海外マンガの人々―ズヴィアンヌさんインタビュー

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海外マンガの仕事に関わる人物を紹介する「海外マンガの人々」。今回ご紹介するのは、京都国際マンガミュージアムで行われている「〈ケベック・バンド・デシネ〉を知っていますか?」展に合わせて来日中のカナダはケベック州出身のバンド・デシネ作家ズヴィアンヌさんです。

ズヴィアンヌさん
(Zviane)

日本では残念ながらまだズヴィアンヌさんのお仕事は広く知られていません。まずはどんな活動をされているのか教えてください。

バンド・デシネ(以下BD)作家をしています。原作と作画、どちらも手がけます。ただ、BDが私の活動の中心であることに違いはないのですが、実は他の活動もしています。学生時代に音楽を勉強していたこともあって、ピアノの教師をしたり、いくつかのコーラスのために編曲をしたり、音楽の仕事もしています。それから、アニメも一本作っていて、これからもっともっと作りたいと思っているんです! 今は映画のほうに重心が傾きつつありますね。

ズヴィアンヌさんが制作したショートアニメ:Sweet Childhood

よくよく考えてみるに、私が心惹かれているのは、たぶん時間の中で何かを語るということなんじゃないかと思います。音楽というのは、BDや映画と比べると、ずっと抽象的ですが、それでも私にとっては、時間の中で何かを語る形式なんです。芸術にはいろんな様相がありますが、特にリズムに興味があるんでしょうね。それがどうしてなのか、自分ではさっぱりわかりませんけど……。

京都国際マンガミュージアムで
ライブドローイング中のズヴィアンヌさん

BDは子供の頃からお好きだったのですか? これがあったからBD作家になったという出会いの書はあったりしますでしょうか?

私の経歴は、他のBD作家と比べると、ちょっと特殊なんです。何しろ、子供の頃、私は読書が大嫌いだったんです! 何かを作ったり、工作したりするのは好きでした。父がビデオ・カメラを持っていて、それを借りて、弟と二人で動画撮影をしたりもしました。弟はBDが大好きで、私は弟からいろいろ教えてもらったんです。まともに読み始めたのは、思春期に入ってからですね。一番影響を受けたBD(=コミックス)は…スコット・マクラウドのUnderstanding Comics(邦訳『マンガ学―マンガによるマンガのためのマンガ理論』岡田斗司夫監訳、美術出版社、1998年)なんです! BDと言っても物語ではありません! BD(=コミックス、マンガ)とはどういうものかをBDで論じた作品なんです。私はもともと教育や教育学にすごく興味があって(母が中学校の教師だったので、たぶんその影響だと思います)、このBDは、私が作りたいと思っていたまさにそのBDというものについて、とても多くのことをおもしろく教えてくれたんです。

その後、ルイス・トロンダイムとダヴィッド・ベーという2人のフランス人作家を知り、彼らの作品を読んだことが、決定打になりました。トロンダイムは、知的でユーモアがあるところが好きです。彼は、決して読者をバカにしたりしません。ダヴィッド・ベーについては、彼の真っ黒な絵の美しさと、彼の筆から生み出される神話世界が気に入りました。2人とも自伝的なBDを描いていて、自伝が私の一番好きなジャンルでした。今でも自伝的なBDは好きで、読んでいると、あまりに物語に入り込んでしまって、しばしば実話だということを忘れてしまうほどです。

ズヴィアンヌさんの自画像

ケベックのBDはいくつか日本語に訳されていますが(イザベル・アルスノー絵、ファニー・ブリット文『ジェーンとキツネとわたし』、ジュヌヴィエーヴ・カストレイ『少女ゴーグル』など)、おそらくケベックのBDシーンについては、日本ではほとんど知られていないと思います。ケベックのBDについて、簡単に教えてください。ヨーロッパのフランス語圏のBDとつながりがあったりするのでしょうか?

ケベックのBDは、祝福されていると同時に呪われていると言えるでしょう。呪われている理由は、ケベックではBDがあまり人気がないからです(少しずつ変わりつつありますが)。通りを歩いていて、知らない人と出会って、「お仕事は何をしてるんですか?」と聞かれたとします。「BD作家なんですよー」なんて答えようものなら、子供向けのBDを描いていると思われてしまいかねません。ケベックでBDと言えば、まず『タンタンの冒険』や『アステリックス』、『ガーフィールド』といった、古い子供向けの作品で、私がやっていることとは、縁もゆかりもありません! でも、インターネットが普及してから、そうした状況は少しずつ変わってきているように感じられます。40代以下の人たちは、最近のケベックのBDにも興味を持ちつつあります。

ケベックのBDは、いわば、十字路に存在しているんです。北米のコミックスの影響下にあり、北米的なテーマ(例えば、自虐とか)が見られる一方で、コマ割は明らかにフランスのBDの影響下にあります。

一方で、ケベックのBDは、美的な側面が、まだあまり掘り下げられていません。BDを教えるところはあまり多くありませんし、そのせいで、ほとんどの作家が独学で学んでいます。それは、利点でもあれば、欠点でもあります。欠点というのは、例えば、ヨーロッパにおけるほどには、絵が美しくないことでしょうか。逆に利点は、ヨーロッパでしばしば見られるように、絵のせいで物語がおざなりにはなっていないということでしょう。大事なのはストーリーです。個人的には、絵は美しいけど、物語は平凡な作品を読むよりは、絵が平凡でも、物語がおもしろい作品を読みたいと思っています。

私個人は、フランスをよく訪れます。少なくとも年に1回は訪れ、アングレーム国際漫画フェスティバルには何度も参加しています。最近では、ベルギーに行くことも増えてきました。現地にBD作家の友人が何人かいて、いろんなことを教えてもらいます。ヨーロッパの作家たちはすばらしい作品を生み出していますからね! 彼らはケベックのBDにも関心を持ってくれていて、私の本も1年半ほど前からヨーロッパで扱ってもらえるようになりました。

私は普段、ケベックの出版社と仕事をしているんですが、フランスのデルクールという出版社から出版されている本もあります(L’Ostie d’chat『クソ猫』)。おかげさまで、ヨーロッパの読者にも作品を届けることができているのですが、直接会って仕事ができるという点では、やはりケベックの出版社と仕事をするほうが好きです。デルクールで仕事をしたときは、私がケベック在住だったこともあって、すべてメールでやりとりしました。なんの問題もなかったんですが、直接会って仕事をするに越したことはありません。

L’Ostie d’chat
『クソ猫』

これまでに出版してきた作品は、ご自身の企画が多いのでしょうか? 出版社からの注文で作った作品もありますか?

できるだけ自分の企画を本にしたいと思っています。そのほうが自由にできますからね。時々注文仕事の依頼もありますが、自分が興味を持てるものしかやらないようにしています。例えば、これから取りかかる仕事だと、科学研究の普及のために2ページのBDを描くというものがあります。これはモントリオール大学の研究者たちから依頼されたもので、今回は、太平洋の海底2㎞に棲む生物についての研究が対象です。こういう仕事なら大歓迎です! 私自身勉強になりますし、知的な人たちと知り合えますからね。

でも、こういう注文仕事はアルバイトみたいなもので、私の本職は、やっぱり個人的な企画です。大してお金にはなりませんが、ずっと“意味”があります! 私にとっては、“お金”より“意味”のほうが重要なんです。絵を描いていると、周りに何も存在しなくなって、自分がしていることに完全に没頭できます。最善を尽くし、でも迷いが消えることはなく、それでも続けます。ひとりきりでこんなふうに仕事をしていると、まるで神様と対話しているような気持ちになります。もちろん私のBDは宗教とはなんの関係もありません。でも、私の創作過程には、どこかすごく宗教的なところがあるんです。

ズヴィアンヌさんの仕事場

好きなジャンルはありますか?

できるだけある特定のジャンルに留まらないようにしています。これまでにもさまざまなジャンルの作品に挑戦してきました。連載のユーモアもの(L’Ostie d’chat『クソ猫』)、教育もの(Ping-pong『ピンポン』)、鬱をめぐる個人的な作品(Apnée『無呼吸』)、エロティックな作品(Les Deuxièmes『二番目のものたち』)、不条理な短編集(Club Sandwich『サンドイッチ・クラブ』、そして今取りかかっている冒険SF(Football-Fantaisie『空想フットボール』)。毎回、新しい企画を始めるたびに、すべてをゼロから始めなければならないわけで、とてもたいへんです。でも、だからこそ楽しく仕事をすることができるんです! ルーチンを繰り返すなんて考えるだけでもイヤです。不安定な状態に留まっているほうがよっぽどマシです。不安にもなりますが、それが刺激になります!

Ping-pong
『ピンポン』

Apnée
『無呼吸』

Les Deuxièmes
『二番目のものたち』

Club Sandwich
『サンドイッチ・クラブ』

ご自身の作品の中で、日本人読者に薦めるならこれというのはありますか?

いい質問ですね! 今のところまだ日本語訳はないですし……。う~ん、例えば、Apnée(『無呼吸』)はどうでしょう。これは、日本のマンガ家魚喃キリコさんの絵にインスパイアされて作った作品なんです。何年か前にアングレーム国際漫画フェスティバルで魚喃さんの展示を見て、とても感銘を受けました。ちょうど同じ頃、私は鬱っぽい状況に陥っていて、とてもつらい思いをしていました。その経験をBDにした、ちょっと悲しい作品です。

ちなみに英語版は、Going Underというタイトルで出版されています。

Apnée(『無呼吸』)表紙

Apnée(『無呼吸』)中面

あとは、まったくトーンが違う作品ですが、Le Bestiaire des fruits(『果物寓話集』)とか。私の身の回りのことをおもしろおかしく描いた作品です。ある日、ウチの近くのスーパーで売られている異国の果物を全部味見してみたくなって、果物についてのメモをつけ始めたんです。楽しい逸話がたくさんあって、Apnée(『無呼吸)とは全然違う作品になっています。Le Bestiaire des fruits(『果物寓話集』)には結構パンチのきいたユーモアがあるから、日本人の読者の皆さんに気に入ってもらえるんじゃないかしら。日本人はユーモアが大好きみたいだし!

Le Bestiaire des fruits
(『果物寓話集』)表紙

Le Bestiaire des fruits
(『果物寓話集』)中面。柿の回

ちなみに日本を訪れるのは今回が初めてですか? 印象などお聞かせください。

ええ。初めてです。ずいぶん昔から訪れてみたい国だったので、ついに来ることができて、とってもうれしいです!!! 京都に1カ月、東京に1週間滞在して、その間、BDを描く仕事もする予定です。京都はずいぶん歩き回りました。とてもすばらしい町ですね! 建造物とか古いお寺とか自動販売機とかかわいいロゴとか、気に入ったものがたくさんあります!

私は北米から来たわけですが、向こうでは、何もかもが大きいんです。日本に来たら、あらゆるものが小さくて、びっくりしました。住居もそうだけど、ひとり分の料理の量や、車、トラック、ドア、何もかも小さいんです。私自身、小さいので、とても気に入りました! あらゆるものが私のサイズに合ってるみたい。

日本文化には思春期の頃から興味がありました。大学では日本語の講義も受講したんですよ。書道も大好きです。習字の講義も取りたかったんだけど、私は左利きで、“はらい”や“はね”が難しく、やむなく断念しました。

滞在中に日本のマンガ家さんと交流ができたら楽しいでしょうね! いろいろ意見の交換をしたいです。残念ながら、今のところはまだ出会う機会はありません。それでもまだ到着して少ししか経っていないので、今後に期待です!

日本のマンガはお読みになりますか? 好きな作家や作品があれば教えてください。

日本文化と出会うきっかけは、マンガというよりはアニメでした。20歳の頃、日本アニメの大ファンだったんです。当時、日本のアニメはケベックではまだあまり知られていなくて、インターネット経由でこっそり観ていました。オールタイムベストは、『新世紀エヴァンゲリオン』かしら。その後、いろんなアニメが作られていますが、世界中どこを見渡しても、あれ以上の作品はないんじゃないかと思います。たぶん15回は観ていると思います。暗記してるセリフもありますよ! 英語はもちろん、日本語でも言えます。あはは! アニメは、テレビシリーズも映画もかなりたくさん観ていますね……。

マンガについては、さっき言ったように、魚喃キリコさんのお仕事が大好きです。物静かで、くすんでいて、でも深遠で、とにかくとても刺激を受けました。全然タイプが違う作品ですが、『ドラゴンボール』の最初のほうの巻も大好きです。鳥山明さんのめちゃくちゃなアイディアがほんとにすごいです! その他、駕籠真太郎さんの不気味なイマジネーションも好きですし、あずまきよひこさんの『よつばと!』のかわいくておもしろいお話も大好きです。それからもうひとつ、ベルギーの友達から教えてもらったとり・みきさんの『遠くへいきたい』も、1ページ9コマ、セリフのないシュールなサイレント作品で、すごく気に入っています。日本人って不条理の感覚に優れていますよね。多くの刺激をもらっています。

最後に今後の予定を教えてください。

今は長編BDにかかりっきりです。全400ページくらいになる予定で、オールカラーで、ちょっとSFっぽいテイストの冒険ものです。タイトルはFootball-Fantaisie(『空想フットボール』)です。12歳と6歳の2人の女の子が主人公で、彼女たちが、ある島に秘密裏に建てられた研究所から逃げるというお話です。その島では言葉を話すことができません。彼女たちは人と話すことができないまま、家に帰らなければならないんです。波乱万丈のとても複雑なストーリーで、これだけ長いストーリーに挑戦するのは初めてです。全8章の予定なんですが、目下4章を描いているところ。まもなく半分です!

Football-Fantaisie
(『空想フットボール』)の1ページ
基本オールカラーだが、
フラッシュバックシーンなどで
白黒が用いられている

私はこの作品を、自費出版している雑誌に、章ごとに連載しているんです。ケベックでは、自費出版が徐々に一般化しつつあります。自費出版をめぐる状況は、ケベックとフランスではかなり違いますね。フランスでは、自費出版というと、出版社で本を出せない若い作家が、出版社で仕事をする前にするものという印象です。ケベックではそうではありません。出版社から商業ルートで本を出版している作家たちが、商業出版と並行して、自費出版をしているんです。電子書籍の普及を経て、印刷はより身近なものになりました。自費出版のいいところは、自由なところです。誰からも口出しされずに済みますし、あらゆることを自分の思い通りにすることができます。その代わり、やることはたくさんあります。自分で費用を負担しなければなりませんし、配送の手配もしなければなりません。でも、個人的には、そのおかげで、どうやって本を作るのか、そして本がどういう流れを辿るのかを理解することができました。今や私は編集者を名乗ることだってできますし、物としての本の有り方も自分で決めることができます。つまり、紙の種類や余白、外観、判型といったものです……。読者に最高の読者体験をしてもらえるように、ありとあらゆる要素を、私が自分で決めるんです!

ズヴィアンヌさんの自費出版誌
La Jungle(『ジャングル』)

雑誌のタイトルはLa Jungle(『ジャングル』)です。88ページのオールカラーで、半年ごとに出版しています。つい最近、第3号を出版しました。あと5号出さなければなりませんから、2020年までかかってしまいますね。雑誌は前半と後半に分かれていて、後半部分がFootball-Fantaisie(『空想フットボール』)の連載です。前半には好きなものを載せています。既刊の3号では、いろんなことを好き放題試しました。4コママンガのようなものを描いたり、読み切りの短編を描いたり、切り紙でモントリオールのプールのカタログを作ったり……。現在、第4号を鋭意制作中で、そのテーマは…京都です! 間違いなく日本の影響が色濃い号になります。せっかくなので読みの方向も日本風に、つまり、右から左にしようかしらと考えているところです! 何しろ雑誌の編集長は私なので、好きなようにさせてもらいます!


ズヴィアンヌさん出演イベント:

日時:2018年1月13日(土)
会場:仙台日仏協会・アリアンス・フランセーズ
ズヴィアンヌのイラストワークショップ

日時:2018年1月16日(火)16時~
会場:アンスティチュ・フランセ東京 メディアテーク
ズヴィアンヌのデッサンのワークショップ

ズヴィアンヌさんの作品も展示されている「〈ケベック・バンド・デシネ〉を知っていますか?」展レポートはこちら

About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

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