海外マンガの人々―クリストファー・ブッチャーさんインタビュー

Google+ Pinterest LinkedIn Tumblr +

海外マンガの仕事に関わる人物を紹介する「海外マンガの人々」。今回ご紹介するのは、毎年行われるカナダのコミック・フェスティバル、“トロント・コミック・アート・フェスティバル”の共同創設者で、現在はビズメディアの顧問編集者を務めているクリストファー・ブッチャーさんです。クリストファーさんは、同フェスティバルやカナダの作家たちを日本でも知ってもらおうと、毎年のように来日。今年もちょうど今、来日なさっています。

クリストファー・ブッチャーさん
(Christopher Butcher)

クリストファー・ブッチャーさん、あなたのお仕事を教えてください。マンガやコミックス、バンド・デシネに関してどんな活動をなさっていますか?

20年以上にわたって北米のコミックス産業に携わる仕事をしています。コミックブックの小売業者、書店経営者、デザイナー、カラリスト、レタラーなど、さまざまな職種についていて、いくつか小さな本を出版することさえしました。2003年には、友人のピーター・バークモと“トロント・コミック・アート・フェスティバル(Toronto Comic Arts Festival)”、通称TCAF(ティーカフ)を始めました。現在までに、世界25カ国から、コミックス、バンド・デシネ、マンガなど、ありとあらゆるコミックスに関わる、数千人もの作家をお招きしてきました。本当にエキサイティングなことです! TCAFは毎年5月に行われていて、来年は2018年5月12日と13日に行います。

また、今年初めに北米のマンガ出版社ビズメディアの顧問編集者に就任しました。私の仕事は、日本や世界中で出版された最高のマンガを見つけて、北米で出版することで、とてもすばらしい仕事だと思っています。もちろんTCAFの仕事も続けています!

トロント・コミック・アート・フェスティバルについてもう少し詳しく教えてください。どんなイベントなのでしょう?

TCAFは、あらゆる種類のコミックスを紹介する場所ですが、特にカナダのコミックスに力を入れています。毎年行われるフェスティバルバルには、500人以上のアーティストが参加し、25000人以上の方々が来場します。入場料は一切かかりません。クリエイターや出版社の展示、パネル・ディスカッション(あるいはトークショー)、読書会、ギャラリートーク、ワークショップなど、100以上のイベントが行われます。新しいコミックスを発見したがっている読者や既存の作家や作品のハードコアなファンにアピールすると同時に、若いクリエイターたちがキャリアを築くお手伝いをしています。

トロント・コミック・アート・フェスティバルの様子



クリストファーさんはトロント・コミック・アート・フェスティバルの創始者と言っていいのでしょうか? このフェスティバルを始めようと思ったきっかけを教えてください。

はい。私とピーター・バークモとでこのフェスティバルを作りました。ピーターは、カナダのトロントにある、世界で最もすばらしいコミックス専門店“The Beguiling Books & Art(ザ・ビガイリング・ブックス&アート)”のオーナーです。私たちがこのフェスティバルを始めた理由はかなり単純です。トロント(それからカナダ全域)には才能のあるクリエイターがたくさんいるのですが、彼らの仕事を披露するいいローカル・イベントがなかったのです。私たちは、トロントおよびカナダ出身のまだ世界的に知られていない優れた才能の持ち主に焦点を当てたいと思いました。私たちはまた、世界中には、才能ある優れたクリエイターたちがいることも知っていました。そこで、私たちは、最大限の努力をして、それらのクリエイターたちをトロントに招き、カナダのコミックスを彼らに紹介するとともに、カナダから見た海外の作品をカナダの読者たちに紹介するお手伝いをすることにしたのです。

ピーター・バークモさん(左)と
クリストファーさん(右)

クリストファーさんはここ数年、海外マンガフェスタなど、さまざまなイベントに参加していらっしゃいます。日本のマンガイベントについてどう思われますか? こうしたらもっとよくなるという点があれば教えてください。

TCAFの目的のひとつは、カナダのコミックスとそのクリエイターを世界中に紹介することです! そのため、私たちはこれまでにも、イギリスやドイツ、スウェーデン、デンマークで行われたイベントに公式参加し、公式という形ではありませんが、アメリカのいくつかのイベントにも参加しています。フェスティバル文化は世界中で盛んで、私たちは喜んでその中に飛び込み、交流を楽しんでいます。

日本に関しては、国際的なコミックスの“シーン”はまだとても若いように思えますが、年を追うごとに、どんどん深く広くなっていると思います。プレスポップヴィレッジブックスなどのパイオニアが、何年にもわたって海外の作品を日本で紹介してくれたことが大きいのでしょう。海外マンガフェスタやまだ誕生したばかりのコミックアート東京が、今後もリーダーシップを発揮し、日本における国際的なコミックスシーンの成長を引っ張っていってくれたらと願っています。どちらのイベントにもまずは継続を願いたいですが、もし成功して大きくなったとしても、映画や玩具主導のコミコンのような方向ではなく、コミックスのアートに主眼を置き、東京国際ブックフェアやデザインフェスタのような方向に進んでほしいですね。もちろんこれは私の個人的な希望にすぎません。いずれにせよ、TCAFはこれからも日本を訪れると同時に、日本やヨーロッパ、その他の地域のクリエイターたちをトロントのフェスティバルに招待し続けたいと思います。

今年2017年も作家さんたちと一緒に来日し、さまざまなイベントを行うと聞きました。どのような作家さんが来日し、どのようなイベントが行われるのでしょうか?

今年TCAFは、海外マンガフェスタコミックアート東京に加え、初めて東京コミコンに参加します。また、スペシャルイベントも準備中です。今回の滞在は3週間に及び、12名以上のアーティストに加え、その友人やスタッフが同行する予定です。

アート・コミックス・アーティスト
Rupert Bottenberg(ルパート・ボッテンバーグ/所属団体:En Masse)、Freddy Carrasco(フレディ・キャラスコ/代表作:GLEEM)、Emily Carroll(エミリー・キャロル/代表作:Through the Woods)、Jason Fischer(ジェイソン・フィッシャー/代表作:Terra Flats)、 Kim Hoang(キム・フアン/所属グループグループ:Love Love Hill)、Mary Huang(メアリー・ファン/代表的な仕事:Humangrey)、An Nguyen(アン・グエン/代表作:So Pretty/Very Rotten)、Mike Parsons(マイク・パーソンズ/代表作:Hey Apathy)、Christine Wong(クリスティーヌ・ウォン/所属:グループHello Boyfriend)

ポップカルチャー・コミックス・アーティスト
Bryan Lee O’Malley(ブライアン・リー・オマリー/代表作:『スコット・ピルグリム』)、Ramon Perez(ラモン・ペレス/代表作:NOVAAmazing Spider-Man)、Marcus To(マーカス・トゥ/代表作:『サイボーグ009 USAエディション』、Robin)、Andrew Wheeler(アンドリュー・ホイーラー/代表作:Freelance)、Jim Zub(ジム・ザブ/代表作AvengersWayward

TCAFの友人たち
Kate Craig(ケイト・クレイグ/ビデオゲーム・クリエイター)、Tim Kiefer(ティム・キーファー/『アドベンチャー・タイム』作曲家)、Koyama Press(コヤマプレス/カナダの出版社)、The Beguiling(ザ・ビガイリング/カナダのコミックス専門書店)

来日中のイベントの詳細については、こちらのページ(英語)をご覧ください。

お仕事のどこにやりがいを感じていますか?

やっぱりカナダのアーティストや作家の作品が他の言語に翻訳されるとワクワクしますね。ドイツを旅するときでも日本を旅するときでも、カナダの作家の作品が書店の棚にあるのを見つけると、とてもうれしいです。最近、小学館集英社プロダクション『ゴッサム・アカデミー』『バットガール:バーンサイド』を出版してくれましたが、どちらについても、カナダの作家が脚本、作画ともに多く関わっています。しばらく前にヴィレッジブックスが出版した『DC:ニューフロンティア』も、最近亡くなったダーウィン・クックというカナダ人作家の手になるものです。

ベッキー・クルーナン&ブレンダン・フレッチャー作、カール・カーシル画『ゴッサム・アカデミー』(内藤真代訳、小学館集英社プロダクション、2016年)

キャメロン・スチュアート、ブレンデン・フレッチャー作、バブズ・ター他画『バットガール:バーンサイド』(中沢俊介訳、小学館集英社プロダクション、2016年)

ダーウィン・クック『DC:ニューフロンティア 上 (DC COMICS)』(秋友克也訳、ヴィレッジブックス、2015年)

ダーウィン・クック『DC:ニューフロンティア 下 (DC COMICS)』(秋友克也訳、ヴィレッジブックス、2015年)

既にお話ししましたが、私たちがこうした活動をしている理由は、あらゆる種類のカナダのクリエイターをサポートし、彼らのキャリアを支えるためです。それこそ私たちがやりがいを感じることです。

クリストファーさんにとってマンガやコミックス、バンド・デシネの魅力とは何でしょう?

私はあらゆる種類のコミックスが好きで、それらを区別するということをしていません。コミックスは、歴史的にはさまざまな伝統(青年マンガの伝統とか、フランス=ベルギーの伝統とか、アメリカのスーパーヒーローの伝統とか)の上に成り立っていて、それぞれ強みや弱みがあると思うんですが、そのすべてが私を惹きつけてやまないんです。私が日本のマンガを好きな理由は主に2つあって、感情を描ける点と、運動表現にすぐれている点なのですが、その2つをみごとに備えた作品には、例えば、松本大洋さんの『鉄コン筋クリート』があります。アメリカン・コミックスのスーパーヒーローものだって好きですが、とりわけ、ダーウィン・クックの『DC:ニューフロンティア』アレックス・ロスの『キングダム・カム』のように、スーパーヒーローの全重量がのしかかっているような場合にそうだと言えます。バンド・デシネで好きななのは、その形式的なアプローチでしょうか。例えば、マルク=アントワーヌ・マチューの作品には、常に驚かされます。しかし、私が今一番多く読んでいるのは、俗に“インディ・コミックス”と呼ばれるコミックスです。アリソン・ベクダルの『ファン・ホーム』、チップ・ザダースキーとマット・フラクションの『セックス・クリミナルス(Sex Criminals)』、レイナ・テルゲマイヤーの『ドラマ(Drama)』、ケイト・ビートンのウェブコミックス、ブライアン・リー・オマリーの『スコット・ピルグリム』や『セカンズ(Seconds)』……。どれもこれもすばらしく、どれもがお互いに違っています。私はこういうことが好きなんです。驚くべき取捨選択があり、その結果としてすばらしい仕事があります。

最後に今後の予定についてお聞かせください。

2018年には、TCAFが15周年記念を迎えます。すごいゲストが何人もトロントに来てくれる予定ですが、今のところはまだ発表できません……。発表できる日が待ち遠しいです! 日本や他の国々からもゲストをお呼びする予定です。もちろんそのフェスティバルを成功に導くためには、これから一生懸命準備しなければなりません。どうか温かく見守ってください。より詳しい情報についてはTCAFのサイトをご覧ください。

2018年のTCAFは5月12日と13日に開催!

About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

Leave A Reply