チェコ・コミックとゆかりの深いチェコ映画「ジェシーを狙うのは誰だ?」鑑賞レポート

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米沢嘉博記念図書館で行われた「~日本におけるチェコ文化年2017~チェコ・コミックの100年展」に続き、1月29日(月)から2月28日(水)にかけて、東京のチェコセンターで、「チェコ・コミックの100年~歴史の中のコミック・コミックの中の歴史」展が開催されています。

去る2月16日(金)には、同展に関連して、1966年に公開されたチェコ映画『ジェシーを狙うのは誰だ?』の上映が行なわれました。実はこの作品、チェコ・コミックと特別な関係を持った作品なんです。

会場になったチェコ共和国大使館は広尾駅から徒歩10分くらいの場所にあります。

チェコ共和国大使館

上映前に、まずはチェコセンター東京所長の高嶺エヴァさんと今回の展示の監修協力を務めたジャン・ガスパール・パーレニーチェクさんから、簡単な挨拶がありました。パーレニーチェクさんは、日本人の奥様と一緒に『ジェシーを狙うのは誰だ?』の字幕翻訳も手がけられた、本作の翻訳者でもあります。

ジャン・ガスパール・パーレニーチェクさん(右)
高嶺エヴァさん(左)

パーレニーチェクさんによると、『ジェシーを狙うのは誰だ?』は、1966年に公開。一般上映前に、トリエステ映画祭とロカルノ映画祭で上映され、前者では、グランプリに相当する金のアステロイド賞を、後者ではマック・セネット賞を受賞しているとのこと。その後、チェコ国内で一般上映されるや、大ヒット。海外での上映も決まります。その数30カ国。アメリカやオーストラリア、アラブ諸国でも公開されたことがあるそうです。上映当時は、なんとシャーリー・マクレーンとジャック・レモンのキャストで、ハリウッド・リメイクの話まであったとか。日本で一般上映されたかは不明だそうですが、2010年にチェコ大使館にて英語字幕で、同年8月の第49回日本SF大会TOKON10では日本語字幕付きで上映された模様。

と、ここまで話されて、映画の上映が始まりました。

改めて、映画『ジェシーを狙うのは誰だ?』の基本情報は以下の通りです。

『ジェシーを狙うのは誰だ?』の最初のポスター案

最終的に採用されたポスター

原題:KDO CHCE ZABÍT JESSII?
監督:ヴァーツラフ・ヴォルリーチェク
主な出演者:イジー・ソヴァーク(インドジッヒ・ベラーネック教授役)、ダナ・メドジツカー(ルージェナ・ベラーネック教授役)、オルガ・ショベロヴァー(ジェシー役)、ユライ・ヴィシュニー(スーパーマン役)、カレル・エファ(ガンマン役)
公開:1966年
上映時間:81分

ストーリーは以下のような感じで展開していきます。

インドジッヒ・ベラーネックとルージェナ・ベラーネックは科学者の夫婦。おっとりして夢見がちな夫インドジッヒは、妻ルージェナの尻にしかれている。ルージェナは科学者としても有望で、悪夢を快適な夢にすり替えるという画期的な血清を発見したところ。悪夢を見ている本人にそれを注射をすると、たちどころに快適な夢が訪れるのだ。ところが、ルージェナの、その世紀の発見は、消えたはずの悪夢を現実世界に招きよせてしまう代物だった。ある晩、ルージェナは、夫婦仲がうまくいかないことから、腹立ちまぎれに夫のインドジッヒが眠っているすきに彼に注射をしてしまう。インドジッヒは、日中にコミックスを読んだ影響か、スーパーマン風の超人とガンマンに追われる美女の悪夢にうなされていた。やがて、コミックスそっくりの美女とスーパーマンとガンマンが、インドジッヒの夢の中から現実世界に闖入し、プラハと思しい町を大混乱に陥れる……。

上映が終わると、高嶺エヴァさんの通訳のもと、ジャン・ガスパール・パーレニーチェクさんによる作品解説と質疑応答が行われました。監督、俳優、当時の社会情勢、映画とチェコ・コミックの関係などなど、たいへん興味深い内容でした。

Comic Street的には、特に、映画とチェコ・コミックの関係に注目しないわけにはいきません。この作品は、始まるとまずオープニング・クレジットが流れるのですが、それがアニメーション風の演出をほどこされたコミックスで構成されています。そして、この絵を担当しているのが、チェコの伝説的なコミックス作家カーヤ・サウデック(Kajá Saudek)なのです。

カーヤ・サウデックが担当したオープニング・クレジットがこちら。

当時、カーヤ・サウデックはジェシー役のオルガ・ショベロヴァーと交際していたんだとか。サウデックは、彼女の紹介で、この映画の脚本家ミロシュ・マツォウレクと知り合います。マツォウレクは監督のヴァーツラフ・ヴォルリーチェクと以前からコミックス的な世界観の映画を撮ろうと相談していたそうで、こうして『ジェシーを狙うのは誰だ?』にサウデックが参加することになったそうです。ちなみに、当時、サウデックは、なんと牢獄に入っていたんだとか。掘り下げるといろいろ楽しそうですが、その話はいずれまた別の機会に。なお、『ジェシーを狙うのは誰だ?』の脚本家ミロシュ・マツォウレクとは、カーヤ・サウデックのコミックスの代表作『ミュリエルと天使たち(Muriel a andělé)』(1969年)の脚本を務めた人物でもあります。いろんなことがつながっているんだなあ。

映画の中にはコミックスそのものも登場します。それを描いているのももちろんカーヤ・サウデック。

カーヤ・サウデックが映画の冒頭のために描いたひとコマ

映画では、主人公のインドジッヒがそのコミックスを読んだばかりに、ドタバタ騒動が始まってしまいます。インドジッヒの夢に登場した彼らは、ルージェナの血清の力を借りて、現実世界に現れます。ところが、元々コミックスの住人である彼らは、言葉をしゃべることができません。彼らの会話は、常にフキダシの中の言葉の形で表現されます。

コミックスの登場人物がフキダシの言葉でしゃべるというのは、面白いアイディアですが、チェコ・コミックにおけるフキダシの位置づけを考えると、感慨深いものがあります(チェコ・コミックにおけるフキダシの位置づけについては、例えばこちらを参照のこと)。

1966年公開の古い映画ですが、『ジェシーを狙うのは誰だ?』は、今見ても、ポップで都会的なセンスに溢れた愉快でかわいらしい作品です。なんと言っても、スーパーマンとガンマンの暴れっぷりが実に痛快。そして、ジェシー役のオルガ・ショベロヴァーの美しいこと! チェコのブリジット・バルドーと呼ばれているそうですが、それも納得の魅力です。公開当時、「プラハの春」(1968年)はまだ訪れていませんが、既に雪解けムードはあったとのこと。映画全体から、そのウキウキした感じが伝わってきます。チェコではもちろん今でも人気の作品で、何度もソフト化しているのだとか。いつか日本でもソフト化される日が来るといいですね。

チェコのブリジット・バルドーことオルガ・ショベロヴァー

上映会が終わると、既に21時頃になっていましたが、特別に「チェコ・コミックの100年~歴史の中のコミック・コミックの中の歴史」展を見せてもらうことができました(普段は平日10時から17時まで)。

「チェコ・コミックの100年~歴史の中のコミック・コミックの中の歴史」展の様子

雑誌や単行本もたくさん展示されています

原画もたくさん

ニッカリンの原画

同展は、2018年2月28日(水)まで絶賛開催中ですので、まだご覧になっていない方はぜひお時間を作って、訪れてみてください。


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About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

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