血鬼というホラーの要素とコミカルな要素が混ざった内容で、特に10代くらいの女の子達にとても受けそう。おそらく子供向けと大人向けの中間、ヤングアダルトと呼ばれる読者層に向けた作品だと思います。モノクロ画面なのですが、鉛筆のグレーのハーフトーンから強い黒までのグラデーションが美しい画面を構成しています。バンド・デシネと言うと重厚で文章量も多いイメージを持っている人もいるかもしれませんが、この作品は文章が少なく、絵と言葉のバランスは日本のマンガに近いです。ちなみに、キャトンは10〜11月にかけて来日予定だそう。じかに会えるチャンスですよ!

主人公の女の子が、久しぶりに怪しげないとこの家(右上)を訪れるところから始まります。
Alexandre Fontaine Rousseau & Cathon, Vampire cousins, Pow Pow Press, 2015

キャトンの本を買ってサインを入れてもらいながら待っていたとき、隣の机でサインを書いていたのが、若手のBD作家トム(Thom)です。彼もケベック大学のバンド・デシネコースの卒業生です。彼の作品『Ⅶ』は全て絵だけで展開する、いわゆるサイレントと呼ばれる形式のバンド・デシネです。わたしはとにかく(わたしでも難なく読める)サイレント作品の大ファンなので、これは買わなくては! 筆が進まない小説家と、その作品を愛読するファンの死神が出てきて、早く次の本を書けと脅迫するというのがあらすじです。彼の絵はシンプルで太い線が特徴的で、ちょっとレトロな動物や植物のキャラクターがとにかく魅力的。チャップリンやジャック・タチのようなスタイルが好きな人にはまさにピッタリじゃないでしょうか。

7巻目がなかなか仕上がらない主人公の小説家は、ウサギのような独特なキャラクター。
Thom,Ⅶ, Pow Pow Press, 2017

次にご紹介するのは、ズヴィアンヌ(Zviane)です。彼女は昨年日本に来日していたのですが、わたしは会いに行くことができなかった作家です。ズヴィアンヌさんはとてもアーティスティックな人で、バンド・デシネだけでなく音楽や映像も自在に作れるまさに芸術肌の人。バンド・デシネも1冊ごとにそれぞれ雰囲気が異なっており、多才さがうかがえます。わたしが買った『For as long as it rains(直訳:雨が降っているあいだは)』は、ある音楽家の男女の1日の恋愛模様を描いたもの。2人のセックスが音楽の楽譜のように描かれる場面があるなど、表現の面白さがガツンと効いていて痺れる傑作…!このComic Streetのサイトには彼女のインタビューが載っていますので、ぜひ併せてご覧ください(こちら)。魚喃キリコ先生のマンガ『Blue』の影響を受けて描いた作品もあるそうです。

音楽家の男女、でも恋人ではない微妙な関係。
Zviane, For as long as it rains, Pow Pow Press, 2015

実はこの3人の作品は、同じ出版社パウ パウ プレス(Pow Pow Press)から出されています。ここのバンド・デシネはソフトカバー・モノクロという形式が日本のマンガに近いせいかとても馴染みやすく、またサイレントだったり表現上の工夫が見られたりと、少し冒険のあるインディペンデントなスタイルが完全にわたしのツボ。本を買うときに店員さんが

「自分の出版社で出してるバンド・デシネは全部好きだよ!」

と自信を持って言っていたのも、とても印象的でした。実はこの出版社は1人のマンガ家が自分の作品を出版するところからはじめた2010年にできたばかりの新しい出版社です。作品数もまだまだ少ないのですが、半分は作家たち自身で運営しているため、熱意と実験精神にあふれた作品作りができているのだと思います。ケベックではマンガを扱う出版社が少ないという事情もあり、作家たち自身で出版まで手がけるのは珍しくないようで、これは日本と本当に違うところだなと感じました。

まだまだすごい作家がいる!

わたしたちのお隣のブースで、ひっきりなしにサインに応じていたのがジミー・ボーリュー(Jimmy Beaulieu)という作家です。わたしが観察するかぎり、とにかく女性ファン多し! 気になってのぞいてみると、やはりベテラン作家でした。ブースの前をうろうろしていたら、声をかけてくれました。わたしの本と1冊交換してくれて、手に入れたのが『À la faveur de la nuit(直訳:夜に乗じて)』。軽やかな絵のスタイルがとても素敵で、特に恋愛や女性を描くのが得意な作家です。ジミーさんの作品はカナダだけでなくベルギーやフランスなど複数の国で出されていて、フェスティバルでは自費出版のものとカナダで売っていない本を主に置いているんだと言っていました。

女性同士のカップルの一晩を中心に、いくつかのストーリーが同時に進行していくような内容。
とても読んでみたい…。
Jimmy Beaulieu, À la faveur de la nuit, Les Impressions Nouvelles, 2010

ゴリラのキャラクターが出てくる子供向けのマンガ『ジミー・トルネード(Jimmy Tornado)』で、ストーリーを担当しているフレデリック・アントワーヌ(Frédéric Antoine)も、わたしたちに話しかけてくれました。フレデリックさんたちの出版社のブースは子どもでいっぱい。他にもたくさんの子供向け作品で原作を担当されています。イラストレーションが特に気に入ったのは、ジョイ・サン(Joy San)とケイティー・ホール(Caity Hall)のふたりです。若い作家ですが、どっちの絵もキュートでうまい!  ぜひ最後のURLからチェックしてください。

このイベントにはカナダ国外からのマンガ家はわたしたち含めて数名だけで、ほとんどがケベック州内の作家ですが、海外から来ていた作家のひとりにドイツのサッシャ・オメル(Sascha Hommer)がいます。サッシャさんは、ドイツが拠点ですがフランス語でも作品が出ているため、モントリオールにも読者がいます。彼の作品も残念ながら読めないのですが、絵から判断しますと、かわいい絵柄でありながらブラックユーモアがある(日本人作家で例えたら西島大介先生?)というような作風に見えます。ドイツではコミックの人気はまだまだで、マンガだけで食べていくことはかなり難しいとのことで、彼自身も様々な仕事をしてお金を稼いでいるそうです。

「何してるんですか?」と聞いてみると、まず1つにはドイツの大学で、非常勤でマンガの授業をしているとのこと。おお! 今回の旅で 2人目のマンガ教師を発見! すかさず、「どんな授業ですか?」「どんな課題出しますか?」と根掘り葉掘り聞きました。また2つ目には、多才なサッシャさんは2006年から毎年10月にドイツのハンブルクにて、コミック・フェスティバル・ハンブルク(Comic festival Hamburg)を開催しているそうです。原画展示を中心にしたフェスティバルとのこと。マンガ家自身でフェスティバルを主催しているなんて、面白そうじゃないですか…! ドイツ訪問予定のある方はぜひ足を運んでみてください。

Comic Festival Hamburgのポストカード。今年は2018年10月4〜7日に開催です。

今回はここまで。第4回はフェスティバルのクライマックス、旅の中でも特に印象に残った人たちとの出会いをレポートします。

それでは!

第3回のおさらい
Siris
Cathon
Thom
Zviane
Pow Pow Press
Jimmy Beaulieu
Jimmy Tornado
Joy San
Caity Hall
Sascha Hommer
Comic festival Hamburg


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About Author

山本 美希

マンガ作家、イラストレーター、筑波大学芸術系助教。単行本としては『ハウアーユー?』(祥伝社2014、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品)、『Sunny Sunny Ann!』(講談社2012、第17回手塚治虫文化賞新生賞、第29回MANGA OPEN大賞)、『爆弾にリボン』(三才ブックス2011)の3冊がある。フリーで活動後、2016年から筑波大学で勤務し、主に絵本とマンガの創作に関する授業を担当している。秋に向けて、4冊目を執筆中!

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