講演「チェコ・コミックと出版、展示」レポート(1)

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チェコ・コミックと出版、展示
日時:2018年1月21日(日)16:00-17:30
場所:米沢嘉博記念図書館
出演:トマ-シュ・プロクーペック(モラヴィア美術館研究員/Analphabet Books代表)

米沢嘉博記念図書館で2017年9月29日(金)から4期にわけて展示されてきた「~日本におけるチェコ文化年2017~チェコ・コミックの100年展」が、2018年1月28日(日)でいよいよ閉幕します。約4カ月にわたって行われた本展は、これまで日本ではまったくと言っていいほど知られていなかったチェコ・コミックの全体像を提示してくれた、実に画期的な展示でした。

第4期の展示の様子1

第4期の展示の様子2

去る1月21日(日)には、本展監修者のおひとりトマ-シュ・プロクーペック(Tomáš Prokůpek)さんによる講演「チェコ・コミックと出版、展示」が行われました。2017年10月14日(土)にも本展監修者パヴェル・コジーネク(Pavel Kořínek)さんの講演が行われていて、そのときのテーマは、「チェコ・コミック通史-20世紀を生き抜いたチェコ・コミック-」(レポートはこちら)。今回は、1990年代以降から現在にいたるまでのチェコ・コミックを、さまざまなイベントや展示、研究と併せて紹介してくださいました。以下にその概要をお届けします。

講師のトマ-シュ・プロクーペックさんは、モラヴィア美術館研究員であると同時に、チェコ共和国の第2の都市ブルノに本拠を置く出版社で、ある意味現代チェコ・コミックを象徴する雑誌『AARGH!』の版元でもあるAnalphabet Books(アナルファベット・ブックス)の代表。通訳は、前回同様、チェコセンター東京所長の高嶺エヴァさんが務めてくださいました。

講師のトマ-シュ・プロクーペックさん(左)
通訳の高嶺エヴァさん(チェコセンター東京)(右)

チェコ・コミックの現在

簡単な挨拶に続いて、さっそくチェコ・コミックの現状が語られていきます。チェコの人口は、約1000万人。日本と比べると、はるかに市場規模は小さく、しかも、チェコ・コミックは複雑な政治的背景のために、歴史上何度も伝統が中断してしまうという困難に見舞われました。しかし、1989年のビロード革命以降、浮き沈みはあったものの、徐々に発展を遂げ、今や黄金期と言っていい状況を迎えたのだそうです。とはいえ、専業のコミックス作家として生計を立てている人は、5人程度。残りは、他の仕事をしながら、あるいは趣味として創作に励んでいるのだとか。コミックスの雑誌もありますが、チェコ・コミックの多くが単行本として世に出るそうで、年間10~15人の作家の本が出版されるそうです。コミックス単体では必ずしも採算が取れるわけではなく、テレビなどの他のメディアと連携したり、何らかの助成金を得て、出版を行なっているとのこと。

スクリーンに映っているのが、テレビと連携したという作品

『コメタ(Kometa)』から『AARGH!』へ

1989年に創刊された雑誌『コメタ(Kometa)』は、大変な人気を博し、25万部もの部数を誇りました。25万部という数字は、チェコの出版界では、相当なものなのだとか。民主化をきっかけに、チェコ・コミック界は活気づき、さまざまな出版社が乱立、一気に飽和状態を迎えます。その結果として、1992年には売り上げが急落。1990年代半ばには、再び市場からコミックスがなくなってしまいました。こうした状況を救ったのが、アメリカ、イギリスのコミックスの翻訳。これらのおかげで、1990年代末には、コミックスの人気が再燃したとのこと。そのときに重要な役割を果たしたのが、雑誌『クレフ(CREW=“血”の意)』でした。これらの新しい潮流は、チェコの若い作家たちにも影響を与えます。ところが、創作意欲に燃えた若い作家たちが作品を発表する場が、チェコにはありませんでした。こうして、プロクーペックさんらは、2000年に『AARGH!』というファンジンを出版します。当初はモノクロでしたが、刊行のタイミングがよかったのか、徐々に売れ始め、また、文化省やブルノ市の助成を得ることができ、現在はオールカラーで出版されています。『AARGH!』は、若いチェコ人作家たちに作品発表の場を提供する一方で、チェコ・コミックを相対化する意味でも、東欧の周辺諸国の作家たちにも門戸を開いているのだとか。作家インタビューやチェコ・コミックの歴史を振り返る記事が充実しているのも、この雑誌の特徴だそうです。『AARGH!』以外では、『キックス(KIX)』というオルタナ系の雑誌がある一方で、日本のマンガに影響を受けた若い作家たちが作った『ヴィエイーシュ(Vějíř=“扇”の意)』というものもあるのだとか。ちなみに、日本のマンガ・アニメのファンは、1990年代頃からいたものの、マンガの本格的な翻訳が始まったのは、ここ数年のことだそうです。

『コメタ(Kometa)』

『クレフ(CREW)』

『AARGH!』。発音は好きなようにしてもらっていいそうだが、敢えて読むのであれば、「アールグ」とのこと

『ヴィエイーシュ(Vějíř)』

フェスティバル

チェコには、春に開催される「クルベコン(CRWECON)」、秋に開催される「コミックフェスト(KomiksFEST!)」という2つの重要なフェスティバルがあるそうです。特にコミックフェストは、プロクーペックさんが関係しているフェスティバルで、オルタナティブ・コミックスにも目配りしたものだとか。展示、講演会、物販、コスプレと、内容は他の国のフェスティバルでもおなじみのもの。「ミュリエル賞(Cena Muriel)」という賞も設けられているとのこと。あいにくこのフェスティバルは、2年前に幕を閉じてしまったそうですが、ミュリエル賞は存続しているそうです。また、現在は、コミックフェストに代わるフェスティバルを開催できないか、模索中とのこと。近いうちに新たなフェスティバルが生まれるかもしれません。ちなみに、この2つのフェスティバル以外にも、規模の小さなフェスティバルが、さまざまな都市で開催されているそうです。日本のマンガやアニメに特化した「アニメフェスト(Animefest)」というフェスティバルもあって、かなりの動員数を誇っているとのこと。コスプレイヤーが多いのも特徴だそうです。いわゆるフェスティバルとは異なりますが、類似のものにコミックスのコンペティションがあるそうです。「ツェーゼット・コミックス(CZ.KOMIKS)」は学生向けのコンペティションで、毎年最優秀賞が2名選ばれ、彼らはご褒美にフランスで毎年1月末に行われるアングレーム国際漫画フェスティバルに招待されるのだとか。

2010年の「コミックフェスト(KomiksFEST!)」(左)と2015年の「クルベコン(CRWECON)」(右)のポスター

「コミックフェスト」の様子

「アニメフェスト(Animefest)」

「アニメフェスト」に参加したコスプレイヤーたち

次回に続きます。


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About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

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