「“Mangaスタイル”の海外への伝播と変容」レポート

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11月23日(金)に明治大学の中野キャンパスで「”Mangaスタイル”の海外への伝播と変容」と銘打ったシンポジウムが開かれました。

開始時間の13時30分になると司会を務める藤本由香里さんがホール前方のステージに登壇し、シンポジウムは第一部のヨーロッパ編と第二部のアメリカ編の二部構成になっている事など大まかな流れを説明されました。その後、第一部の登壇者であるマンガ家のトニー・ヴァレントさん、ケニー・ルイスさん、そして海外マンガフェスタ実行委員長にして「ユーロマンガ」の編集長フレデリック・トゥルモンドさんが、通訳のお二人と一緒に入場しシンポジウムが始まりました。

第1部 ヨーロッパ編の出演者。
左からフレデリック・トゥルモンドさん、ケニー・ルイスさん、トニー・ヴァレントさん

以下、順不同で内容を紹介します。

トニー・ヴァレントさんは今回で既に何度か来日しているカナダ在住のフランス人マンガ家で、現在自身のマンガ作品『ラディアン』がアニメ化されてNHKで放映中です。日本でもユーロマンガから発行(発売:飛鳥新社)されている『ラディアン』は、モノクロ右開きの単行本サイズで描かれたいわゆる日本で一般に見られるMangaスタイルの作品です。

トニー・ヴァレント『ラディアン1』(原正人訳、飛鳥新社、2015年)

しかしスクリーンに写し出されたトニーさんの過去作『ガナハンの四王子(Les 4 Princes de Ganahan)』は、50ページ前後のアルバム形式とよばれる大判サイズの本になっており、フルカラーで四角いコマ割りの続くスタイルはヨーロッパ圏のマンガにより多く見られるスタイルだという解説がありました。

トニー・ヴァレントさん

次に紹介された『アナ・アトリ(Hana Attori)』は、『ガナハンの四王子』より後に描かれており、登場するキャラクターの目も大きくスピード線などMangaに多く用いられる文法で構成された作品です。しかし出版形式は『ガナハンの四王子』と同じくフルカラー50ページ前後のアルバム形式を採っており、トニーさんは「Mangaスタイルのストーリーやアクションを表現するには全くページ数が足りなかった」と当時を振り返っていました。

一方のケニー・ルイスさんも既に何度か来日経験のあるスペインのマンガ家で、手塚治虫生誕90周年を記念したマンガ書籍『テヅコミ』の第2巻に『僕の孫悟空』のトリビュート作品「孫悟空 猫の巻」を掲載されています。

ケニー・ルイスさん

ケニーさんの場合は、今回紹介された中でも最も古い『二本の剣(Dos Espadas)』が、左開きではあるものの日本の単行本サイズに近いペーパーバック形式で出版されているそうです。中の印刷もモノクロで大胆なコマ割りや効果線を駆使した内容になっていて、キャラクターも一般に少年マンガに見られるような明快なタッチで描かれているそうです。

その一方で次作の『インフィニティ:アウトレイジ(infinity : outrage)』では、モノクロ印刷でありながらあまりManga的ではないキャラクターの描き方が見られるという解説がありました。これについてケニーさんは「マンガの原作となるミニチュアボードゲームがヨーロッパ、アメリカ、中国で広く人気がある事実をふまえて、以前からの夢であった無国籍なスタイルを持つマンガに挑戦した」趣旨の事を述べられました。

ケニーさんはその後ベルギーでも歴史のあるマンガ雑誌『スピルー』で『マジック7(MAGIC 7)』を連載。マンガの形式は前二作とは異なり四角いコマの並ぶフルカラー作品でありながらも、登場するキャラクターは目が大きく頭身の低いMangaスタイルを取り入れたものになっていました。これについては原作者の意向で「Mangaに慣れ親しんだ若い年齢層に読んでもらう」為にそのような表現様式を採っているという事でした。

そして最新作のギリシア神話に題材を取ってテレマック(テレマコス)を主人公にしたアドベンチャーマンガ『テレマック(Télémaque)』が紹介されました。『テレマック』はこれまでに用いて来たMangaのスタイルを取り込みながらもフルカラーのアルバム形式で出版されており、これまでにケニーさんが用いて来た様々な表現形式が混ざり合った作品になっているそうです。

『テレマック』第1巻(Kid Toussait, Kenny Ruiz, Télémaque, T1, Dupuis, 2018)

冒頭の説明で「Mangaスタイル」が何かというのは実は大問題、という話がありましたが、お二人はそれぞれ、『ラディアン』と「孫悟空 猫の巻」について、Mangaスタイルだと考えていらっしゃるようでした。 このように様々な形でMangaスタイルを駆使して来たトニーさんとケニーさんですが、二人ともが「その表現形式を用いる事でキャラクターに繋がって、さらにその感情を描き出し、その結果読者に繋がる事が大事なことだ」と話しをまとめ第一部のヨーロッパ編は幕を下ろしました。

その後10分ほどの休憩を挟んで第二部のアメリカ編<日米マンガ交流史-マンガ制作の現場から->が 始まり、司会の椎名ゆかりさん、『トライガン』『血界戦線』で知られるマンガ家の内藤泰弘さん、さらにSF作家・アメコミ翻訳家の堺三保さん、そして今年アイズナー賞五冠を達成した『モンストレス』のアートを担当したタケダ・サナさんが登壇されました。

アメリカ編<日米マンガ交流史-マンガ制作の現場から->の出演者。
左から椎名ゆかりさん、タケダ・サナさん、内藤泰弘さん、堺三保さん

第一部とはうってかわって、第二部の前半は内藤泰弘さんと堺三保さんが自身のこれまでの読書体験の中から、アメコミのアーティストについてお互いに語り合う形で進行しました。その中に出て来た話題を時代別に並べ替えますと、

1.ロイ・リキテンシュタインの作品に代表されるような、それほど陰影の無い古典的なアメコミの絵柄があった

2.70年代にニール・アダムスのようなリアルな画風を用いるアメコミ作家が登場した

3.80年代にはジョン・バーンやフランク・ミラーのような独特のディフォルメを用いた画風が見られるようになった

4. それがより進むとトッド・マクファーレンやジム・リーのような、よりマンガ的なコマ割りやタッチを用いる作家が登場した (しかし、ジム・リーは韓国出身であることから、それを「マンガ的」と呼んでいいのか、という問題も語られました)

5.ゲーム会社カプコンのデザインチームの影響と共に、その後のジョー・マデュレイラ、クリス・バチャロ、ウンベルト・ラモスなどのもっと大胆にマンガ的なアートを取り込んだ作家達が隆盛を誇った

という大きな話の流れの中で、アメコミの表現形式の変遷が語られました。一見、マンガから影響を受けたように見えても、実はルーツはアニメだったりゲームだったりする、という指摘もありました。

左からタケダ・サナさん、内藤泰弘さん、堺三保さん

時系列の中で紹介しきれなかったアーティストとしては、レイニル・ユーやトラビス・チャレストがジム・リーとの影響関係の中で話題に上がり、アダム・ヒューズやジェフ・スコット・キャンベルの名前が女性キャラクターの描写の中で上がりました。

さらに第二部の後半は、日本でも誠文堂新光社から翻訳版が発売中の『モンストレス』のアートを担当されたタケダ・サナさんを中心に進行。タケダ・サナさんがこれまでに影響を受けた物として、先にカプコンのデザインチームのことも話題に上がった格闘ゲームや少年ジャンプと並んで、特に強い影響を受けたのは、柳瀬茂が描いた江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズ(ポプラ社)の表紙絵と挿絵という事でした。そしてこちらも挿絵画家として大変多くの作品を残した石原豪人についても語られました。

またゲーム会社のセガ(現セガゲームス)に在籍時代、フリーのイラストレーター時代を経てどのようにしてアメコミの仕事に携わるようになったのか、さらに『エックスメン・フェアリーテイルズ』、イメージコミックスの『ドレイン』、さらに『ミズ・マーベル』、そして『モンストレス』にいたるまでの経緯が話題に上りました。

その後、実際に使われなかった図版など珍しい画像を含めて、その後の『モンストレス』の創作活動について原作者とのやり取りを含めタケダ・サナさん本人から語られ、装飾的な画面の多い『モンストレス』を描きながらも「元々は模様を書くのが大嫌いだった」など意外な発言もありました。

マージョリー・リュウ作、サナ・タケダ画『モンストレス』Volume1(椎名ゆかり訳、誠文堂新光社、2017年)

シンポジウムの最後には来場者からの質問コーナーが設けられ、アメリカのマンガの出版形式についてなど様々な質問が投げかけられました。中でも内藤泰弘さんタケダ・サナさんに振られた「好きな事が何でも出来るとしたら、これから何をしたいですか?」といった質問に「寝て暮らしたい」という名回答が飛び出し、会場は和やかな雰囲気に包まれたままシンポジウムは閉会しました。

なおこのシンポジウムは、「”Mangaスタイル”の海外への伝播と変容」の科学研究費補助金の助成によるもので、4年間の研究の最終年度シンポジウム第1弾にあたるとのことで、第2弾の「研究編」は2019年3月に実施予定となっています。次回のシンポジウムにも大いに期待が寄せられるところでしょう。

About Author

うしおだ きょうじ

フリーのイラストレーター、一方でライター業などイラスト以外の仕事も多い。 新旧問わずマンガと名のつくものは大体好きで、マンガを読むのと散歩が日課。 海外のマンガとは何かと縁があって、子供の頃から良い付き合いをさせてもらっている。 ペット、引っ越し、ランニング、この3つの内どれか1つくらい何とかしたいと5年ほど前から計画中。 だけど計画するだけ。

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