講演「チェコ・コミックと出版、展示」レポート(2)

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展示

プロクーペックさんにとって、展示は、それまでコミックスに興味がなかった人たちに、コミックスを見てもらえるまたとない機会とのこと。チェコ・コミック界は狭い世界だそうで、重要な展示にはほとんどプロクーペックさんが関わっているそうです。

◆「ジェネレーション・ゼロ(Generace nula)」展、2007年

2000年以降、チェコには新しい作家が次々登場しましたが、発表の場がなかったり、部数が少なかったりして、あまり世間に知られていなかったそうです。「ジェネレーション・ゼロ」展は、そうした作家たちの仕事を紹介し、その存在をアピールする展示。チェコ第2の都市ブルノの小さな市立ギャラリーで最初の展示を行ない、その後、プラハ国立応用美術大学のより広いスペースでも展示されました。フランスのパリにあるチェコセンターでも展示されたそうです。

「ジェネレーション・ゼロ(Generace nula)」展

「ジェネレーション・ゼロ」展展示の様子

「ジェネレーション・ゼロ」展カタログ

◆「未知なるものからのシグナル(Signály z neznáma)」展、2012年

多くのチェコ人にとって、コミックスとはいまだ未知なるもの。そんな思いで作られたのがこの展示だそうです。パヴェル・コジーネクさんと一緒に監修を手がけ、ブルノで2番目に大きな会場で行われました。幸い、予算も潤沢で、凝った展示にできたとのこと。メディアで大きく取り上げられたこともあって、多くの人に見てもらうことができたそうです。カタログは、チェコ語だけでなく、なんと英語版も存在しています。ブルノからプラハに巡回しました。

「未知なるものからのシグナル(Signály z neznáma)」展

「未知なるものからのシグナル」展展示の様子

「未知なるものからのシグナル」展
カタログ英語版

◆「切断。接続!2007―建築とコミックス(Odpojeno. Spojeno! 2007 – Architektura a komiks)」展、2007年

建築と他分野とのつながりを模索する数年がかりの企画の一環。建築を学ぶ学生を対象にコンペを行ない、優秀作品を決め、それをもとに他の分野とのコラボを行なうというものだそうです。2007年は建築とコミックスのコラボで、プラハのチェコセンターで展示が行われました。

「切断。接続!2007―建築とコミックス(Odpojeno. Spojeno! 2007 – Architektura a komiks)」展

「切断。接続!2007―建築とコミックス」展に展示された作品

◆「コミックスにおけるブルノ(Brno In Comics)」展、2012年

ブルノ市からの依頼で、12人の作家が、ブルノのさまざまな場所を、コミックスで紹介していくというもの。できたばかりの市営プールを舞台にしたドラマがあったり、深夜バスの人間模様を描いた作品があったり……。地図付きのカタログが出版されています。この展示は、オランダのユトレヒトなど、ブルノの姉妹都市にも巡回したそうです。

「コミックスおけるブルノ(Brno In Comics)」

「コミックスおけるブルノ」展に展示された作品

◆「私たちはまだ戦争中(Ještě jsme ve válce)」展、2012年

第二次世界大戦に参戦した人たちと共産主義体制下で苦汁を味わった人たちの証言を集めた同題のコミックス・アンソロジーが最初に出版され、それをベースに作られた展示。戦争を知らない世代に、戦争体験者の実話を伝えたいという思いで開催したとのこと。チェコの国会でも展示され、当時の外務大臣も見てくれたそうです。展示が普段コミックスを読まない人にコミックスを届ける有効な手段であることを証明した好例と言えそうです。

「私たちはまだ戦争中(Ještě jsme ve válce)」展

「私たちはまだ戦争中」展に展示された作品

◆「ツェーゼット・コミックス(CZ.KOMIKS)」展、2014年

ブルノの大きなショッピングセンターで行われた展示。日本ではさほど珍しくないかもしれませんが、ショッピングセンターとコミックスが手を結ぶというのは、チェコでは珍しいそうです。ショッピングセンターをテーマに、12人の作家に4ページのコミックスを依頼したとのこと。ショッピングセンターには、それらの作品を用いた巨大な垂れ幕が設置され、キャラクターをあしらったラッピングバスも用意されました。プロクーペックさんにとって、商業施設と一緒に仕事をするのは初めてだったそうで、さまざまな面で貴重な体験ができたと仰っていました。ちなみに後で聞いたことですが、「ツェーゼット・コミックス(CZ.KOMIKS)」というのは、レポート(1)のフェスティバルの箇所で紹介したコンペティションのこと。この展示以前にもショッピングセンターと連携して、入賞者を中心にした小さな展示は行っていたそうですが、この年は、プロの作家も交えて、大きな展示を行なったのだそうです。

「ツェーゼット・コミックス(CZ.KOMIKS)」展

「CZ.KOMIKS」展会場のショッピングセンターの様子

チェコ・コミックをめぐる出版物

2000年以降、プロクーペックさんたちが行ってきたこれらの活動が身を結んで、チェコでは、コミックスに対する理解が徐々に増しつつあるそうです。今では、コミックス研究に対する助成も下りるようになってきているとのこと。プロクーペックさんご自身、そうした研究活動にも関わっているそうで、彼自身が関わった2つの研究を紹介してくださいました。
※邦題は原が勝手につけたもの

◆『20世紀チェコスロバキア・コミックス史』(Tomáš Prokůpek, Pavel Kořínek, Martin Foret, Michal Jareš, Dějiny československého komiksu 20. Století, Akropolis, 2014)

トマーシュ・プロクーペックさん、パヴェル・コジーネクさんを中心とした4人の研究者チームが3年を費やして作った、1900年から2000年まで1世紀におよぶチェコ・コミック史。全2巻+別冊1巻の3巻セット本。合計1000ページ、7㎏にもなるそうです。著名なデザイナーがデザインを手がけ、チェコで有名な本の賞にノミネートもされ、評価の高い研究書とのこと。

『20世紀チェコスロバキア・コミックス史』(Dějiny československého komiksu 20. Století)

 

◆『コミックス以前―19世紀後半チェコ国内における絵物語の形成』(Tomáš Prokůpek, Martin Foret, Před komiksem – Formování domácího obrázkového seriálu ve 2. polovině XIX. století, Akropolis, 2016)

上記の研究書が1900年以降のチェコ・コミックを扱っているのに対し、1900年以前のコミックスに焦点を当てたのがこちら。チェコには、コミックスの前身が19世紀の半ばくらいからあるそうです。日本でも近年、ヨーロッパのマンガの元祖として、ロドルフ・テプフェールが紹介されていますが、その辺りとの関係はどうなっているのか、とても気になる本です。また、本書は、チェコで出版された美しい本に与えられる賞で、見事3位を受賞しているそうです。

『コミックス以前―19世紀後半チェコ国内における絵物語の形成』(Před komiksem – Formování domácího obrázkového seriálu ve 2. polovině XIX. století)

講演本編はこれにて終了。最後に質疑応答の時間がかなり長く設けられ、2000年代以降活躍している作家たちは、大学で学んだ人たちが多いのか、現代の作家たちは、政治・社会問題を積極的に扱っているのか、チェコ国外で仕事をする作家は多いのか、おすすめのコミックス書店はあるか、コミックス専門の編集者はどれくらいいるのか、などなど、会場から興味深い質問が次々と投げかけられました。

質問に答えるプロクーペックさん(左)
通訳の高嶺エヴァさん(チェコセンター東京)(右)

米沢嘉博記念図書館での「~日本におけるチェコ文化年2017~チェコ・コミックの100年展」は、2018年1月28日(日)で閉幕しますが、引き続き、1月29日(月)から2月28日(水)にかけて、東京のチェコセンターで、「チェコ・コミックの100年~歴史の中のコミック・コミックの中の歴史」展が開催されます。開幕初日の1月29日(月)には、トマーシュ・プロクーペックさんとパヴェル・コジーネクさんによる「オープニング記念講演会」(要事前申込。詳しくは同展の紹介ページを参照のこと)が行われ、2月16日(金)には、米沢嘉博記念図書館の展示にも関わったジャン・ガスパール・パーレニーチェクさん(パーレニーチェクさんについてはこちらを参照のこと)をゲストに招き、チェコの伝説的作家カーヤ・サウデックも関わった映画『ジェシーを狙うのは誰だ?』の上映会(要事前申込。詳しくはリンク先を参照のこと)が行われるとのこと。米沢嘉博記念図書館での展示を訪れた人も、訪れていない人も、この機会にぜひ足を運んでみてください。

「チェコ・コミックの100年~歴史の中のコミック・コミックの中の歴史」展チラシ表

「チェコ・コミックの100年~歴史の中のコミック・コミックの中の歴史」展チラシ裏


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About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

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