海外マンガの人々―ワンズさんインタビュー

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海外マンガの仕事に関わる人物を紹介する「海外マンガの人々」。今回ご紹介するのは、マレーシアの出版社PTS Media Group(PTSメディア・グループ)の編集者Wanzu(ワンズ)さん。ワンズさんが手がけたマレーシアのコミックス、ベン・ウォン作『アタン』第1巻がコミックカタパルトから2018年2月上旬に配信予定です。

“ワンズ”というのはご本名ですか?

いえいえ、現地のコミックス業界で呼ばれているニックネームです。本名はもうちょっと長くて、Wan Zuhairi(ワン・ズハイリ)です。

ワン・ズハイリ
(Wan Zuhairi)さん

なるほど。ワンズさんの肩書を教えてください。

現在、PTSメディア・グループでフィクション部門の出版マネージャーをしています。以前はPTSメディア・グループの出版部門PTS Publishing House(PTSパブリッシング・ハウス)のコミックス・レーベル、Komik-M(コミック・エム)の編集主任を務めていました。

私の仕事の中心はコミックスです。コミック・エムでは、シリーズもののコミックスも、短編を集めたアンソロジーも出版しています。

当社で出している出版物の全リストをこちらのページからご覧いただけます。
http://pts.com.my/katalog/imprint/komikm/
http://komik-m.com/

ワンズさんがどんなお仕事をしているのか、もう少し詳しく教えてください。

フィクションを作る部門の統括ですね。児童書や小説、歴史もののフィクション、自己啓発的なフィクション、“Nomik(ノミック)”(小説“novels”とコミックス“comics”を融合させた造語で、日本でいうライトノベルのようなものです)、もちろんマンガもあります!

ノミック『Aku, Kau & Robot(アクとカウとロボット)』のペイントをほどこしたトラックの前に立つワンズさん

“ノミック”とはどのようなものですか? マレーシアに特有のものなのでしょうか?

“ノミック”とは、2005年に私たち(PTS)が造った言葉で、小説とコミックスを融合させた新商品を指します。コミックスは、マレーシアの出版物全体の30~50%を占めていると言われます。1冊の本の中に小説とマンガをまとめてしまったらおもしろいんじゃないかと思ったんです。こうすることで、小説の読者(たいてい女の子です)に、コミックス(たいてい男の子が読みます)を読んでもらえないかと考えたわけです。

PTSから出版されているノミック

最近、私たちのノミックのひとつ『MISI KIRA(ミシ・キラ)』の2巻が、マレーシアのナショナル・ブック・アワード2017で最優秀コミック賞を受賞しました。

PTSの出版物で、特にこれはプッシュしたいという作品はありますか?

私が特に気に入っているもののひとつは、コミック・エムから出しているコミック・アンソロジーのシリーズです。PTSではコミックスの雑誌を出版していないので、単行本の形で、短編のコンピレーションに挑戦することにしたんです。8人から10人の作家が彼らの作品を提供してくれました。作家たちは限られたページの中で自由にストーリーやイラストの実験をすることができます。このシリーズは新人が単独デビューする前に自分の才能を試す機会でもあります。ストーリーもスタイルも多様なので、読者からも好評です。

コミック・エム発のコミック・アンソロジー・シリーズ

ワンズさんがこのお仕事を始めた理由を教えてください。

コミックスは私の人生そのものです。子供のころからマンガを読んだり、作ったりすることに関心がありました。小学校と中学校では、学校のクラブ活動でマンガ雑誌を作ったこともありました。大学でも自分のコミックスを作り、出版し続けました。当時、フリーランスのイラストレーター、ウェブ・デザイナーとしてPTSで働いていました。大学を卒業後は、専業編集者としてPTSで働くことになりました。

小学校にマンガを寄贈するワンズさん

お仕事のどのようなところにやりがいを感じますか?

大好きなことを仕事にできるというのはそれだけで最高の喜びです。マレーシアには、日本やアメリカ、ヨーロッパのように、大きなマンガ出版社がたくさんあるわけではありません。マレーシアの人々の間に、マンガは言語やモラルに悪影響を与えるという認識があることもあって、マンガ出版社は生き残るのも一苦労です。

そのため、コミック・エムでは、標準的なマレー語(BMT-バハサ・ムラユ・ティンギ)を用いた新しいスタイルを採用し、ストーリーにも良い価値観を導入しました。初めのうちは、現地のコミックスファンはそのコンセプトに懐疑的でした。しかし、私たちのターゲットは現地の既存のコミックス読者ではありませんでした。私たちのターゲットは小学生の新しい世代だったのです。
結果的に、私たちは徐々に保護者や先生方から高評価を得るようになりました。コミック・エムが生徒たちのマレー語のライティング・スキルを向上させ、彼らによい人間になろうというモチベーションを与えることに成功したからです。

以前は、マンガを学校に持ち込むのは禁止でした。しかし今ではコミック・エムとPTSの作品は学校で歓迎されていて、展示やワークショップが行われることもあります。感無量ですね。

小学校でのPTSブック・トラック・イベント

“Book Truck(ブック・トラック)”というものがあるそうですね。どんなものか教えてください。

多くのマレーシア人にとって、街頭で簡単に食べ物を売り買いできる“フード・トラック”は馴染み深いものです。“ブック・トラック”のコンセプトも同じです。移動することで、街頭で人々に気軽に本を買ってもらえるトラックなのです。ブック・トラックは学校で行われる展示会やお祭りによく現れます。最近では、ブック・トラックが流行りになっていて、ブック・トラックを持っているとかっこいいと思われたりするんです。

ブック・トラックを紹介したビデオ

マレーシアのコミックスの魅力はなんでしょう?

日本のマンガが世界中から圧倒的な反響を得ているのは明白です。私も『NARUTO -ナルト-』や『BLEACH』、『ONE PIECE』、『進撃の巨人』などの人気マンガは大好きです。好きなマンガ家は浦沢直樹先生で、『20世紀少年』、『MONSTER』、『PLUTO』などの作品は私のお気に入りです。

多くの人々にとって、マンガの魅力は、まずなんと言ってもきれいでかわいらしい絵柄でしょう。しかし、それだけではありません。独特の語り口やキャラクターの表情の誇張もマンガの魅力です。

コミック・エムでは、どんなスタイルのコミックスも受け入れています。マンガだって例外ではありません。マレーシアの文化を取り入れ、コミックスの中に見事に盛り込んでくれさえすればいいのです。

ベン・ウォンによる『アタン』がその好例でしょう。『アタン』は日本の外務省が主催する第8回国際漫画賞で優秀賞を受賞しました。

『アタン』で第8回国際漫画賞優秀賞を受賞した作者ベン・ウォンさん(右)とワンズさん(左)

『アタン』の日本語版は2018年2月6日にコミックカタパルトで配信される予定です。

『アタン』マレーシア版の表紙

『アタン』日本語版第1巻表紙

(翻訳:花木海斗)

About Author

Kazue Kida

1988年大阪府生まれ。慶応義塾大学を卒業後、英会話講師をしていたが、漫画愛が高じ2017年デジタルカタパルト株式会社に東南アジア担当として入社。東南アジア諸国のブックフェアに出張する傍ら、「仕事だから」と言い訳をつけて毎日漫画が読める生活を満喫している。最新トレンドとタイ作家をいち早く発掘するためタイ語を勉強中。ตาย แล้ว。

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