モントリオールにマンガ旅行―第1回 マンガのスタジオ訪問

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モントリオールにマンガ旅行―第2回 マンガと図書館、マンガと大学
モントリオールにマンガ旅行―第3回 フェスティバルの作家たち
モントリオールにマンガ旅行―第4回 初めてのフランス語版
モントリオールにマンガ旅行―第5回 旅のカギを握る3人


はじめまして。山本美希と申します。これまで3冊(『爆弾にリボン』、『Sunny Sunny Ann!』、『ハウアーユー?』)の作品を描いているマンガ家で、今は同時に大学でマンガや絵本創作の授業を担当しています。

わたしはこの5月末、カナダのケベック州で最大の都市モントリオールを訪れました。ズバリその目的はモントリオール・コミック・アート・フェスティバルに参加して、たくさんのマンガ家と交流すること! そこで触れたマンガ文化や作家たちについて、これから5回にわたってレポートします。

はじめに言ってしまうと、この旅は大げさでなくこれまでで最高の旅で、本当に刺激的で貴重な経験でした! バンド・デシネや海外のマンガに興味があったら、ぜひ一度このフレンドリーなフェスティバルを訪れて欲しいです。これは、その熱い気持ちを120%込めたレポートです!


さて、この旅は1週間で、最後の3日間(5/26-28)がモントリオール・コミック・アート・フェスティバル(MCAF)です。今回、日本から訪問したマンガ家は、わたしともう一人、マンガ家の横井三歩さん。横井さんは主にゲーム会社などから依頼を受けて子供向けのマンガを制作している人で、空港で「boarding pass(搭乗券)」と言われたのを「オリンパス」と聞き間違えて、「自分のカメラはニコンですが…」と一生懸命説明していたという、大変愉快な一面のある人です。

スタジオ ルナック

フェスティバルの模様はのちのレポートで触れることにして、初回はまず私たちが訪問したケベックのマンガ関係の場所と人々をご紹介したいと思います。

はじめに紹介したいのは「スタジオ ルナック」(Studio Lounak)。ここは、15〜20名程度のマンガ家やアニメーション作家たちが使っているシェアスペースです。私たちの旅のアテンドをしてくれたアニメーター兼マンガ家のNunumi(ヌヌミ)さんが過去に所属していたスタジオとのことで、今回訪問させてもらうことができました。ビルの1室で、2部屋が繋がっているような形をしていて、かなり広く感じます。机がバラバラに置いてあり、仕切りなどはなくて緩やかにそれぞれのスペースが分かれているようです。それから、絶対に近寄ってきてくれない物凄くシャイな白と黒の大きな看板犬がいます。

犬にも無視され、緊張気味だった私たちに陽気に声をかけてくれたのは、タンクトップにキャップ姿の人。

「こんにちは!」
「お元気ですか!」

と日本語がぽんぽん飛んできて、よく見るとキャップには「極真」て書いてある。彼はジャン=セバスチャン・ベルベ(Jean-Sebastién Bérubé)というBD(バンド・デシネ、フランス語のマンガのこと)作家です。「どんな作品描いてるんですか?」と聞いて、彼が自分のコーナーの棚から取り出して見せてくれたのは『COMMENT je ne suis pas devenu moine(直訳:僕が僧にならなかった理由)』。ハードカバーでA4より一回り大きいどっしりした本です。

震えたような線に味わいがあります。表紙の右上にいるのが主人公。
Jean-Sebastién Bérubé, COMMENT je ne suis pas devenu moine, Futuropolis, 2017

チベットへ滞在した際の出来事をまとめたマンガで、本人が主人公です。ベルベさんはこうした旅行記をまとめたスタイルのマンガを得意にしているらしく、次は日本を舞台にした空手についてのマンガを描いているとのことでした。それで「極真」…!

ベルベさんはフランスの出版社から本を出していて、アングレーム国際漫画祭にも2回招待されたと言っていました。もちろんMCAFでも書店でサイン会を行っていて、人気のある作家です。「日本のマンガ家のだれが好き?」と聞かれたので「松本大洋先生とか…」と答えたら、「俺の本はタイヨーマツモトと同じ出版社から出てるんだぜ!」と自慢されました。彼の本の版元であるフランスの出版社フュチュロポリス(Futuropolis)は、松本大洋先生のマンガ『ルーブルの猫』の仏語版も出しています。

極真キャップのベルベさん(絵:山本美希)

他にもこのスタジオでは、カール・カーシル(Karl Kerschl)という作家にも会いました。カールさんは、DCやマーベルなどアメリカの大手出版社で仕事をしているそうで、日本でも出版されている『ゴッサム・アカデミー』シリーズの作画を担当しています。作品を見ても、バンド・デシネというよりアメリカンコミックです。わたしにプレゼントしてくれた『ISOLA』という作品は、ファンタジーの要素があり、子供でも大人でも楽しめるような内容。同じスタジオにいても、作家によって作品を出している国が違う、というのも新鮮でした。彼は近いうちに九州に滞在するそうで、コンタクトするチャンスかもしれません。

『ISOLA』の1巻、36ページフルカラー。虎を守りながら旅をする戦士の物語です。
Brenden Fletcher, Karl Kerschl, Isola, Volume 1, Image Comics, 2018

スタジオと共同制作

描きかけの原稿や絵の具、画板、ペンタブ等々が並んでいるスタジオに、すっかり興奮しました。このスタジオのリーダーは編集者をしていて、仕事の依頼などを所属の作家に回したり、「Studio Lounak」レーベルとして少部数の本の出版もしているそうです。もちろんスタジオで制作するのが好きな作家もいれば、自宅で制作している作家もいて、それはそれぞれの好みによるようですが、こういう部分にスタジオで制作するメリットがあるのかなと感じました。もちろん、集まってアレコレ言いながら制作したり、自分が描いた絵を隣の机の人がアニメーションにしたり、そんなことができちゃうだけでとても楽しそう…。

アニメーターでもあるヌヌミさんによれば、モントリオールにはアニメーションの製作スタジオやゲーム会社が数多くあるそうです。アメリカやフランスからのアニメーション製作・ゲーム製作を請け負うスタジオです。ヌヌミさんが表情のデザインを担当した『フェリシーと夢のトゥシューズ』は、昨年日本でも公開されました。アニメーションが細分化された分業で作られるように、バンド・デシネも分業で作られることが多くあります。もちろん一人で物語から絵までを仕上げる人もいますが、一方で物語、描画、着彩(カラー)を全部別々の人が担当することもよくあります。こういったシェアスタジオをマンガ家たちが活用するのには、分業などで他のクリエイターと一緒に仕事をする機会が多いということが関係しているのかもしれません。知り合ったクリエイター同士で共同制作するのを楽しんでいるようで、この創作現場の雰囲気の違いも新鮮な驚きでした。ちなみに、ヌヌミさんはアニメーションの仕事があればスタジオに呼ばれて働き、それが終わったら自分のマンガを作るというサイクルで働いているそうです。

ドローン&クォータリー

次に訪れたのは、スタジオからも近いモントリオール市内のドローン&クォータリー(Drawn & Quarterly)という書店兼出版社です。モントリオールを拠点にして、北米に展開している会社です。書店の店頭には、バンド・デシネをはじめ絵本やアートブックなども取り揃えていました。出版の部門では、アメリカの作家であるクリス・ウェア(Chris Ware)やダニエル・クロウズ(Daniel Clowes)などインディペンデント系の作品を出していて、作家性を重視するのが特徴かもしれません。日本人作家のものは、水木しげる先生の「鬼太郎」シリーズ、辰巳ヨシヒロ先生の作品などを翻訳出版しています。

ドローン&クォータリーの外観。
店員さんもとても親切で、私たちのために英語の本を探して出してくれました。

ヌヌミさんのオススメを聞いて、ギィ・ドゥリール(Guy Delisle)の『PYONGYANG: a journey in North Korea』を買いました。ケベック州出身の有名作家だそうで、これは日本でも翻訳が出ています(『マンガ 平壌』明石書店, 2006)。彼も様々な国を訪れて働き、そこでの生活をレポートするスタイルの作家です。

今回はここまで。次回はステキな夫婦のマンガ家さんとの出会い、モントリオールのマンガ家がどのようにしてマンガを学んだのか、そしてバンド・デシネを学べる大学について触れたいと思います。

それでは!

第1回のおさらい
Montreal Comic Arts Festival
Studio Lounak
Nunumi
Jean-Sebastién Bérubé
Karl Kerschl 
Drawn & Quarterly
Guy Delisle


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About Author

山本 美希

マンガ作家、イラストレーター、筑波大学芸術系助教。単行本としては『ハウアーユー?』(祥伝社2014、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品)、『Sunny Sunny Ann!』(講談社2012、第17回手塚治虫文化賞新生賞、第29回MANGA OPEN大賞)、『爆弾にリボン』(三才ブックス2011)の3冊がある。フリーで活動後、2016年から筑波大学で勤務し、主に絵本とマンガの創作に関する授業を担当している。秋に向けて、4冊目を執筆中!

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