海外マンガの人々―韋宗成さんインタビュー

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海外マンガの仕事に関わる人物を紹介する「海外マンガの人々」。今回ご紹介するのは、台湾の漫画家 韋宗成(ウェイ・ゾンチェン)さん。道教の神様を可愛い萌えキャラとして描いたり、台湾総統を魔法美少女に変身させたりと、幅広い作風が注目の漫画家さんです。

韋宗成(ウェイ・ゾンチェン)さん

代表作『冥戦録』について、日本の方々に向けて、どんな作品か、簡単に説明していただけますか?

『冥戦録』は現代台湾を舞台にした少年漫画です。台湾921大地震*後、警察機関は妖魔の横行を対策するため、特殊プロジェクト「黒日専案部隊」を設立。以前から警察に協力をしていた道士や修道者が、この部隊に編成されていきます。主人公の陳柏戎(チェン・ボーロン)は、この「黒日専案部隊」の一人。陳は、台北市の西門町で妖魔討伐の任務中に、海の守り女神「媽祖」と同じ名前を持つ少女「林默娘(リン・モーニャン)」と遭遇、ここから現代版「媽祖」との冒険物語が始まります。
*台湾921大地震:1999年9月21日に、台湾中部を震源として発生した直下型地震。最大深度7。死者2,415名、負傷者11,305名と多くの死傷者を出した。

『冥戦録』2010年1巻発売、2017年11月現在9巻まで発売中

『冥戦録』には道教の神のひとつ「媽祖」が可愛らしい女の子となって登場します。
このキャラクターはどのようにして生まれたのですか?

道教の神「媽祖」も韋宗成老師の手で萌えキャラに!

「媽祖」は台湾で最も広く信仰されている女神です。作中に登場する「媽祖」は台湾の媽祖廟に祀られている成熟かつ穏やかな像のイメージとは異なり、少女の姿を採用しました。その理由の一つは、実は林默娘が女神になった時点では、まだ少女であったという言い伝えがあるからで、幼い少女の「純潔」や「愛しさ」をキャラクターに投影しました。もう一つの理由は、漫画の伏線になりますので、どうぞ作品をご覧になり、ご自身でご確認ください。

また、『冥戦録』の企画は、どのようなきっかけから生まれたのでしょうか?

『冥戦録』は、実は私が中学生の時から描き始めた作品です。最初は、ただ楽しむためだけで、クラスメートや隣人に見せるために描いていました。神や怪物をテーマに、台湾三峡という場所で起こっていた面白い人や物事を取り入れて描きました。大学時代に、再度短編を制作し、インターネット上で連載を始めました。私の漫画人生は『冥戦録』を中心に進んでいると言っても過言ではないと思います。その後は短編漫画『馬皇降臨』をきっかけにプロ漫画家としてデビュー、それからずっと『冥戦録』を商業漫画として出したいと思っていました。以前作った漫画のキャラクターはほとんどが男性でしたので、未来数位の編集・韓京岳さんと検討を重ねた後、『冥戦録』に「林默娘(リン・モーニャン)」という女性キャラクターをヒロインとして登場させましょうという話になって、正式に作り出しました。

『冥戦録』技の数々はどのようにして生まれたのか?

「冥戦録」には、様々な技が出てきます。
これらの技は、どのように考えているのでしょうか?
ネーミングはどのように発想されるのでしょうか?

道教の五行と八卦から発想し、そして既存の拳法と組み合わせて作り出しました。「技」と「技の命名」は、ほぼ全て編集の韓さんと議論して作ったものです。彼からいろいろとアドバイスをもらいました。五行と八卦の組合せからは、たくさんの可能性が生まれます。技を出す時に殺意があるのかとか、実は相手に余裕を持たしたいとか、いろんな意味が隠されています。とはいえ、読者の皆さんが読んでいて違和感を抱かないように、工夫して加えています。

「冥戦録」の中で、お気に入りのシーンはありますか?

自分の作品ですから、お気に入りのシーンはたくさんあります。西門町、台北の町並み、三峽祖師廟、学校、老街、三峽の町並みなど、描いているところ、そこで生活していた思い出がどんどんと湧いてきます。おすすめシーンとして、例えば、作品冒頭の西門町混戦のところ、默娘の登場と默娘の思い出のシーン、冥妖と戦いのシーンや、高速道路でカーチェイスのシーンなどがあります。全て一つ一つ考察して、工夫してデザインしました。読者の方々にも、私の作品を通して、台湾の素晴らしい風景を楽しんでいただければ嬉しいです。

『冥戦録』おすすめシーンのひとつ。作品冒頭の舞台となる台北西門町の風景。

「林黙娘」は台北市西門町のイメージキャラクターとしても活躍しています。
なぜ、西門町なのでしょうか? 採用された経緯を教えてください。

私自身の仕事の中心はあくまで漫画を描くことです。「林黙娘」が西門町の看板娘となったのは、編集の韓さんと西門町理事会さんのおかげで、彼らの相談を経て、採用されました。正直、決まった時は驚きました。なぜ西門町の看板娘になったのかというと、やはり作品に出てきた最初のシーンが西門町だったからだと思います。作中では、西門町はメインキャラクターたちが大活躍する舞台であると同時に、主人公が林默娘と初めて出会う場所でもあります。それに、北台湾の三大媽祖廟の一つである「西門天后宮」も西門町にあります。また、西門町理事会の理事たちはご高齢ですが、西門町が若者が集まる聖地であるせいか、みなさん心が若々しく、アニメ・漫画、コスプレイベントなどのサブカルで西門町を盛り上がりたいと考えていらっしゃるんです。『冥戦録』が、新巻が出るたび、台湾国内のコミック売上の上位にランクインできていることも関係しているかもしれませんね(笑)。默娘はこんな経緯で西門町の看板娘となりました。

台北市西門町には「林黙娘」がたくさん!

今年の台湾ランタンフェスティバル(台湾灯会)にちなんだ台北のイベントでは、巨大なランタンとなって登場。

台湾の都市を擬人化した4コマ漫画『六都爭霸』は、台湾の各地域の特徴がわかりやすく描かれていて、とても面白い作品ですね。ただ、非常に楽しいと思う反面、各都市出身者から、クレームが来るのではないかと心配になりました。私の街はこんなんじゃない!失礼じゃないか!という声はありませんでしたか?

こういったテーマを描くとき、まずは大量の時間を使って考察します。また現地の友人に問合せするとか、できる限り認識の偏差を減らしていく必要があります。その結果、毎回作品が出版された際、八割九割の読者が認めてくれるものができあがります。もちろん多少クレームが寄せられることもあります。そんなふうに寄せられた貴重な意見は、キャラクターの個性のひとつとして取り入れ、その町のキャラクターを徐々に豊かにしていくのに用いたいと考えているのです。


『六都争覇』は台湾6大直轄市を擬人化し、各地の精霊として登場させた作品。各地の文化や歴史などを伝えながら、台湾地方選挙の候補者たちが精霊を奪い合うストーリーも織り込んである。

台北市 ♂:流行り物が好きなスーツ姿のオシャレ少年。家の中は最も豪華。

新北市 ♀:気立ての優しい虎耳猫しっぽ少女。様々なハンドメイドが好き。

桃園市 ♀:客家服装を身にまとう少女。勤勉かつ節約家である。

台中市 ♀:見た目は穏やかだが、カバンにはたくさんの銃器が入っている。

台南市 ♀:古代の衣装を着る美少女、歴史好きで料理が得意。魔都と呼ばれる上海が嫌い。

高雄市 ♂:思ったことを隠さずに喋る元気なスポーツ少年。味が濃いものが好き。


『馬皇降臨』『霸海皇英』など政治ネタを取り入れた作品も精力的に創作されていますが、これらの作品はどのようにして生まれたのですか?

「政治」は、台湾でとても人気のあるテーマです。普段から政治関連の話題で議論することがよくあります。夜9時頃のゴールデンタイムでは、ニュース番組の多くが、政治について議論しています。その日のある政治家の発言や行動などを取り上げて語り合うわけです。今までも政治家を主人公とした連環漫画があったのですが、内容は賛美ばかりで、一部批判的な作品があったとしても、そこでは政治家は脇役に過ぎません。私は昔からずっと、大総統を主人公にしたギャグパロディ漫画を描きたかったので、それを『馬皇降臨』という作品で実現しました。

左:『馬皇降臨』は台湾政界に実在する10名を模したパロディ作品。台湾の2代総統「馬英九」と「陳水扁」の間の政治闘争を主軸に、台湾独特な選挙文化を描いた。
右:『覇海皇英』は『馬皇降臨』のスタイルを継承、関連商品が話題となったことで、メディアでも数多く取り上げられた。

こうしたテーマを描くことで、政治家の方たちからクレームや圧力はなかったのでしょうか?

ある議員がインターネットで私の作品を批判しているのを見たことがありますが、圧力をかけられるようなことはありませんでした。逆に、総統から立法府まで、みんなこの漫画を読んでくれて、本にサインまで入れてくれました。台湾の政治を取り巻く環境は実に自由なんです(笑)。

特に、現総統(?)の抱き枕が発売された時は、非常に驚きました。この台湾での反響はいかがでしたか?

発売当日は大盛り上がりでした。多くのメディアにも取り上げられ、ネット上では「宗成、それをやると捕まるぞ!」というコメントもありました。実は、サンプルを総統のオフィスに持参したんです。幸い、何の問題もありませんでした。漫画は漫画、実在人物は実在人物、二次元と三次元の境界を分かってくれる創作環境の存在は、とても幸せに感じますね。

台湾で話題となった現総統をモデルにした抱き枕

『霸海皇英』には、日本からも登場人物がいます。安倍進三と波多也解衣。この人選はどのようにして思いついたのですか?

安倍進三はもちろん安倍首相から来ています。安倍首相は数年前台湾に訪問したこともあり、台湾に対してとても友好的でした。一方、波多也解衣は、AV女優の波多野結衣さんから来ています。波多野さんは台湾でとても有名なんです。2015年には、台湾の交通カードを発行する企業が、波多野さんを招待し、キャンペーン特別カードに起用したことがあったんですが、そのときには社会的な議論が起こり、当時の市長も巻き込んだ政治事件になりました。

『霸海皇英』には、日本からも登場人物が!

台湾で人気のAV女優波多野結衣さんをモデルにした人物も登場

作風から「台湾の大和田秀樹」と呼ばれることも多いかと思いますが、ご自身ではそれをどのように思いますが?

大和田先生の作品は学生時代から大好きで、初めて読んだのは『大魔法峠』という作品でした。大和田先生と名前を並べていただけるのは、おそらく作中で政治人物をネタにした点と、特にタブーがないというところでしょうか。当時、自由奔放な作風は、私にとってとても魅力的でした。しかし、実績から見ると、私は大和田先生にはまだまだ及ばないです。いつか先生のように多くの人に認められる面白い作品を出したいですね。

『大魔法峠』大和田秀樹 (角川コミックス・エース)
魔法少女で可愛く見えるのに中身は恐ろしく残酷というギャップが人気。

台湾漫画がもっと盛り上がるためには、これからどんなことが必要だと思いますか?

まず、作家は、自分が得意とする分野を活かした唯一無二の創作要素を開発すること以外は、常に読者を意識しながら描き、自分の読者は何を求めているのか考える必要があるでしょう。出版社は、作品を作っている段階から、次はどのように商業展開すればよいかを考えなければなりません。できる限り、マルチ展開や異業種とのコラボレーションをやったほうがいいと思います。しかし、一番重要なのは、作品自体が面白いことです。私自身、新刊を作るたびに、台湾漫画の看板に泥を塗るような作品にしてはいけないと決意を新たにしています。

これからの活動について、教えてください。

将来はやはり『冥戦録』の長編創作をやり続けながら、定期的に1巻で完結する政治ものかギャグ作品を出したいですね。実は、『冥戦録』の実写化ドラマの撮影が現在進行中で、次はアニメ化が実現するように頑張っていきたいです。日本での展開も早く実現できるといいですね。

いま注目している台湾アーティストはいますか?

現在海外市場に挑戦している台湾漫画家の仲間として、哈亜西、黒青郎君、それにBARZ、ZECOなどの作家さんたちに注目しています。みんなとは、たまに海外の経験について、コミュニケーションしています。特に、すでに日本で連載を開始している人たちから助言をもらっています。

哈亜西:Facebook
黒青郎君:Twitter
BARZ:Facebook
ZECO:Facebook

台湾以外で、いま気になるアーティストはいますか?

小さい頃から好きな日本漫画家、手塚治虫先生、藤子不二雄先生、冨樫義博先生、井上雄彦先生、諫山創先生、村田雄介先生などなど…ここでは上げきれないぐらいです。アニメでは、宮﨑駿監督、今敏監督、庵野秀明先生などです。
海外の映画でも好きな監督がたくさんいます。ジェームズ・キャメロン監督や、スティーヴン・スピルバーグ監督、北野武監督、初期の張芸謀(チャン・イーモウ)監督など。
実は漫画より、映画をよく観ているので、気になるアーティストと言われたら、漫画家よりは映画監督の方が多いかもしれないですね。

今回、海外マンガフェスタに合わせて来日される予定ですが、何回目の訪日になりますか?

今回で4回目になります。

日本で、どこかお気に入りの場所はありますか?

様々な場所がそれぞれ異なる意味で好きですが、でも漫画で描かれた場所や町並みが目の前に現れたら、やっぱり感動しますね。例えば、京都は濃厚な歴史と文化に満ち溢れて、そこではいっぱい写真撮りました。東京は今まさに流行っているアニメ・漫画の情報がすぐに得られるので、視野が広がります。

これから行ってみたい場所はありますか?

機会があれば、青森の大間稲荷神社に参拝してみたいです。そこは日本で最も北部にある媽祖廟です。横浜の媽祖廟も行きたいですね。とにかく日本の媽祖廟で祈願をしたいです。

日本の皆さんにメッセージをお願いします。

日本語版の『冥戦録』は、まもなくリリースされると期待しています。
日本のみなさんにも、気に入っていただけると嬉しいです。

冥戦録(めいせんろく) 【連載版】(2018年3月30日配信開始)

韋宗成『冥戦録』連載版・第1回


韋宗成さんは11月後半に複数のイベントに出演予定です。ぜひお越しください。

韋宗成さんご参加イベント:

2017年11月23日(木・祝)
東京:東京ビッグサイト『コミティア122』内特設会場
海外マンガフェスタ2017
13:00~14:15 ライブドローイング w/ZECOさん @コミックカタパルトブース
14:30~15:30 サイン会 @未来数位ブース(※ブースにいる場合、左記時間帯以外もサイン可能)

販売物:
① イラストタペストリー(60×40cm)/各1,500円(税込)
② 冥戦録、覇海皇英、馬皇降臨 など〈中国語版コミック〉/各500円(税込)
ほか関連商品が数多くございますので、当日未来数位のブースでご覧ください。

2017年11月24日(金)18:30開場 19:00開始
東京:台湾文化センター(東京都港区虎ノ門1-1-12虎ノ門ビル2階)
講座第2回「台湾漫画で知る 台湾の伝統 昔と今」
事前予約制

About Author

平柳竜樹(TK)

1977年東京都豊島区生まれ。テレビ番組のナレーション、システム企業での新規事業立ち上げ、ベンチャー企業のスタートアップや事業再生のサポート業務を経て、2009年よりデジタルカタパルト株式会社に参加、2012年取締役就任。現在は、海外のブックフェアや出版社を巡る仕事が中心。一度、海外出張に出ると、なかなか日本に帰ってこないため、「マグロ漁船にでも乗ってるようですね。」と言われる。

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