マックス&モーリッツ賞2018、受賞者発表!

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6月1日現地時間8時30分に、マックス&モーリッツ賞、今年の受賞者が発表となりました!

さて、結果について触れる前に、今年のエアランゲン・インターナショナル・コミック・サロンについて少しだけ記してみたいと思います。

コミック・サロンが開かれる週、ドイツでは記録的な嵐が到来。会場設営中のエアランゲンでも、途方に暮れる姿が動画で紹介されています。

とはいえ、開催日は快晴で、コスプレ姿の人も見られます。よかったですね!

さらに6月1日現地時間夕方、発表の数時間前になって、公式Facebookが以下のような文章を発表しています。

私たちはどこでもリアルタイムにいられるわけではありません。Facebookで授賞式を中継しないことを決定しました。8時30分からのTwitterの更新をご覧ください!

……え! それまでライブ中継をする予定だったのかはわかりませんが、このポスト通り、現地時間8時30分から公式Twitterの更新が始まり、受賞者が発表となりました。

私が大好きなドイツ語の形容詞に「spontan」というものがあって、その場のノリで物事を決めたり、突発的に何かしたりするときに使うのですが、そんな言葉を思い出したりしました(ふふふ、嫌いじゃないです)。

お待たせしました! いよいよ、今年の受賞者についてご紹介していこうと思います。

受賞者一覧はこちらから。

最優秀ドイツ語漫画家賞(Bester deutschsprachiger Comic-Künstler)

ラインハルト・クライスト(Reinhard Kleist)

今年、『Nick Cave—Marcy on me(ニック・ケイヴ――慈悲をください)』でノミネートされていたクライストが最優秀漫画家賞を受賞しました。

ラインハルト・クライスト『ニック・ケイヴ――慈悲をください』(Reinhard Kleist, Nick Cave – Mercy on me, Reinhard Kleist, Carlsen Verlag, 2017)

タイトルにあるニック・ケイヴとは、実在するシンガーソングライター。オーストラリアで生まれ育った彼が、高校でパンクバンドを結成し、西ベルリンでバンド「ザ・バッド・シーズ」を率いることになる顛末を描いた伝記的グラフィックノベルです。

クライストは、1996年に伝記コミック『ラブクラフト』でマックス&モーリッツ賞を受賞して以来、アメリカの歌手ジョニー・キャッシュや、フィデル・カストロ、さらには、ボクサーとしての才覚を見出されアウシュヴィッツから生還しアメリカでプロボクサーとして活躍したHertzko Haft、女性にスポーツをすることを禁じるイスラム勢力から逃れる途中に亡くなったソマリアの陸上選手Samia Yusuf Omarなど、社会に翻弄されつつも強く生きる様々な人々について、多数のグラフィックノベルを描いてきました。白黒のエッジの効いた絵にこだわってきた作家です。おめでとうございます!

最優秀ドイツ語コミック賞(Bester deutscher Comic)

ウリ・ルスト(Ulli Lust)『Wie ich versuchte, ein guter Mensch zu sein(だから、いい人間になろうとしたんだってば!)』

ウリ・ルスト『だから、いい人間になろうとしたんだってば!』(Ulli Lust, Wie ich versuchte, ein guter Mensch zu sein, Suhrkamp Verlag, 2017)

前回の記事でも紹介したウリ・ルストの自伝コミックが、最優秀ドイツ語コミック賞を受賞しました!ウリ・ルストは既に2014年、最優秀漫画家賞も受賞しています。

審査員による講評では、彼女が、タブーをかなぐり捨てて女性による性の自己決定について描き、オルタナティブな家族や関係性について提示したことが高く評価されています。移民問題について触れていることでも、プラスの評価を受けました。

最優秀インターナショナルコミック賞(Bester internationaler Comic)

リアド・サトゥフ(Riad Sattouf)『Les Cahiers d’Esther(エステルの日記)』
※ドイツ語題:Esthers Tagebücher

リアド・サトゥフ『エステルの日記』(Riad Sattouf, Esthers Tagebücher, Reprodukt, 2017)

シャルリー・エブドで連載をした過去を持ち、『L’ARABE DU FUTUR(未来のアラブ人)』でアングレーム国際漫画祭金賞を受賞したリアド・サトゥフ。今回受賞したのは、パリに住む10歳の女の子を主人公に描いた短いコミックです。実際にリアドの友人の娘をモデルにしているそう。21世紀の西ヨーロッパに住むティーンエージャーの姿を、尊敬のまなざしを抱きながら描いている姿勢が評価されたそうです。フランスでは3巻(12歳)までが出版されています(ドイツ語は2巻までが既刊)。

最優秀ドイツ語コミック・ストリップ賞(Bester deutscher Comic-Strip)

ザラ・ブリニ(Sarah Burrini)『Das Leben ist kein Ponyhof(人生はポニー牧場じゃない)』

すでに10年間連載され3冊の本にまとまっている本作。ここ数年は、右傾化やフェイク・ニュース、セクシズムをテーマにし、現実世界とコミックとの橋渡しをしたことがコミック・ストリップとして高く評価されました。
自身のウェブサイトで更新しているようです。

最優秀児童漫画賞(Bester Comic für Kinder und Jugendliche)

イヴァ・レオン・メンゲル(Ivar Leon Menger)ヨーン・ベックマン(John Beckmann)原作、クリストファー・タウバー(Christopher Tauber)作画『 Die drei ??? – Das Dorf der Teufel(3人の???――悪魔の村)』

イヴァ・レオン・メンゲル、ヨーン・ベックマン原作、クリストファー・タウバー作画『3人の???――悪魔の村』(Ivar Leon Menger, John Beckmann & Christopher Tauber, Die drei ??? – Das Dorf der Teufel, Franckh Kosmos Verlag, 2017)

ヒッチコックの映画を下敷きにして60年代から刊行が始まり、計89巻を刊行した大人気シリーズ『Die drei???(英語版:3人の探偵)』のリバイバル。3人組の少年探偵団が、不明者を探して19世紀のようなアーミッシュの村に入り込む……というお話。対象年齢は10歳から! ここから試し読みができます

最優秀学生コミック出版賞(Beste studentische Comic-Publikation)

ザール美術学校(HBKsaar)『Paradies(パラダイス)』

ザール美術学校の共同制作です。近頃、ドイツ語圏のコミック制作についてはハンブルク大学応用科学科デザイン学部が一大牙城となっていましたが、フランス国境に近いザール美術大学でもコミックとグラフィックノベルに重点を置いた修士課程が設置されたようです。昨年の冬学期に開設されたばかりですが、さっそくの受賞となりました。

審査委員特別賞(Spezialpreis der Jury)

ポール・ドゥルエ(Paul Derouet)

ラインハルト・クライストやウリルスト、イザベル・クライツやバルバラ・イェリンなど、マックス&モーリッツの歴代受賞者をはじめとするドイツ語コミックスをフランス語へ多数翻訳し、紹介してきたデュルエに特別賞が与えられました。今回審査員を務めたイザベル・クライツは、今日のドイツ語コミックの繁栄は彼のおかげでもあると、賛辞を送っています。

読者賞(Publikumspreis)

オリヴァー・ミエルケ(Oliver Mielke)、ハンス・ラドケ( Hannes Radke)『NiGuNeGu(ニグネグ)』

モテない(?)男性たちを描いたウェブコミック。不思議なタイトルは3人の登場人物の属性を表す、Nice Guy(ナイスガイ)、Nerd(オタク)、Guru(グル)の頭文字だそうです(男性版セックス・アンド・ザ・シティ……?)。

1話はこちらからお読みいただけます

名誉賞(Sonderpreis für ein herausragendes Lebenswerk)

ジャン=クロード・メジエール(Jean-Claude Mézières)(『ヴァレリアン』他)

以上です。残念ながら日本人受賞者は出ませんでしたが、どのグラフィックノベルも興味深いですね。やはり目立ったのは#MeTooムーブメントの影響か否か、ジェンダーやフェミニズムに関する書籍でした。再来年の今頃は、どのようなテーマを持った候補作が生まれ、どのようなコミックが受賞するのか、今から楽しみにしています。


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About Author

山口 侑紀

1987年福島県生まれ。一橋大学社会学部在学中にハイデルベルク大学哲学部に派遣留学。一橋大学大学院言語社会研究科修士課程修了。2017年にドイツ語コミック『マッドジャーマンズ』を翻訳し、勤務先である花伝社より刊行。2018年日本翻訳大賞第二次選考作品ノミネート。

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