モントリオールにマンガ旅行―第2回 マンガと図書館、マンガと大学

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モントリオールにマンガ旅行―第1回 マンガのスタジオ訪問
モントリオールにマンガ旅行―第3回 フェスティバルの作家たち
モントリオールにマンガ旅行―第4回 初めてのフランス語版
モントリオールにマンガ旅行―第5回 旅のカギを握る3人


はじめまして。山本美希と申します。これまで3冊(『爆弾にリボン』、『SunnySunny Ann!』、『ハウアーユー?』)のマンガを描いているマンガ家で、今は同時に大学でマンガや絵本創作の授業を担当しています。

わたしはこの5月末、カナダのケベック州で最大の都市モントリオールを訪れました。ズバリその目的はモントリオール・コミック・アート・フェスティバルに参加して、たくさんのマンガ家と交流すること! そこで触れたマンガ文化や作家たちについて、これから5回にわたってレポートします。今回は第2回、ケベックで出会った作家やマンガ文化について、ギュッと濃縮してお伝えしたいと思います!


モントリオール州立図書館バンク

今回、マンガ文化に関わる場所としてご紹介したいのは、モントリオール州立図書館バンク(Bibliothéque et archives nationales du Québecで通称BAnQ)の中でも最大規模のGrande Bibliothèque! 近代的な建物で、ギャラリースペースなどもあり、子どもから大人まで親しめる図書館なのですが、ここはマンガ家にとってもトレビアンな図書館です。右手の階段を上がってすぐのコーナーがバンド・デシネコーナーで、ここには見たこともないくらい圧巻のコレクションが並んでいます。広いコーナーを埋め尽くす棚の両側にびっしり並んだバンド・デシネ。この量がいつでも誰でも読めると思うと、本当にモントリオールに住み着こうかと思うくらいです。フランス語が読めたらですけどね…。

日本のマンガの翻訳も開架されているだけで棚2つほどありました。そして、このエリアでバンド・デシネを熟読しているのは子どもよりも圧倒的に大人。やはり大人中心に楽しまれているのがバンド・デシネなんだな、と実感しました。

本を返却すると、全自動で収納される様子がガラス張りで見られます。

夫婦のマンガ家、ティエリ&ステファニー

さて、もちろんまた新しいマンガ家との出会いもありました。私たちをBAnQから旧市街まで案内する観光ガイドをしてくれたのは、前回から登場しているヌヌミさんと、そしてその友達、夫婦でマンガ家のティエリ・ラブロッス(Thierry Labrosse)さんとステファニー・ルデュック(Stéphanie Leduc)さんです。仕事で忙しいのに一日私たちに付き合って、色々な見所を案内してくれた心優しいおふたり。

ティエリさんとステファニーさん。(撮影:横井三歩)

この素敵な夫婦のマンガ家の作品についても紹介します。ティエリさんには『Ab Irato』、『Dead Charlie』、『Moréa』などの作品があります。特に後ろの2つはカッコいい女性が主人公で、「なぜ主人公が女性なんですか?」と聞いたら「わからないけど描くといつも主人公は女性なんだ」とのことでした。ステファニーさんの作品には子ども向けと大人向けのものがあって、『Titi Krapouti et Cie (直訳:ティティ・クラプティ商会)』は子ども向け。目が大きい子どもや、ネコのような耳のついたニンジャなど、個性的なキャラクターが出てきて楽しい1冊です。大人向けの『Terre sans dieux(直訳:神なき大地)』はSF、『Dryade(直訳:ドリアード※ギリシア神話の木の精霊)』は木と女性の身体が混ざり合い、繊細に着彩された画面がとても素敵でした。が、すみません、読めないので中身についてはっきりしたレポートができなくて残念です…! ちなみにBAnQには、ティエリさんとステファニーさんの本もそれぞれ置いてありました。

左がティエリさん、右がステファニーさんの作品。
実際の作品の詳細は最後のホームページのリンクからご覧ください。(撮影:横井三歩)

ティエリさんはスタジオで、ステファニーさんは自宅で制作しているそうです。二人は出版社からの仕事もしていますが、自身の作品を自費出版して、それをMCAFを含めて年に何回かのフェスティバルを通じて販売しています。モントリオールではあまりマンガ市場が大きくないそうで、出版社から出すのと自費出版とさほど変わらないのか、彼らにとってフェスティバルが本を売る大事なチャンスになるようでした。フェスティバルでの二人のブースは、子供から大人まで絶えずお客さんが来ていて、大人気の様子でした。

それからわたしたちは旧市街をまわって、ジャン・カルティエ広場など観光客の多いエリアも訪れました。この辺りでは、たまに日本語も耳にしますし、街中では「スシ」屋もたくさん目につきます。その後、宿泊先の近くまで戻って夕食に行くのですが、そこでもまた新たなマンガ関係者との出会いがあります。

ここケベック州には、マンガを勉強できる総合大学があるらしいという情報を聞いたことがありました。実は、わたしの今回の旅の大きな目的の1つは、その大学の先生にお会いすることなんです。日本でもマンガ家は独学だったり専門学校等で学んでいたり様々ですが、バンド・デシネの作家たちはどうやって創作を学んできたのか興味がありました。ティエリとステファニーにも、「二人はどうやってバンド・デシネを描き始めたの?」と聞いてみました。

ティエリ 「小さい頃から絵を描いていて、いつの間にかそれがマンガになっていったんだよ。」
ステファニー 「大学でマンガの勉強をしたよ。これから会う先生はわたしの大学時代の先生だよ!

近年、日本では大学でのマンガ教育が広まりつつあって、わたし自身も大学でマンガを学びました。それまでマンガ家になるつもりは全くなかったのに、大学で学んだ中で一番魅力的に感じた表現がマンガで、そこからシンプルな絵から生み出される物語の奥深さにすっかりのめり込みました。外国の大学でどのようにマンガ教育が行われているのかぜひ知りたいと思いましたし、実際に教員になってみて教える上での様々な難しさを感じているところだったので、現役で教員をされている先生にお会いして何かヒントを伺いたい…!という切実な気持ちがありました。

バンド・デシネの創作を学べる総合大学

ディナーに快く参加してくれたのは、マリオ・ボラック(Mario Beaulac)先生です。ケベック大学ウタウエ校(UQO, École multidisciplinaire de l’image)にて、バンド・デシネの授業を担当されています。ウタウエ校はケベック大学のキャンパスの1つで、モントリオールからは例えれば東京⇄名古屋間くらいの距離だそうです。カナダサイズなので、近く見えても結構遠い…!距離からいえば隣の州にある都市オタワのほうが近いです。あとで知りましたが、初回のレポートで触れた極真空手マンガ家のベルベさんもこの大学出身ですし、他にもフェスティバルで出会った多くの作家が、この大学で勉強したバンド・デシネ作家なんです。

UQOの案内ポストカード。水色の印がウタウエ校です。

この大学にはボラック先生の他にも数人のバンド・デシネの先生がいて、お話を聞く限り、西洋美術の基礎(デッサンなど)をはじめ、ストーリーを制作する授業、技法の研究、印刷を体験する授業、マンガ史などがあるようです。卒業制作では製本方法から紙の選定まで含めて、自らの作品に最も適した表現を考え、1冊を完成させるとのことでした。フェスティバルの日には、今の4年生たちが卒業制作を持って参加していました。なんてステキなコースなんだ、1年生から通いたい!

わたしは教えるときに「学生のストーリーを添削しようとすると個別の対応をするしかなくて、授業中に全員を見られない」という悩みを持っていたのですが、ボラック先生は「僕はある一人の問題点が、ほかの学生にも関係あることを常にアピールするようにしているよ。他の学生にもそのアドバイスが役に立つはずだよ。」と実に的確な助言をくださいました。他にも、授業を作る際に使っている資料のリストをくださったり、わたしの絵の雰囲気を見て、参考になりそうなアーティスト名をメモしてきてくださっていたり…。最高に親切な素晴らしい先生でした。海外でバンド・デシネを学んでみたい人がいたら、ケベック大学という選択肢を考えてみてはどうでしょう。

わたしは大学の教授との面談ということで緊張していて、とにかく話をするので精一杯で食事が全然喉を通らなかったのですが、その隣で横井さん(注:同行したマンガ家さん)とヌヌミさん、ティエリさん、ステファニーさんたちはとても楽しそう…。というのも、なんだかこのレストランのウェイターのおじさんが、ものすごく陽気で、とにかく事あるごとにお茶目なことをしてみせるんです。これ、日本のウェイターを想像するとウソのようですが、飲み物の注文を聞くついでにダンスを踊ってみせたり、わたし達が日本人だと気づけば「ボナペティは日本語でなんて言うの?」「別れの挨拶は?」と会話に割って入ってみたり。あとから、どうしてそんなに盛り上がっていたのか聞いてみると、実はあのウェイターのおじさんは熱心なマンガファンで、わたしたちの話を耳にして「マンガ家が集まっているんだ!」と気づいてサービスをしてくれていたらしいんです。なんだか、あったかすぎないですか、モントリオール!!!

わたしはその夜、それまでに出会った人々のことを思い出して、忘れないように似顔絵を描いて寝ました。もう皆さんもモントリオールがちょっと好きになったことと思います。では、また第3回に続きます。

次回はフェスティバルの様子をお届けします!

第2回のおさらい
BAnQ Grande Bibliothèque
Thierry Labrosse
Stephanie Ledoc
Université du Québec en Outaouais (École multidisciplinaire de l’image)


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About Author

山本 美希

マンガ作家、イラストレーター、筑波大学芸術系助教。単行本としては『ハウアーユー?』(祥伝社2014、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品)、『Sunny Sunny Ann!』(講談社2012、第17回手塚治虫文化賞新生賞、第29回MANGA OPEN大賞)、『爆弾にリボン』(三才ブックス2011)の3冊がある。フリーで活動後、2016年から筑波大学で勤務し、主に絵本とマンガの創作に関する授業を担当している。秋に向けて、4冊目を執筆中!

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