海外マンガの人々―クリステル・ウーランスさんインタビュー

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海外マンガの仕事に関わる人物を紹介する「海外マンガの人々」。今回ご紹介するのは、日本マンガのフランス語版を多く出版するKana(カナ)社の編集者Christel Hoolans(クリステル・ウーランス)さんです。

カナ社常務取締役クリステル・ウーランスさん

クリステルさんの肩書を教えてください。

カナ社という、20年以上フランス語圏で日本のマンガの出版を続けている出版社の常務取締役を務めています。また、ダルゴー(Dargaud)・グループの日本事業局マネージャーでもあります。

カナ社とダルゴー・グループとはどのような出版社ですか?

カナ社はフランス語圏で日本のマンガの出版を20年以上続けている出版社です。ベルギーのブリュッセルに本社を置き、フランスで4番目に大きいベルギー発の出版グループ“メディア・パルティシパシオン(Media Participations)”の傘下にあります。

カナ社は、バンド・デシネ編集者で、かつて書店オーナーだったYves Schlirf(イヴ・シュリルフ)によって、1996年に創立されました。出版物の95%が版権もので、その大多数は日本の作品ですが、中には中国や韓国の作品も含まれています。そして、残りの5%がカナ社オリジナルのマンガです。そのオリジナル・マンガの企画は、様々なプロジェクトが進行する中で生まれました。それらの作品には世界中の作家が参加していて、次第に形を成し、徐々に読者に受け入れられていきました。

かつて、カナ社の出版物のベースは少年マンガ色が極めて濃いものでした。例えば、『名探偵コナン』、『聖闘士星矢』、『ナルト』、『ハンター×ハンター』、『遊戯王』、『黒執事』、『暗殺教室』などです。それらの作品の成功のおかげで、少しずつラインナップを他のジャンルにも広げることができ、日本のマンガの多様さと豊かさをフランス語圏の読者に紹介することができました。“Shojo(少女)”レーベルでは咲坂伊緒先生など、“Seinen(青年)”レーベルでは浦沢直樹先生など、“Made in(メイド・イン)”レーベルでは、もう少しアンダーグラウンドな雰囲気のある浅野いにお先生や松本大洋先生など、そして、“Sensei(先生)”レーベルでは、白土三平先生や上村一夫先生などを中心に展開しています。

カナ社での業務内容を詳しく教えてください。

カナ社の常務取締役として、ブリュッセルとパリ、それぞれのチームを率いています。
具体的な業務は、フランス語圏で出版するための新しい日本のマンガの発掘、日本の出版社との交渉、そして翻訳とローカライズ、最後にそれらの販売です(プロモーション、広報、リアルの書店とWEB書店への出荷)。

カナ社オフィスでのクリステルさん

具体的にこれまでどのような作品を出版されてきたのですか?

カナ社では、あらゆる年代のあらゆる嗜好を持つ人々が楽しめるマンガを出版してきました。『ナルト』、『デスノート』、『黒執事』、『ドラえもん』、『カムイ伝』、『同棲時代』など、出版しているマンガは多岐に渡ります。

カナ社自社出版物コーナー

フランスとベルギーではどういったマンガが人気ですか?

『ナルト』、『ワンピース』、『ドラゴンボール』、『フェアリーテイル』、『僕のヒーローアカデミア』、『ワンパンマン』などの少年マンガでしょうか。

日本のマンガ市場とフランス=ベルギーのマンガ市場に違いはありますか? 例えば、日本ではヒットしたマンガはフランス=ベルギーでもまたヒットしているのでしょうか。

もちろん大きく異なります。例えば、カナ社では、『銀魂』と『君に届け』を出版しています。両作品とも日本では大ヒットしている作品ですが、フランス語圏の市場では日本ほどのヒットは得られませんでした。逆に、谷口ジロー先生は、『孤独のグルメ』がヒットする以前は、日本では、比較的知る人ぞ知るマンガ家だったかもしれませんが、フランス語圏ではとても大きな成功を収めていました。そういった彼我の違いは、私たちの背景や文化が違っていて、だから参照するものも違っている、ということで説明がつきます。国境を越えてフランスで成功するのが難しい作品があるわけです。中でも、内容をしっかりと理解するために膨大な補足説明が必要となる歴史物はヒットするのが難しいと思います。それとユーモア作品なども難しそうですね。

このお仕事に就くようになったきっかけは何ですか?

昔からジャンルを問わずマンガをよく読んできたことでしょうか。フランス=ベルギーのバンド・デシネにせよ、日本のマンガやアメリカのコミックスにせよ、たくさん読みました。私が典型的なベルギー人の家に生まれたということもあると思います。つまり、バンド・デシネの蔵書がたくさんある家です。一方でまた、8歳の時に『宇宙海賊キャプテンハーロック』や『UFOロボ グレンダイザー』などの日本のアニメ漬けになっていたのもきっかけの一つですね。それらは当たり前のように私の周りにありましたから。とにかくそういったものが大好きなんです。

私は大学で近代史の学士号を取り、出版についても学んだ後、1996年に研修生としてDargaud Benelux(ダルゴー・ベネルクス)社という出版社とカナ社で働き始めました。雑務係、製作アシスタントとして働いたあと、マンガ(カナ社)とバンド・デシネ(ダルゴー・ベネルクス社)の叢書をいくつか立ち上げるために、2000年、イヴ・シュリルフによって編集部に採用されました。4年の経験を経てカナとダルゴー・ベネルクスの副編集長に任命され、2009年1月1日にはダルゴー・ベネルクスの副編集長のポストを維持したままカナ社の編集長も務めることになりました。そして2013年、常務取締役としてカナ社の手綱を握ることとなったのです。

カナ社にある本棚の前でマンガを読むクリステルさん

お仕事のどのようなところにやりがいを感じますか?

本ができるということがとにかくうれしいんです。いわば私たちの子供のようなものです。どの本であってもしばしば1年以上(作品を発掘してから私たちの市場の書店に本が並ぶまで)時間がかかるだけになおさらです。

また、新しいマンガやマンガ家を見つけ出したときもやりがいを感じます。その作品に人気が出てヒットした時は最高ですね。まるで魔法のようですよ!

カナ社20周年を記念して贈呈されたイラスト

ダルゴーの出版物の中でどの作品が最も重要だと思いますか?

グループ全体ではなく、一バンド・デシネ出版社としてのダルゴーということであれば、現在最も大きな成功を収めているのは『Blake et Mortimer(ブレイクとモーティマー)』、『XIII(トレーズ)』、『Les Vieux fourneaux(古ぼけたかまど)』、『Undertaker(葬儀人夫)』、そして映画化のおかげもあり『Valérian(ヴァレリアン)』、俳優ジェラール・ドパルデューを描いた『Gérard, Cinq années dans les pattes de Depardieu(ジェラール―ドパルデューとともに過ごした5年)』などが大きな成功を収めています。

あなたの手がけるマンガの魅力とはなんでしょうか?

やはりその多様性でしょうか。イヴ・シュリルフがカナ社を創立した当初の目的は日本のマンガの多様性をフランス語圏の読者に示すことでした。しかし当時、日本のマンガを読むことは決してよいことだと見なされていなかったのです。日本のマンガにはフランス=ベルギーのバンド・デシネと同じくらい多様性があり、グラフィック的にもシナリオ的にもあらゆる嗜好の人々に合う作品があること、日出づる国には発見されるべき偉大な才能が存在していること、そして、たとえ私たちの国がバンド・デシネの国だと自負していても、日本と比べれば小規模なものなのだと示すことだったのです。

フランス人作家による「マンガ」について教えてください。

喜んで! 今の40歳代の作家たちはみな、とても日本的な教養を身につけているんです。というのも、彼らは小さいときに、テレビで日本のアニメを見て育ったからです。『宇宙海賊キャプテンハーロック』、『UFOロボ グレンダイザー』、『ドラゴンボール』、『聖闘士星矢』……。ジブリの映画が上映されるようになってからは、日本のアニメは、西洋で大きな反響を呼びました。そのおかげで、若い作家たちが何代にもわたって登場してきました。彼らは元々日本のマンガが何よりも好きな読者だったのです。そして大人になると、彼らはアーティストとして、自分たちにとって“自然な”形式で自己表現したいと思うようになりました。それがマンガだったのです。しかし、読者は必ずしもすぐには付いてきませんでした。ヨーロッパのマンガ家にとってそれは今でも簡単な問題ではありません。しかし作品の質は向上しつつあります。カナでは、創立以来、さまざまな作品を出版してきました。最近ではエルザ・ブランツによる『セーブ・ミー・ピティ』★(神々が闊歩するギリシャ神話の世界を舞台にしたあるピティ=ピュティア[アポロンの神殿に仕える巫女のこと]の物語。ハチャメチャで面白おかしい)やギヨーム・ラペル、レミ・ゲラン、シルヴァン・ドス・サントスら3人による『Booksterz(ブックスターズ)』(おとぎ話のキャラクターを操る主人公たちの戦いを描く少年マンガ)といった作品を出版しています。
★『セーブ・ミー・ピティ』は第1巻の日本語電子書籍版がコミックカタパルトからリリースされています。



カナ社ベルギー・チームのスタッフ

フランス語圏の作家の描く”マンガ”に対するフランスとベルギーでの反応はいかがでしょうか。

読者の反応は、まだおっかなびっくりですが、数年前に比べれば、ずいぶんましになりました。以前はマンガは日本のもので、それ以外は読む価値がないとされていましたから。今日では、作品も増え、質も向上したおかげで、意識も変わっているように思います。

今後の展望をお聞かせください。

まだ契約が済んでいないので、詳細は話せませんが、いくつもの素晴らしいプロジェクトが進行中です。その中でもオリジナル作品のプロジェクトは、一刻も早く読者に知らせたいと思うほどすばらしいものです。もしかしたらその中には、いずれ日本でも出版されることになるものもあるかもしれませんよ。

(翻訳:花木海斗)

About Author

花木 海斗

1996年広島県生まれ。都内の大学でフランス文学とフランス語圏のマンガ“バンド・デシネ”について学んでいます。主にバンド・デシネを読んでいますが、最近はオルタナ系のアメコミ、アジアのマンガなども読み始めました。80年代の美少女マンガ、19世紀フランスの諷刺画などにも関心があります。ライフワークはノスタルジア探求。休日はどこかの古本屋か廃墟に現れます。

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