海外マンガの人々―原正人さんインタビュー

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海外マンガに関わる人物を紹介する「海外マンガの人々」。初回に紹介するのはフランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者であり、このCOMIC STREETの編集長を務める原正人(はら・まさと)さんです。

原さんと海外マンガの関わりを教えてください。

フランス語圏のマンガ“バンド・デシネ”の翻訳をしています。それから、「世界のマンガについてゆるーく考える会」という、世界のマンガに興味がある人たちの集まりの代表をしています。

原正人(はら・まさと)

原正人さん

バンド・デシネの翻訳と「世界のマンガについてゆるーく考える会」について、もう少し詳しくお聞かせください。

バンド・デシネというのはフランス語圏のマンガのことで、それを日本語に翻訳する仕事を2008年からしています。それ以前にも自分で個人的に翻訳していたものはいくつもあったのですが、2008年に『ユーロマンガ』という雑誌が創刊され、そこで翻訳デビューしました。それからはや10年近く経ちますが、これまでにさまざまなバンド・デシネを翻訳する機会をいただくことができました。翻訳は紙の書籍として出版されることが多いですが、最近は電子書籍で出版されるケースも増えてきています。翻訳するものはバンド・デシネが大半ですが、小説や研究書も少しだけ訳しています。

「世界のマンガについてゆるーく考える会」は、海外マンガを中心に世界のマンガが好きな人たちがリアルに会って意見交換や交流できる場所があったらいいなあと考えて、2016年の8月から始めました。第2回目からはデジタルカタパルトさんに協力してもらって、一緒に運営しています。2017年に入ってから不定期になってしまっているのですが、理想的には月に1回開催できたらと考えています。

世界のマンガについてゆるーく考える会の様子

※「世界のマンガについてゆるーく考える会」については、以下を参照のこと。
【レポート】世界のマンガについてゆるーく考える会 #6
【まとめ】世界のマンガについてゆるーく考える会 #6
【集まったマンガ一覧】世界のマンガについてゆるーく考える会 #6

バンド・デシネの翻訳を始めるようになったきっかけは何だったのでしょう?

もともと日本のマンガが好きだったことと、大学院でフランス文学を勉強していて、フランス語を活かす仕事をしたいと思ったことです。大学院の修士課程を出たあと、しばらく別の仕事をしていたんですが、その頃に本格的にバンド・デシネを知りました。当時既にさまざまな翻訳が出ていましたが、もっと多くの作品が翻訳されたらいいし、いつかその仕事を自分でできたらいいなと考え、SNSを通じて、紹介活動や、他のファンや専門家の人たちとの交流を始め、リアルでもBDファンの集まりを始めました。当初は翻訳の仕事が本当にできるなんて夢にも思っていませんでしたが、さまざまな巡りあわせがあって、2008年頃から実際に翻訳の仕事をさせてもらえるようになりました。

原さんのご自宅のバンド・デシネ専用本棚

お仕事のどこにやりがいを感じていますか?

文学や映画については、わりと簡単に日本語で世界のさまざまな名作に触れることができると思いますが、マンガについては、それが十分にできていない印象があります。ですから、日本でまだ紹介されていないけど歴史的価値のあるバンド・デシネを日本語にできることには、とてもやりがいを感じています。一方、歴史的な価値はまだわからなくても、フランスで今注目されている作品とか、個人的にすごく思い入れのある作品というのもあります。それらを紹介する機会をもらえるのは、それはそれでとても運のいいことで、そんな作品を日本の読者の方たちに気に入ってもらえると、とてもうれしいです。いざ翻訳するとなると、対象作品をかなりしっかりと読み込まなければならないわけですが、そうすると、その作品に対する理解が深まると同時に、翻訳という行為を通じて、日本のマンガとの類似や相違を実感することもできます。そのことによって、バンド・デシネと日本のマンガ、それぞれの魅力に気づけるのが、楽しいです。

原さんが訳されたバンド・デシネとその原書の一例

バンド・デシネの魅力とは何でしょう?

僕自身、バンド・デシネに魅力があると感じたから翻訳・紹介をしたいと思ったのですが、それを言葉で伝えるというのはなかなか難しいことです。当然ですが、バンド・デシネなら何でもかんでも好きというわけではなく、好きな作品もあれば、好きでない作品もあります。それは日本のマンガについても同じことで、バンド・デシネ全体が無条件に魅力的ということではなく、個々の作品の中に、僕が個人的に好きなものがあるわけです。それでも敢えてバンド・デシネの魅力ということを考えるのであれば、まずは、とりわけ表現において、日本のマンガ以上の自由がある点でしょう。キャラのデフォルメの仕方や色の塗り方、時間の省略の仕方などに、日本のマンガではお目にかかったことがない表現があることがあります。

僕がバンド・デシネを知り始めた頃に衝撃を受けた作品にニコラ・ド・クレシーの『天空のビバンドム』(飛鳥新社)がありますが、ああいう表現の自由さは、バンド・デシネの魅力のひとつだと思います。結果として一読ではわかりにくいこともあるのですが、それもまたひとつの豊かさでしょう。僕らはわかりやすさに慣れ過ぎてしまっているのではないかと思うこともあります。また、総体的に見て、バンド・デシネは日本のマンガほど過度な演出や感情表現をしない(稀に日本のマンガよりずっと過剰な作品もあります)と言っていいかと思いますが、その慎ましさが魅力的に思えることもあります。日本のマンガとバンド・デシネには、似ている点と違う点があるわけですが、どういう経緯で似たり違ったりしているのかという点に興味があります。

最新のお仕事を教えてください。

2017年の7月14日(金)にジドルー作、ジョルディ・ラフェーブル画『最高の夏休み』(飛鳥新社)という翻訳が出ます。ベルギー在住のバンド・デシネ作家の一家を主人公にした作品で、フランス語圏の人々が大事にする、家族で出かける夏のヴァカンスを描いた、かわいらしい感動作です。フランスでは2015年に刊行され、結構話題になりました。ちょうど夏にぴったりの作品ですし、今まであまり訳されてきていないタイプの作品でもあるので、この機会にぜひ読んでいただけたらと思います。

『最高の夏休み』(飛鳥新社)

最後にこのComic Streetというサイトについて一言ご説明ください。

海外マンガについては、既に情報サイトやファンサイト、作品の感想を語るサイトがいくつか存在しています。それらはしばしば、アメコミならアメコミ、バンド・デシネならバンド・デシネに特化していて、非常に有益な情報を提供してくれているのですが、個人的には特定の地域のマンガに限定することなく海外マンガ全体を扱うサイトがあるといいなとずっと思っていました。僕自身はバンド・デシネの翻訳をしているので、バンド・デシネについてはまあまあ知ってはいますが、その他の地域のマンガについては、まったく詳しくありません。このサイトに来たら、海外マンガのことがいろいろわかる、全部はわからなくても調べるきっかけになる、そういうサイトがあったらいいなと考えていたのです。ちょうどデジタルカタパルトさんも同じことを考えていて、今回、こうして一緒にこのサイトを運営することになりました。今後、邦訳の刊行情報や邦訳・原書の作品レビュー、さまざまな地域のマンガについてのコラム、海外マンガ関連のお仕事をされている人たちへのインタビューなどを公開していく予定です。このサイトを通じて、海外マンガに興味を持ってくれる人が少しでも増えてくれたらうれしいです。

About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

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