日米女性クリエイターたちの共作マージョリー・リュウ&サナ・ タケダ『モンストレス』

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2017年のアメリカン・コミックス界で最も注目を浴びているのは、パティ・ジェンキンス監督によって映画化された「ワンダー・ウーマン」であろう。この映画は女性監督による映画の「初日の興行収入」で歴代1位を樹立し、評論家たちの評価も高い。また、今年のアイズナー賞でも、女性作家ジル・トンプソン(Jill Thompson)による『ワンダー・ウーマン:トゥルー・アマゾン』(Wonder Woman: The True Amazon)が「ベスト・アルバム(新刊)」のカテゴリーで受賞した。現在、アメリカにおいて「ワンダー・ウーマン」は、エンターテイメント業界やファンの枠組みを越えて広がり、社会的な注目を浴びている。トランプ政権発足の翌日にあった「女性の行進(ウイメンズ・マーチ)」を覚えているだろうか。全米各地で行われたこの大規模なデモには、330万から460万人ほどが参加したと言われており、ヨーロッパやアジアの各都市にも広がった。女性蔑視な発言を繰り返してきた候補者が大統領となり、さまざまな文化的領域でも女性差別的な反動が引き起こる中で、ワンダー・ウーマンは、女性のエンパワメントの象徴(アイコン)として注目され、さまざまな解釈を呼びよせている。

今年、女性を主人公にして注目されているもうひとつのコミックスがある。それは中国系アメリカ人のマージョリー・リュウ原作、日本人のサナ・タケダのアートによる『モンストレス』(原題:Monstress)シリーズだ。2015年の11月から始まったシリーズは、これまでに6章をまとめたオムニバス『モンストレス Vol.1』とその続き収めた『モンストレス Vol.2』が出版されている。過去2年間連続でアイズナー賞候補になり、今年の世界SF大会では「ヒューゴー賞」の「ベスト・グラフィック・ストーリー」を受賞するなど高い評価を受けている。ニューヨークの書店でも平積みされ、現在も読者を増やし続けている。

マージョリー・リュウ作、サナ・タケダ画『モンストレス Vol.1』(Marjorie Liu (writer) & Sana Takeda (art), Monstress Vol.1, Image Comics)

『モンストレス』シリーズは、SFの賞を受賞しているが「ハイ・ファンタジー」(現実世界とは大きく異なる世界を作り上げるファンタジー)と考えていいだろう。このジャンルの魅力は、何といっても豊かな想像力で構築されたその世界(観)にある。舞台は、大きな戦争があった後の世界で、暴力や支配、隷属と差別が渦巻いている。人間以外にも(ときに愛くるしい)神話・伝説に登場するモンスターや動物の姿をした「アーカニック」と呼ばれる者たち――彼らは人間と「古代人」との間の混血児の子孫と考えられている――と、厳格な支配体制を敷く冷酷な魔女たちが登場し、それぞれの「種」の間の軋轢や争いが、神話や伝説といった要素と交わってその世界を作り上げている。

冒頭に登場するヒロイン、マイカ・ハーフウルフの姿は衝撃的だ。上半身を晒した体には首輪がかけられ、胸には目のような「刻印」が押され、さらには、左腕の肘から下が欠損している。そして、その身体(からだ)は「商品」として奴隷競売にかけられているのだ。しかし、そうした状況においても鋭い視線で不快感と抵抗を示すマイカ。『モンストレス』は、マイカが母親の死の謎と自分の出生の秘密を探るための旅がその物語の中心になっている。この旅に同行するのは、かわいい子ギツネの「キッパ」と、ときおり現れてはうんちくを垂れる二尾の猫「マスター・レン」だ。背景まで丁寧に書き込まれたタケダのアートとともに、読者は『モンストレス』の異世界にたちまち引き込まれるが、そのあまりにも深遠な世界(観)に戸惑うかもしれない。でも、心配しないでほしい。四尾の猫の「プロフェッサー・タムタム」の講義が章の間に引用され、読者の理解を助けてくれる。

「プロフェッサー・タムタム」の講義

タイトルの「モンストレス」とは英語「モンスター」の女性形。伝統的に、西洋でモンスターといえば、人間に恐怖を引き起こす存在であり、人間世界の「外部」からやってくる。しかし、この作品では、マイカの体内に比喩ではなく、文字通り「モンスター」が生息している。ときに「モンストラム」とも呼ばれるおぞましいソレは、しばしば「飢え」に襲われ、どうやらマイカを通じて他の者を喰らって生きているようなのだ。こうした「深い闇」を内に抱えた女性主人公の姿は、感情的な振幅と彼女自身が行う暴力的な行為を含め、とても立体的かつ複雑な人物造形がなされている。この点で、マイカは「ワンダー・ウーマン」ではない。マイカは、暴力と軋轢、搾取に溢れた残酷で絶望的な世界を生き抜く女性(少女)として描かれているのだ。

英語圏での書評では「日本のマンガとアメリカン・コミックスの融合」といった形容を見かけるが、物語的・視覚的表現のインスピレーションは、両国の文化に限定されるものではないだろう。息を呑むほどに美しいタケダのアートは、(バックカバーでも言及されているが)アール・デコの影響をうけたヨーロッパ的装飾的デザインを彷彿とさせ、細かな背景描写には、懐古主義的なビクトリア朝を舞台にしたスチーム・パンク的要素が垣間見える。原作者のリュウはファンタジー界で著名な作家で、小説『虎の瞳がきらめく夜』(原題:Tiger Eye, 2000)やその続編がすでに日本語に翻訳されている。インタビューなどで、リュウは日本の妖怪やアジアの民間伝説に興味があると述べているが、『モンストレス』の作品世界は、そうした文化横断的な豊かな想像力と伝統に支えられていると言えよう。

英語の単語「モンスター」の語源のひとつに「助言/警告を与える」という意味があるが、このファンタスティックな「異世界」を描いた作品は、私たちの世界にどんな「助言/警告」をしているのだろうか。『モンストレス』は、今後、どんな解釈を呼び寄せるのだろうか。こうしたことを考えながら、この作品を読み続けたい。

現在、日本語の翻訳が進んでいて、G-NOVELSから12月に発売される予定だという。期待して待ちたい。

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About Author

CJ・スズキ

愛知県生まれ、現在アメリカのニューヨーク在住。メインストリームのアメコミ作家からオルタナ系のアーティストをはじめ、世界中からさまざまなジャンルやバックグラウンドのアーティストが集まる刺激的な都市、ニューヨークで、日本と北米のマンガを中心に研究しています。映像作家/大学講師であるジョージ・ツーリス(George Tsouris)とともに「Manga Research and Reading Network in NYC (MaRRN)」を主宰。

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