海外コミック読書ガイド:第5回「LGBT編」レポート

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11月3日(土)、そごう千葉ジュンヌ館3Fの16の小さな専門書店内シアター駒鳥座で、恒例の海外コミック読書ガイドが行われました。早いものでもう5回目。今回のテーマは「LGBT」です。

海外コミック読書ガイド:第5回「LGBT編」
日時:2018年11月3日(土)15時~17時
会場:16の小さな専門書店内 シアター駒鳥座(そごう千葉ジュンヌ館3F)

会場の16の小さな専門書店内シアター駒鳥座は普段ミニシアターとして使用されていて、イベント開催日近辺はアブデラティフ・ケシシュ監督の映画『アデル、ブルーは熱い色』が上映されていました。

シアター駒鳥座の外観

入口前の平台には今回主に取り上げた4作品が

イベントは15時少し過ぎにスタート。今回は、鈴木毅さん(店長)、山口侑紀さん(編集者)、椎名ゆかりさん(翻訳家)、そして原の総勢4名が登壇しました。

会場の様子

まずは16の小さな専門書店店長の鈴木さんからご挨拶。LGBT関係の海外マンガはいくつか翻訳出版されていますが、映画の場合と異なり、少なくとも翻訳されたものに関しては、意外とゲイをテーマにしたものが少ないことなどを説明してくださいました。エマニュエル・ルパージュ『ムチャチョ』(大西愛子訳、飛鳥新社、2012年)、ヴィヴェック・J・ティワリー、アンドリュー・C・ロビンソン、カイル・ベイカー『ザ・フィフスビートル ブライアン・エプスタインストーリー』(奥田祐士訳、ジュリアンパブリッシング、2015)ぐらいでしょうか?

今回主に取り上げた4作品と
参加者に配布された資料

挨拶に続いて、そのまま鈴木さんがジュリー・マロのバンド・デシネ『ブルーは熱い色』(関澄かおる訳、DU BOOKS、2014年)を紹介してくれました。この作品は上でも少し触れましたが、アブデラティフ・ケシシュ監督によって映画化され、『アデル、ブルーは熱い色』というタイトルで日本でも公開され、話題を呼びました。鈴木さんはバンド・デシネ版とこの映画版を比較しつつ(キャラクターの印象や設定の違い、時代設定の違い、映画版で採用されたシーン・採用されなかったシーン、映画版におけるサルトルへの言及、ボーヴォワールへのほのめかしなど)、両者の魅力を語ってくれました。参考になる関連書として鈴木さんが紹介してくれたのが、プラド夏樹『フランス人の性 なぜ「#MeToo」への反対が起きたのか』(光文社新書、2018年)。この本を読んで改めて作品に触れてみると、また印象が変わってくるかもしれません。

ジュリー・マロ『ブルーは熱い色』(関澄かおる訳、DU BOOKS、2014年)

続いて、花伝社の編集者でありビルギット・ヴァイエ『マッドジャーマンズ ドイツ移民物語』の翻訳者でもある山口侑紀さんが、ステファン・セジク『サンストーン』(上田香子訳、既刊3巻、誠文堂新光社、2018年~)を紹介してくれました。「彩色耽美のオトナ百合アメコミ! /「LGBTQ」と「BDSM」を描く、ちょっとエッチなロマンティックラブストーリー」という誠文堂新光社のホームページでの紹介に、読む前は正直ちょっと構えたそうですが、作中の言葉を使えば、本書は「あるレベルでは性に偏った話だけど、一方では人間の本質に関する話でもある」(Vol.1、P5)とのこと。山口さんは、巻が進むごとに増えていく人間関係の複雑な相関図を手書きでまとめつつ、本書がいかに性的関係を通じて結びついた人間同士が趣味を分かち合う真の友人同士になる物語であるかを説明してくださいました。男女の交際についての考察など、本書にはその他にも示唆に富むさまざまな個所が見受けられるそうです。

ステファン・セジク『サンストーン』(上田香子訳、既刊3巻、誠文堂新光社、2018年~)

ここでしばらく休憩。休憩後は原が、ティリー・ウォルデン『スピン』(有澤真庭訳、河出書房新社、2018年)を紹介しました。本書は、少女時代に12年間にわたってフィギュアスケートとシンクロナイズドスケートに励んだ作者ティリー・ウォルデン自身のアイデンティティの確立を描いた自伝的グラフィックノベル=グラフィック・メモワールで、必ずしもLGBTのテーマが中心というわけではありません。部活動に支配されていると言ってもいいような日常や、新しい環境に身を置いたときの不安や気恥ずかしさ、緊張感がとても丁寧に描かれていて、基本的には多くの日本人にとっても共感できる普遍的な物語と言っていいでしょう。それでも、カミングアウトの場面が約10ページにわたって展開されるなど、LGBTのテーマが重要であるのも事実で、そういった要素を拾いつつ、本書の魅力をお話ししました。

ティリー・ウォルデン『スピン』(有澤真庭訳、河出書房新社、2018年)

続いてアメリカのコミックスの翻訳をされている椎名ゆかりさんが、ご自身の翻訳であるアリソン・ベクダル『ファン・ホーム~ある家族の悲喜劇[新装版]~』(小学館集英社プロダクション、2017年)について紹介してくれました。『ファン・ホーム』もティリー・ウォルデンの『スピン』と同じくグラフィック・メモワールと呼ばれる自伝的な作品ですが(出版されたのは『ファン・ホーム』のほうが先です)、ティリー・ウォルデンが「思い出をわかちあうためでは断じてなく、感情をわかちあうため」(『スピン』あとがき)に資料に当たらずに描いたのに対し、アリソン・ベクダルは、偏執的なまでにありとあらゆる資料を調べ上げ、自分の過去を客観的に構築してみせたのだとか。訳者の椎名さんによれば、ほれぼれする構成がこの作品の魅力のひとつで、一見複雑で、時に行き当たりばったりに見えますが、各章ごとにテーマがあり、それを象徴する文学作品が的確に配置されているそうです。LGBTのテーマに関しては、作者のアリソンと父親のカミングアウトをめぐる考え方やリアクションが極めて対照的に描かれていて、さまざまなことを考えさせます。『ファン・ホーム』については、Comic StreetでもCJ・スズキさん、小野耕世さんがそれぞれレビューを書き、さらに10月13日(土)に行われた海外マンガ読書会で取り上げ、そのレポートを公開していますので、ぜひご覧になってください。

アリソン・ベクダル『ファン・ホーム~ある家族の悲喜劇[新装版]~』(椎名ゆかり訳、小学館集英社プロダクション、2017年)

『ブルーは熱い色』、『サンストーン』、『スピン』、『ファン・ホーム』の4作品をひと通り紹介した後は会場から質問を募りました。さまざまな質問が寄せられ、その流れの中で4作品以外のさまざまな日本のマンガ、邦訳・未邦訳の海外マンガをご紹介しました。以下の写真はそのうちの一部です。

紹介されたLGBT関連の海外マンガ
その1

紹介されたLGBT関連の海外マンガ
その2

17時を過ぎたところで海外コミック読書ガイド:第5回「LGBT編」は終了となりました。次回はまだ未定ですが、年明けに開催することになるかと思います。詳細が決まり次第、このComic Streetでもお知らせいたします。

アマゾンで購入:
『ブルーは熱い色』
『サンストーン』Vol.1
『サンストーン』Vol.2
『サンストーン』Vol.3
『スピン』
『ファン・ホーム~ある家族の悲喜劇[新装版]~』


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About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

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