「チェコ・コミックの100年展―100 Years of Czech Comics」第2期訪問レポート

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2017年9月29日(金)から明治大学 米沢嘉博記念図書館で行なわれている「~日本におけるチェコ文化年2017~チェコ・コミックの100年展」については既にご紹介しましたが、同展第1期は既に終了し、10月27日(金)から11月20日(月)にかけて、第2期が開催中です。

「チェコ・コミックの100年展」第2期全体像

第2期のテーマは「チェコ・コミック 1945年以前―チェコ絵物語とコミックの誕生―」で、並行して、現代作家のカレル・イェリエ(Karel Jerie)の原画が6点展示されています。

今回は、本展のコーディネーターのジャン・ガスパール・パーレニーチェク(Jean-Gaspard Páleníček)さんに、個人的なチェコ・コミックへの思い入れと本展第2期の見どころをうかがいました。

ジャン・ガスパール・パーレニーチェクさん

ジャン・ガスパール・パーレニーチェクさんは、株式会社イデッフとともに、本展のコーディネーターを務めておられますが、それだけでなく、作家、詩人、翻訳家といったさまざまな顔を持つ才人。若い頃には役者をしたり、作曲を学んだりもしていたそうですが、なんとお祖父さんが有名なピアニスト・作曲家で日本でも知られるヨゼフ・パーレニーチェクなのだとか。ジャン・ガスパールさんは、2007年から2017年までチェコセンター・パリで働かれ、チェコとフランスの架け橋となる文化イベントをたくさん手がけてこられました。今回の展示は、その経験や人脈を活かしたものとなっているそうです。

実はパーレニーチェクさんは、フランスとチェコのハーフ。20代前半まではチェコのプラハ中心、それ以降はフランスのパリ中心に生活し、その間、2つの都市を頻繁に行き来してきたとのこと。半分フランス人のパーレニーチェクさんにとって、コミックス=バンド・デシネは、幼い頃からごく当たり前のものだったそうです。パリの家族や親戚の家には、『アステリックス』『タンタンの冒険』『ラッキー・ルーク』といったおなじみの作品が、必ずと言っていいほど揃いで置いてあったのだとか。ところが、同じ頃、チェコのコミックスと言えば、まずは『四つ葉(Čtyřlístek)』(『四つ葉』についてはこちらを参照)で、あとは子供向けの雑誌に単発のページや連載が少しあった程度。バンド・デシネに馴染んでいたパーレニーチェクさんにとって、チェコのコミックスはさほど魅力的には感じられなかったそうですが、それでも、1930年~40代に出版されたオンドジェイ・セコラの作品を集めたアンソロジーを1980年代に知り、こんなにすばらしいものがあるのかと驚いたそうです。一番のお気に入りは、『アニムク船長アフリカに行く(Kapitán Animuk loví v Africe)』というシリーズだったそうです。1989年の民主化以前は、チェコでは西側のコミックスやバンド・デシネは原則禁じられていたのだそうですが、共産主義系のバンド・デシネ誌『ピフ・ガジェット(Pif Gadget)』だけは例外で、フランス語版がそのままチェコで売られていたのだとか。そして、そこに掲載された作品のいくつかは、チェコの雑誌に翻訳され、掲載されたこともあるそうです。

オンドジェイ・セコラのアンソロジー本『楽しいシリーズ作品集(Veselá knížka seriálů)』

『アニムク船長アフリカに行く(Kapitán Animuk loví v Africe)』の一篇

1989年、「ビロード革命」が起き、チェコは民主化します。それまで抑圧されていただけに、チェコ・コミックをめぐる状況は一変。国内のオリジナル作品も海外からの翻訳も急激に増えます。それは言わば、多幸感に酔いしれていた時代で、明らかな供給過多もあり、1990年代半ばには市場規模が劇的に縮小してしまいました。ところが、悪いことばかりではなく、1990年代に国内外のさまざまなコミックスを吸収して成長した若い作家たちが、2000年代になって一気に開花したのだとか。2001年以降、主にパリに滞在し、2007年からはチェコセンター・パリで働くことになったパーレニーチェクさんは、祖国に胚胎したこの若い作家たちの新しい運動を応援すべく、フランスで展覧会の企画を立ち上げます。それは、2009年の「ジェネレーション・ゼロ―チェコ・コミックのヌーヴェル・ヴァーグ(Génération zéro La nouvelle vague de la bande dessinée tchèque)」展に結実しました。ちなみにパーレニーチェクさんは、オンドジェイ・セコラ『ありのフェルダ』のフランス語版の翻訳者でもあるそうです。

チェコ・コミックのヌーヴェル・ヴァーグ作家たちの作品が並べられた陳列ケース

現在開催中の「~日本におけるチェコ文化年2017~チェコ・コミックの100年展」は、元々アングレーム国際漫画フェスティバルでの展示を目標に企画されたものだったそうですが、諸般の事情で行われず、さまざまな巡り合わせの結果、日本の米沢嘉博記念図書館で開催されることになったとのこと。パーレニーチェクさんによれば、24枚の原画と250冊にも及ぶ本を紹介する、これだけの規模の展示は、チェコ国外では初めてだそうで、マンガが盛んな日本で、このような展示を開催することができて、とてもうれしいそうです。

さて、その「チェコ・コミックの100年展」第2期のテーマは、「チェコ・コミック 1945年以前―チェコ絵物語とコミックの誕生―」。特集として『プンチャ(Punťa)』(1934年~)と『リフレー・シーペ(Rychlé šípy:速い矢)』(1938年~)が特にフィーチャーされていますが、それ以前の作家・作品や『プンチャ』、『リフレー・シーペ』周辺の作家・作品も紹介されていて、コンパクトでありながら、非常に情報量が多い展示になっています。

20世紀初頭に雑誌に掲載されたカレル・ラディスラヴ・トゥーマの「ネズミたちが子猫たちに勝った」

ヨゼフ・ラダの「フランチーク・ヴォヴィーセックとヤギのボベシュのいたずら」

オンドジェイ・セコラ「ありのフェルダ」

特集1の『プンチャ(Punťa)』。1930年代後半に爆発的な人気を誇り、コミックスだけでなく、グッズや演劇など、さまざまな展開が行われた作品だそうですが、往時の人気と比べると、現在のチェコでは忘れられた存在になっているとのこと。今後の研究・復刻の動きに期待です。

『プンチャ』表紙

『プンチャ』コミックスページ

“プンチャ”とは写真に写っている犬のキャラクターで、元々はある婦人雑誌にコミックスが掲載され、その後、人気を博して同名の雑誌が登場したそうです。雑誌の中にはプンチャを主役にした作品だけでなく、別の作品も掲載されていますし、記事もかなりの割合を占めています。

『プンチャ』のコミックスページ
パーレニーチェクさんの私物

『プンチャ』の記事ページ
左上にプンチャの演劇版の写真が
パーレニーチェクさんの私物

特集2の『リフレー・シーペ(Rychlé šípy:速い矢)』。5人の男の子たちのボーイ・スカウト的とも言えそうな活動(冒険をしたり、ハイキングをしたり、ネイティブ・アメリカンの真似事をしたり…)を描いた作品で、当時、大人気を博し、多くの模倣作を生んだとのこと。「リフレー・シーペ(速い矢)」というタイトルがずっと謎だったのですが、パーレニーチェクさんによると、グループの中の3人の男の子たちが競争に参加する場面があるそうで、“矢のように速く”走った彼らに、ある少女が矢を刺繍した旗を贈るのだとか。こうして、“速い矢”というのが、彼らのネーミングとなったのだそうです。この作品のチェコ・コミック史における意義は、フキダシの使用にあります。

1941年の『リフレー・シーペ』の1ページ

1968年に復活した『リフレー・シーペ』

個人的に今回の展示で刺激的だったのは、『プンチャ』の産みの親レネー・クラパッチ(René Klapač)です。この作家はチェコ人なのですが、1905年にパリで生まれ、その後、アメリカで育ったという根っからの国際派。『プンチャ』で活躍する前にはフランスでも作品を発表していて、今回、それらの一端も展示されています。レネー・クラパッチは、その経歴のこともあり、パーレニーチェクさんも大いに気になっている作家だそうで、今回展示はされていませんが、好きだという作品を教えてくれました。

フランスの新聞に掲載されたルネ・クラパッチの「ウィディー・ビディ」

パーレニーチェクさんがクラパッチ作品で一番のお気に入りだという「アヒル探偵(Kačák detektiv)」の1ページ
ダイナミックな構図に注目

ここに紹介した作品以外にも、チェコ初のコミック専門誌『コウレ(Koule)』やフィリックス・ザ・キャットのキャラクターをおそらく無許可で用いた広告コミックなど、見どころがたくさん。第2期は11月20日(月)までだそうですので、ぜひ訪れてみてください。チェコの文化、海外のマンガに興味がある人はもちろん、戦前のマンガに関心がある人にもおすすめです。

資料がズラリと並んだ特集棚


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About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

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