海外マンガの人々―しちみ楼さんインタビュー

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今回ご紹介するのはマンガ家のしちみ楼さん(@shichimi33)。今年2018年5月にリイド社から『ピーヨと魔法の果実』を出版されました。表紙の三角帽をかぶったペンギンのようなかわいいキャラとその周りに散りばめられたおどろおどろしいモチーフが印象的です。実はしちみ楼さんは海外マンガがお好きとのこと。今回はそのしちみ楼さんに海外マンガのことや『ピーヨと魔法の果実』のことを伺います。


しちみ楼さんのことをまだ知らないという人もいることかと思います。簡単に自己紹介いただけますか? “しちみ楼”というペンネームもちょっと不思議ですが、『ピーヨと魔法の果実』の著者略歴によると、「本名パンテーラ・カラメンテス。メキシコ出身。祖国を捨て日本で漫画家になった兄ヒカルド・カラメンテスを追い来日したメキシカンマフィア組織の刺客である」とありますね……。

リイド社が運営するWeb漫画サイト「リイドカフェ」『ピーヨ』というホラー漫画を描いたり、イベントでピーヨグッズを販売しているしちみ楼と申します。よろしくお願いいたします。

しちみ楼さん

リイドカフェでのデビュー前は、個人で自由に投稿できるWeb漫画サイトやコミティアで、ホラーというよりはサブカル系の同人漫画を出していたのですが、ご縁があってHMU(Horror Manga Union)と言うホラー同人漫画サークルに加入し、その繋がりでホラー漫画家の外薗昌也先生の運営するホラー漫画サイト「恐ろし屋」でも漫画を掲載して頂き、たまにアシスタントをさせて頂くようになりまして、その流れでホラー漫画を描くようになりました。

しちみ楼さんの同人誌

しちみ楼というペンネームは同人活動をしているときから使っているペンネームで、由来は京都にある原了郭さんというお店の「黒七味」が大好物なので「しちみ」、人名ではなく店名のような名前にしたいと考え「楼」としました。店名のような名前にした理由は漫画以外にぬいぐるみ等グッズも販売することを当初から考えていたので、作家のペンネームと言うよりかはお店の「屋号」と言うイメージです。

単行本の著者略歴とパンテーラ・カラメンテスと言う名前は完全なフィクションで、リイドカフェデビュー前から交流のある霧隠サブロー先生の『魔装番長バンガイスト』単行本1巻の作者略歴のパロディになっています。お互いの作中にお互いのキャラを登場させたりというお遊びをしているので、その延長で作者略歴も遊んでしまったという感じです。

しちみ楼さん『ピーヨと魔法の果実』(左)と
霧隠サブローさん『魔装番長バンガイスト』(右)

海外マンガがお好きだと伺いました。海外マンガと一口に言っても、アメコミやバンド・デシネなどいろいろありますが、どんなマンガがお好きなのでしょう? また、どうやって出会われたのでしょう?

海外の漫画との出会いは2002年に飛鳥新社から発売された『adidas MANGA FEVER』を読んだことがきっかけでした。本作は「ワールドカップと熱」をテーマに日本と海外の漫画作品が収録されているアンソロジー作品で、それまで日本のコミックスだけ読んできた自分にとっては「海外にも色々な漫画表現があるのだな…!!」ととても新鮮に感じました。

『adidas MANGA FEVER』
(飛鳥新社、2002年)

それ以来アメコミ、バンド・デシネあまり区別せず興味のある海外作品をたまに読むようになりました。その後2016年に六本木の森アーツギャラリーで開催されたルーブルNo.9展を観に行ったのがきっかけで完全にバンド・デシネファンになり、色々な作品を読むようになりました。

ルーブルNo.9展をきっかけに
バンド・デシネの世界へ

特にお好きな作家・作品はありますか? あるいはこれはすごいと感心した作品ですとか?

ニコラ・ド・クレシーの作品が特に好きで、『天空のビバンドム』『プロレス狂想曲』を読んで、自分もド・クレシーの様な絵柄になりたい!と無謀にもタッチを真似したりなんかもしました。

ニコラ・ド・クレシー作品の数々

ニコラ・ド・クレシー風ピーヨ!

最近読んだ作品ではティリー・ウォルデンの『スピン』がとても良かったです。私は主人公のティリーのように10代の頃何かに打ち込んではいなかったけれど、彼女と同じく、若さ故のプライドの高さや、将来への不安だったり焦燥感が自分にもあったなぁ…と郷愁のようなものを感じました。すごく心に響く作品だと思います。また、フランソワ・スクイテン/ブノワ・ペータースの 『パリ再訪』も素晴らしいですね。とにかく絵が美しく、読んでいるうちにストーリーとも相俟って、自分も作中の世界を旅しているような気分になりました。

ティリー・ウォルデン『スピン』(左)と
フランソワ・スクイテン&ブノワ・ペータース
『パリ再訪』(右)

しちみ楼さんにとって、これらの作家・作品、ひいては海外マンガの魅力はどこにあるのでしょう?

バンド・デシネは「漫画」「小説」「絵本」といった3つの異なるジャンルの「良いところ」をギュッと1つに凝縮して表現されているように感じています。それ故に1作品あるいは1ページごとの情報量が多く、ときに難解な描写もあったりするのですが、あれこれ考えながら読み進めることで、作品の世界にどっぷり入り込むことが出来ますし、(仮に物語のラストでオチが明記されていなくても)自分なりのオチを見いだせる、あるいは考える余地があるのが魅力だと感じています。

続いて『ピーヨと魔法の果実』についてお教えください。この作品は『ピーヨ』というタイトルでリイドカフェで連載されたあと、単行本化されたとのことですが、どういった経緯で執筆されることになったのでしょう?

『ピーヨ』は元々SNS上でちょっとバンド・デシネ風を意識した4コマフルカラー漫画として公開していたのですが、リイド社で外薗先生の「エマージング最終版」が単行本化される際に帯にピーヨのイラストを載せて頂けることになりまして、それをきっかけに、コミティアの出張漫画編集部のリイドカフェブースにピーヨ同人誌を持ち込んで、連載する運びとなりました。

バンド・デシネ風を意識した
4コマフルカラー漫画その1

バンド・デシネ風を意識した
4コマフルカラー漫画その2

外薗昌也『エマージング』と『ピーヨ』のプロット

一見かわいく、その実かなり不気味なキャラクター“ピーヨ”が印象的です。そもそもピーヨとは何なのでしょうか? 目がボタンのように見えたり、いろいろ不穏です。

ピーヨは17〜18世紀頃にいたペスト医師をモチーフにしたキャラクターで鳥っぽい感じの見た目なのですが、実際鳥なのかは不明確な怪しい存在として描いています。

作中では善人だろうが悪人だろうが関係なく、ピーヨに関わった者皆何らかの厄災を被るのですが、ピーヨ自身に悪気は無く、ただただ人々の身近で生きているだけなので、ある意味ピーヨは「病原菌」や「天災」のような存在なのかな…と思っています。

全部で14“羽”の短編が収録されていますが、必ずしも一貫したストーリーがあるわけではなく、それぞれ独立しています。短編はさまざまな物語を語ることができる一方で、アイディア出しがたいへんそうな印象があります。『ピーヨ』を短編で語ることには何か意図のようなものがあるのでしょうか? 今後、長編に取り組まれる予定はおありでしょうか?

何故短編なのかというと、これはちょっとお恥ずかしいのですが、連載を開始した当初、長期的に連載する形式の長編漫画の描き方が分からなかったのです!…で結果的に短編漫画のオムニバス形式になりました。ただ、しばらく連載している内に長編の描き方も徐々に分かってきて、たまに3部作や前後編にしたり、過去エピソードの後日譚として伏線回収してみたり等を最近はやっています。なので長編にも取り組みたいとは思っております。

画材などんなものを使っていらっしゃるのでしょう? パステルで塗ったようなところや水彩で塗ったようなところが見受けられますね。和風の怪談っぽいお話では、絵柄もそういった雰囲気にふさわしいものになっています。さまざまな画材やスタイルに挑戦することに興味がおありなのでしょうか?

画材は主に水彩画用紙にボールペンでペン入れした後、透明水彩で彩色して、部分的に色鉛筆でタッチを着けたりしています。

透明水彩と色鉛筆を使った着色

和風の怪談(単行本収録8・9話)のときは浮世絵っぽさを出すために、和紙に筆ペンでペン入れしたりもしました。

和紙に筆ペンを使うことも

ハロウィンのエピソード(15.5・16話)ではアメコミ風にしたかったのでデジタルで彩色しています。

デジタルで彩色することも

色々な画材やスタイルで描くのは完全にド・クレシーの『天空のビバンドム』に影響を受けています。天空のビバンドムもページによってペンと水彩だったり、アクリルやクレパス、コラージュを使用して描かれていますよね。

カバーを外すと、思わぬネタが隠されていたり、造本が凝っていますね。これもご自身のアイディアですか?

カバー下のネタはデザイナーさんのご提案です。当初裏表紙は空白で、サイン用のスペースにする予定もあったのですが、せっかくなら元ネタに忠実にパロディした方が面白いだろうと、自宅にあったピーヨのぬいぐるみや冷蔵庫にあったナスを引っ張り出してきて、あの仕上がりになりました。とても気に入っています。

今回の単行本では14羽がまとまっていますが、リイドカフェではまだまだ絶賛連載中ですね。今後、『ピーヨ』はどこに向かって行くのでしょうか?

絵柄に関しては今後も色々な画材やタッチに挑戦したいと思っています。また、内容に関しては、新エピソードと旧エピソードを絡めて新規の読者も既存の読者も両方の方々に楽しんで貰えるような作品作りに挑戦していきたいと思っています。「スピン」の様なヴィジュアルノベルにも挑戦してみたいです。

影響を受けたマンガ家やマンガ、今注目しているマンガ家やマンガはおありでしょうか?

影響を受けた国内作品は外薗昌也先生の『鬼畜島』や『ラグナ通信』、宮崎駿監督の原作版『ナウシカ』で、海外作品ではド・クレシー作品等々です。教科書のようにしょっちゅう読み直しては参考にさせて頂いております。注目のマンガは8月末にリイド社トーチコミックスから発売予定の斎藤潤一郎先生の『死都調布』ですね。退廃的な架空の街・調布を舞台に描かれた作品で、海外文学やバンド・デシネ風味があるので海外コミックスファンの方にも親和性があると思います。

最後に今後の予定や挑戦してみたいことについてお教えください。海外マンガがお好きということなので、海外でお仕事をしてみたいというお気持ちもおありですか?

機会があればエドワード・ゴーリーの様な大人向け絵本を作ってみたいです。また、日本の民話や純文学作品などが好きなのでそれを原案にバンド・デシネ風にしたフルカラー漫画などやってみたいです。もちろん海外でも仕事をしてみたいです。和製バンド・デシネを本国に逆輸入できたら楽しそうですね。

しちみ楼さんご自宅の漫画祭壇。
中央の巨大ピーヨは新宿紀伊國屋書店の書店員さんが単行本発売の際に作ってくれたとのこと


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『ピーヨと魔法の果実』

About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

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