イタリア第2の漫画イベント「エトナ・コミックス」レポート

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エトナ・コミックスはシチリア第2の都市カターニアで開催されるイタリア有数の漫画イベント。8年目の今年は5月31日から6月3日まで開催されました。8年前は1館だけだったという会場も8つに増え(場所は初回から変わらず中央駅の横)、今年の来場者は8万人を突破。老舗ルッカ=LUCCA(ヨーロッパ最古の漫画祭で20万人規模)に次ぐ大きな漫画イベントに成長しました。開催時期には南イタリアを中心に各地から特別バスが運行され、コスプレ姿の若者達を満載したバスが続々とカターニアに集まってきます。

漫画学校や漫画家自身のブースも盛況

ヨーロッパの漫画祭は漫画だけでなく、アニメやゲームも対象になることが多いです。エトナでも最大館は1階が漫画、2階はグッズ、3階はメイドカフェやお好み焼き屋や日本語のカラオケ屋など「日本」色が色濃く、ちょっとパリのジャパンエキスポに近い印象でした。

会場内の様子

2階のグッズ販売フロア

閉店直後のメイドカフェ店内と看板

主催するのはANTONIO PENNISIさん(左)とTOSCANO DAUIDEさん(右)のお二人。他に正規スタッフだけで400人が携わっているとのこと。毎年日本からゲストを呼んでおり(過去には池田理代子先生、いがらしゆみこ先生等)、今年のゲストはセーラームーン・アニメで有名な松下浩美・只野和子ご夫妻でした。今後も日本からの招聘を実現しつつ、漫画に限定せず、幅広くやっていく方針だそうです。

ANTONIO PENNISIさん(左)と
TOSCANO DAUIDEさん(右)

漫画編集という自分の仕事がら僕が回ったのはもっぱら出版フロアでした。大手からはボネッリパニーニ、日本漫画に力を入れているスターコミックス等が出店していましたが、ルッカに比べて会場規模が小さい分、小規模会社が目立ってました。

EDIZIONI BD社はJ-POPレーベルで日本の漫画を続々出版しているのですが、イチオシはなんと上村一夫!! 個人的に日本の3大漫画家の一人と考えている上村氏をイタリアの出版社がプッシュしているのは非常に嬉しかったです。谷口ジローさんは日本よりヨーロッパで100倍評価されてますが、上村さんもそうなるのかもしれません。アングレーム受賞で話題の『ちいさこべえ』(望月ミネタロウ)もイタリアではここが出してます。

名作『凍鶴』と『同棲時代』を手に
写ってくれた同社のDaniel de Filippisさん

続いて、BECCOGIALLO社。こちらは「漫画によるジャーナリズム」を標榜する出版社。マフィアや移民、宗教などの問題をノンフィクション漫画として出版しているそうです。社員4人。イタリアには小さな出版社が多く、漫画家が自分で出版社を興すケースも少なくないようで、漫画がまだビジネスというより個人的な「好きなこと」として存在している気がします。今回いろいろ話をききながら採算とれてないんじゃないかなぁと思うこともありました。でもご本人達は楽しそうで目が輝いている。心配しつつも「いいなぁ」と思った次第です。

写真はジャーナリズム漫画として一番売れた本(マフィアを追求したジャーナリストのノンフィクションMarco Rizzo & Lelio Bonaccorso, Peppino Impastato – Un giullare contro la mafia)を手にする同社のGIACOMO JACK TRAINIさん。

GIACOMO JACK TRAINIさん

下の子供を抱いた女性が表紙の本は、2009年に実際に起きた事件を描いた作品。夫がマフィアだと警察に訴えた女性を警察が保護するも失敗、彼女は夫の組織に殺されてしまいます。その悲劇を実の娘が語って漫画化された本だそうです。すごすぎ。

Ilaria Ferramosca & Chiara Abastanotti, Lea Garofalo. Una madre contro la ‘ndrangheta, Becco Giallo, 2016

今回もっとも新鮮に感じた出版社がKASAOBAKE社。社長は若い女性のELENA TOMAさん(写真)。彼女自身が漫画家で、手にしているのは彼女が描いた作品です。

ELENA TOMAさん

もともと彼女は少女漫画家としてこの会社からコミックスを出していたのですが、前社長から「個人的事情で会社を続けられなくなった」と相談され、「これだけコンテンツを出している会社が消滅するのは惜しい」と思って社長を引き受けたのだそうです。出版社の社長が漫画家に会社を譲る!なんてノリは日本の出版界ではありえないのではないでしょうか。

この会社で特筆すべきは、イタリア初のオリジナルYAOI=BL漫画を出したこと。それが『BANANA? BANANA!』で、著者はもともと少年漫画を描いている女性漫画家。BLも好きなので描きおろしたそうです。部数的にはまだ数百部と少ない(イタリアの漫画は3000部売れたらヒットです)ものの、BL市場は広がっていくと話してました。現状ではBLより百合(ユリ)の方が市場は大きいそうです。

『BANANA? BANANA!』

同社と一緒にブースを使っていたMANGASENPAI(漫画先輩)社は、少女漫画や百合漫画を出している会社で、2社とも作家がブースに常駐してサインに応じていました。右に並ぶ2冊はヒットした百合漫画の合併版とのこと。同人誌のノリですね。

MANGASENPAI(漫画先輩)社のブース

イタリアの漫画出版は商業出版社と同人誌出版社が併存しているように感じました。その差が小さい。出版社は社長やスタッフが面白い!と思う本を出します。日本の漫画を翻訳出版する際の選択基準も、実売数より面白そうかを重視しているようです(そもそもヨーロッパの漫画市場が小さいことも影響しているのでしょう)。アメリカのダークホース社は社長が小池一夫ファンで小池漫画をどんどん翻訳出版していましたが、欧米には「趣味の延長としての漫画ビジネス」という潮流があるような気がします。

それにしても、もう少し漫画家や出版社が潤う状況になってほしい。日本の漫画や漫画市場が少しでもその助けになれたら素晴らしいと思います。

出版社コーナー以外にもテーマごと、ジャンルごとにいろんな館があり、ライブやトークショーもびっしり。家族館では子供向けの実験やカードゲームを楽しむコーナーなどが賑わっておりました。

トークショーの様子

カードゲームコーナー

子供向けの実験

最後に、カターニアで行われるイベント名がなぜ「エトナ」なのか? 実はエトナとはカターニア近郊にある火山の名前。エトナ山は古代ギリシア時代からたくさんの文献に登場し、ヨーロッパでは知名度抜群なのです。なので、開催場所をカターニアではなくエトナ山のふもとだと思っている人も多いらしい。そんなカターニア在住の日本人は少ないのですが、なんと第1回目から出店している日本人がいらっしゃいます。それがCASA DI SATOMI(聡美の家)で日本アニメグッズを販売している吉田聡美さん。エトナコミックスの生き字引ですね。

唯一の日本人出店者、吉田聡美さん

以上、世界中で漫画に関係するイベントが活況である、というご報告でした。

About Author

吉田 朗 / Yoshida Row

(株)シュークリーム代表。58年長岡市生まれ。『FEEL Young』や『CUTiE comic』でたくさんの女性漫画を編集した後、世界中のマンガ展やマンガ書店を訪ね歩く。アングレームやサンディエゴ等欧米アジアのイベントをずいぶん訪ねたが、行ってみたいイベントや書店はまだ無数にある。「好きなことに熱中する人」に接するのが好き。

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