海外マンガの人々―レアル・ゴドゥブさんインタビュー

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海外マンガの仕事に関わる人物を紹介する「海外マンガの人々」。今回ご紹介するのは、2017年12月9日(土) から2018年2月13日(火)にかけて京都国際マンガミュージアムで開催中の「〈ケベック・バンド・デシネ〉を知っていますか?」展に合わせて、まもなく来日する予定のカナダはケベック州出身のバンド・デシネ作家レアル・ゴドゥブ(Réal Godbout)さんです。

レアル・ゴドゥブさん
(Réal Godbout)
Photo by Éric Lajeunesse

このCOMICSTREETでケベックのバンド・デシネ作家さんをご紹介するのは、ズヴィアンヌさんについで2人目です。レアル・ゴドゥブさん、まずは簡単に自己紹介していただけますか?

ケベック在住のバンド・デシネ作家で、1970年代から現在にいたるまでバンド・デシネ(以下BD)を描き続けています。BD作家が私の主な仕事ですが、それ以外に、イラストを描いたり、大学でBDを教えていたりもします。何人か例外がいるとはいえ、ケベックでは、BDの執筆だけで生活していくのは、なかなか難しいんです。

デビュー当時、ケベックのBD界はとても小さく、仕事を始めたはいいが、肝心の仕事が本当にあるのかという感じでした……。なので、デビューと言えるのかどうかも怪しげなものでした。今となっては、ケベックBDのパイオニアと言われることもありますが、それはその頃から仕事をしていたからでしょう。もちろん私より先にケベックでBDを描いていた人たちもいました。ただ、現役のBD作家ということになると、おそらくは私が最古参でしょう。

若かりし日のゴドゥブさん
Photo by André Gagnon

世に認められるようになったのは、1980年代から90年代にかけて刊行されていたユーモア雑誌『クロ(CROC=“牙”の意)』に掲載された2つのシリーズ、すなわち『ミシェル・リスク(Michel Risque)』と、それから特に『レッド・ケチャップ(RedKetchup)』のおかげです。

『ミシェル・リスク(Michel Risque)』全集第1巻(Pierre Fournier, Réal Godbout, Miche Risque, L’Intégrale, T1, La Pastèque, 2014)

『レッド・ケチャップ』全集第1巻(Pierre Fournier, Réal Godbout, Red Ketchup, L’Intégrale, T1, La Pastèque, 2012)

この『クロ』という雑誌は、もうずいぶん前に休刊してしまいましたが、2つのシリーズは単行本の形で今も刊行されていて、私は未だにBDを描き続けています。今までのところ、20冊ほどの単行本を出版しています。

BDは子供の頃からお好きだったのですか? 強く影響を受けた作品などあれば教えてください。

私と同年代の多くの人たちがそうだったように、私も子どもの頃には、BDをたくさん読みました。特にフランス=ベルギーのBDですね。『タンタン』(エルジェが描いたシリーズそのものはもちろんですが、他の作家の作品も掲載されていた雑誌の『タンタン』もよく読みました)、『スピルー(Spirou)』、『ピロット(Pilote)』(かの『アステリックスの冒険』が掲載されていました)。それから、アメリカのコミックスもいくつか読んでいました。次第に私の興味は、オルタナティブな、より大人向けで、より挑発的なものに移っていきました。特に1960年代末にアメリカのアンダーグラウンド・コミックスを知ってからは、その傾向が強まりました。私のスタイルは、エルジェとロバート・クラムを足したみたいだとよく言われます。

ズヴィアンヌさんにも聞いたことですが、ケベックのBDは、いくつかの例外(イザベル・アルスノー絵、ファニー・ブリット文『ジェーンとキツネとわたし』、ジュヌヴィエーヴ・カストレイ『少女ゴーグル』など)を除いて、日本ではほとんど知られていないと思います。ケベックのBDについて、簡単に教えてください。

私たちは地理的には北米に住んでいますが、言語的にはフランス語を用いています。そのため、私たちの文化は、どこかアメリカ文化、イギリス文化、フランス文化の中間にあるようなところがあって、BDもその例外ではありません。

とはいえ、ケベックBDにも固有な特徴があります。おそらくそれは、ケベックBDが元々、周縁的な存在だったことに由来するのでしょう。私たちは、ユーモアやあざけりを特に好む傾向がある気がします。生真面目な、無敵のヒーローが登場する冒険譚などは、私たちの好むところではありません。もしかしたら私たちが、征服されたことはあっても、征服する側に立ったことがないせいかもしれません。

ケベックBDは元々周縁的だったと言いましたが、その後、あっという間に状況が変わりました。いくつかあったBD雑誌はほぼ消えてしまいましたが、作家や出版社、出版される本の数は次第に増えていきました。特に注目すべきは、女性作家の存在で、ケベックBDにおいて、今や重要な地位を占めつつあります。

ちなみにすべてのケベックBD作家がケベックの出版社から本を出しているわけではなく、国外で出版活動をしている作家もいます。

BDにはさまざまなジャンルがありますが、ケベックで特に成功を博しているのは、自伝的なBDです。個人的にはとてもいい傾向だと思いますが、私自身はまだ自伝的なBDを描いたことはありません。たぶん私のデビュー当時には、まだあまり一般的でなかったせいでしょう……。

先ほど、『クロ(CROC)』という雑誌のお話が出ました。この雑誌について、もう少し詳しく教えてください。

『クロ(CROC)』は、1979年から1995年にかけて刊行された月刊誌です(ケベックの電子アーカイブBAnQで『クロ』の創刊号が読めます→Croc, 1979, octobre)。創刊してみたら、たちまち大ヒットで、私たちは皆びっくりしたものです。元々はユーモア雑誌で、BDに多くのページが割かれていました。おかげで、多くの作家が作品を掲載することができました。ガブリー(Gaboury)、ガルノット(Garnotte)、モワレル(Moerelle)、ジャン=ポール・エディット(Jean-Paul Eid)、などなどです。私も、この雑誌の主な創刊者のひとりジャック・ユルチュビーズ(Jacques Hurtubise)を知っていて、作家陣に名を連ね、休刊するまで、ほぼ毎号関わりました。イラストを描いたり、BDを掲載したり、いろんなことをしましたが、主に2つのシリーズ作品を月4ページ連載しました。まずは『ミシェル・リスク(Michel Risque)』、それから『レッド・ケチャップ(Red Ketchup)』です。4ページというと、大した量ではないと思われてしまいそうですが、私にはそれだけで手一杯でした。私はあまり手が早いほうじゃないんです。

『クロ(CROC)』創刊号

『クロ』創刊号に掲載された『ミシェル・リスク』の扉ページ(Michel Risque, L’Intégrale, T1, 2014, P41)

『クロ』は大人気の雑誌でしたが、それでも、最後のほうにはかなり部数も落ちてしまいました。雑誌の黄金時代は、今は昔の物語です。

『クロ』は15年で寿命を終えたわけですが、それでもケベックのユーモアの歴史にその名を永遠に刻んでいますし、バンド・デシネの歴史にとっても重要な存在です。

『クロ』に連載された代表作『ミシェル・リスク』と『レッド・ケチャップ』について教えてください。

ミシェル・リスクというキャラクターを思いついたのは、『クロ』が創刊される数年前のことでした。元々は、はちゃめちゃで不条理な短編で、子供時代に読んだ冒険物語のヒーローたちのあからさまなパロディーをしようというものだったんです。ところが、『クロ』に連載されるようになって、同僚のピエール・フルニエ(Pierre Fournier)とストーリーを考えているうちに、冒険あり喜劇ありの一大サーガの様相を呈してきたんです。最終的に、主人公は、ぶきっちょでどこか抜けたところのある気のいいケベック人になりました。彼がいろんな場所を訪ると、信じられない出来事が起こり、事態を収拾するどころか、さらにとんでもない事態に発展していく。彼は、いわゆるアンチ・ヒーローです。月に4ページの連載だったので、読者の気を惹くために、毎回、いろんな内容を盛り込まなければなりませんでした。そのため、アクションが怒涛のように押し寄せます。まさに息つく暇もありません。時には、次に何が起こるか、はっきりとしたアイディアも持たずに、一気に脚本を書いてしまうこともありました。

若かりし日のゴドゥブさん(左)
ピエール・フルニエさん(右)
Photo by François Desaulniers

あるとき、『ミシェル・リスク』の中に、ちょっと特殊なサブキャラクターを登場させました。彼は仕事熱心で、場合によってはとんでもない暴力も辞しません。FBI捜査官レッド・ケチャップです。決して感じがいいキャラクターではないのですが、なぜか読者からは人気で、次第に登場回数が増え、しまいには主人公のミシェル・リスクを押しのけ、新しいシリーズ(こちらもピエール・フルニエと共同で原作を手がけました)の主人公にまでのしあがりました。

『ミシェル・リスク』に登場したレッド・ケチャップ(Michel Risque, L’Intégrale, T1, 2014, P175)

レッド・ケチャップは破壊不能で、行く先々で騒動を巻き起こします。さまざまな薬と凍結防止剤を常飲していて、彼の上司たちが彼を始末しようと、危険な任務に送るのですが、なかなか思い通りになりません。

『レッド・ケチャップ』シリーズは、ミステリーやSF、人間ドラマ、コメディー、政治風刺、幻想といった、さまざまなジャンルの混合体です。一度などは、彼にタイムトラベルをさせ、地獄めぐりまでさせました。

『クロ』が休刊してからも、読者から『ミシェル・リスク』と『レッド・ケチャップ』を待望する声が大きく、2003年、当時まだできたばかりのモントリオールに本拠を置く出版社ラ・パステック(La Pastèque)が、この2つのシリーズを再刊したいと言ってくれました。現在までに、『ミシェル・リスク』は5巻、『レッド・ケチャップ』は9巻、刊行されています。『レッド・ケチャップ』の9巻に当たる「妙薬X(Élixir X)」は、雑誌の休刊に伴い中断していたのですが、20年の歳月を経て、ようやく完成し、つい最近、日の目を見ることができました。

『レッド・ケチャップ』第9巻「妙薬X」(Red Ketchup, T9, Élixir X, La Pastèque, 2018)

『レッド・ケチャップ』第6巻「七面鳥(L’Oiseau aux sept surfaces)」の舞台は日本だそうですね。

私たちはレッド・ケチャップを世界中に送り込んでいますからね。いっちょ日本にも送ってやるか、とそんな気持ちで日本を舞台にしました。日本にはずいぶん前から惹かれていたんです。ただ、当時はまだインターネットがない時代で、資料が十分にあるとは言えませんでした。何冊か写真が載った本に当たって、あとは想像で描きました。そのせいで、おそらく作品のあちこちにおよそありえないことが描かれてしまっているのではないかと思います。一作家が幻視した想像の産物だと思ってください。物語の最後の部分では、レッド・ケチャップが巨大化して、東京の街を踏みにじるシーンまであったりします。もちろんこれは、ゴジラの一連の映画へのオマージュです。この作品の中には、マンガへの目配せもちらほら散りばめられています。当時、日本のマンガは、西洋で知り始められたところでした。実は、この作品を発表する2、3年前、ちょうど手塚治虫さんがモントリオールを訪れていて、私と共作者のピエール・フルニエは、手塚さんとお会いする光栄に浴しました。

『レッド・ケチャップ』第6巻「7面鳥」(Red Ketchup, T6, L’Oiseau aux sept surfaces, La Pastèque, 2013)

レッド・ケチャップ、日本へ
(Red Ketchup, T6, L’Oiseau aux sept surfaces, La Pastèque, 2013, P43)

『レッド・ケチャップ』は『ティタニック(Titanic)』という雑誌でも連載されたようですね。これはどんな雑誌なのでしょう?

『クロ(CROC)』の姉妹誌で、BDだけで構成された雑誌でした。『クロ』で『ミシェル・リスク』を連載していて、レッド・ケチャップの人気が出たから、『ティタニック(Titanic)』で『レッド・ケチャップ』を新シリーズとして連載しようということになったんです。それからは、『ミシェル・リスク』と並行して、『レッド・ケチャップ』を連載することになりました。創刊(1983年)から2年後、『ティタニック』は休刊してしまい、その後、『レッド・ケチャップ』は『クロ』誌に戻ることになりました。

『アメリカあるいは失踪者(L’Amérique ou le Disparu)』というグラフィックノベルも出版されていますね。やはり『ミシェル・リスク』や『レッド・ケチャップ』のようなクラシックなBDのシリーズものを描くのとは違いますか?

ラ・パステック社での『ミシェル・リスク』と『レッド・ケチャップ』再刊の評判は上々だったのですが、昔取った杵柄にだけ頼りたくはありませんでした。そこで、長らく温めていた企画を実行に移すことにしたんです。それは、若い頃に読んだフランツ・カフカの最初の長編小説『アメリカ』(または『失踪者』とも)をBDにするというものでした。たしかに文学作品をBD化するのとオリジナルの脚本に基づいてBDを描くのでは違いますね。なにより『ミシェル・リスク』と『レッド・ケチャップ』で共作しているピエール・フルニエはまだ生きていますが、『アメリカ』(『失踪者』)のカフカは死んでいますからね(笑)。

『アメリカあるいは失踪者』(Réal Godbout, L’Amérique ou disparu, La Pastèque, 2013)

『アメリカあるいは失踪者』の最初のページ

小説をBDに変換するに当たって、作者の意図にせよ、物語の筋にせよ、なるべく原作に忠実でいようと思うわけですが、どうしても変わってしまう部分があります。私はBDを作りたいのであって、挿絵入りの小説を作りたいわけではないからです。作画のスタイルや語り口は私が今まで作ってきたものとそう変わりはしないと思いますが、ただ、昔していた1カ月に4ページの連載と比較すると、160ページの単行本は、物語のリズムが違うでしょうね。一方で、この物語の主人公の若者は、前世紀の初めに、右も左もわからないまま、アメリカに放り込まれるわけですが、その状況は、少しミシェル・リスクに似ているかもしれません。フランツ・カフカというと、知的で、不吉で、気難しい作家だと思われがちですが、彼の作品、特にこの『アメリカ』には、ユーモアがたっぷり込められているんです。もっとも、それは悲観的で不条理なユーモアですが……。

手塚治虫さんと会ったことがあるというお話ですが、日本のマンガはお読みになりますか? 好きな作家や作品があれば教えてください。

私が最初に知ったのは、伝統的なマンガ、つまり『北斎漫画』です。北斎は大好きな画家で、あらゆる時代、あらゆるジャンルの画家の中で一番好きな画家のひとりだと言っていいほどです。

現代のマンガについても少しは知っていますが、よく知っているとは言えそうにありません。若い頃には、ずいぶん熱心にBDを読んだものですが、あいにくその当時、日本のマンガはまだあまりケベックでは知られていませんでした。マンガの存在を知ったとき、私はもうすっかり大人になって、BD作家として働いていて、さまざまな影響を取り入れ終え、自分のスタイルを確立してしまっていました。その頃と比べても、状況はずいぶん変わっていて、日本のマンガは今や大人気です。私は大学でBDを教えているわけですが、学生たちの大半は、日本のマンガの影響を受けています。

私自身に話を戻すと、何人か好きな作家がいます。とりわけ古典と見なされている作品に馴染んでいて、もちろん翻訳で読みます。当然のように手塚治虫、それから谷口ジロー。谷口作品では、特に『遥かな町へ』が好きです。あとは辰巳ヨシヒロ。彼の作品に見られる、苦味のある、何ならシニカルと言ってもいい、しかし、とても公正なトーンが好きです。

できることなら、もっと日本のマンガのことを知りたいですね。これから日本を訪れるので、その機会にマンガの教養を高めたいと思います。

最後に今後の予定を教えてください。

昨年の秋から、ミステリ作家のロラン・シャバン(Laurent Chabin)と組んで、新しい企画に取りかかっています。ミステリBDなんですが、警察ものというわけではなくて、社会の周縁に生きる人たち、つまりホームレスとか路上生活者とか売春婦とかヒモに焦点を当てています。タイトルは今のところ『私が死ぬとき(Quand je serai mort)』で、タイトルからも物語の暗い側面がうかがえるかと思います。物語の舞台は現代のモントリオールで、別の人物の罪をかぶって10年間投獄されていた男が刑務所を出所するところから始まります。主人公は女性で、彼女は一種のソーシャルワーカーとして、男をサポートする一方で、彼の過去の謎に迫っていきます。

この作品は、もしかしたらシリーズになるかもしれません。まずはこの1冊に専念して、今後のことは、後で考えたいと思っています。

また、もしかしたら、ピエール・フルニエと『レッド・ケチャップ』を再開するかもしれません。具体的なプランがあるわけではないですが、そんなこともぼんやり考えています。

それから、『レッド・ケチャップ』の映画化企画が進行中です。私たちは、脚本のアドバイザーとして、この企画に関わっています。それ以外の部分は制作プロダクションの管轄ですが、それでも、映画が原作BDのマインドに忠実であるように、見守っていきたいと思います。

現在のゴドゥブさん
Photo by Marc Tessier


レアル・ゴドゥブさん出演イベント:

日時:2018年2月4日(日) 13:30~15:30
会場:京都国際マンガミュージアム 1F ワークショップコーナー
ケベックBD作家・レアル・ゴドゥブと一緒に作品を作ろう!

日時:2018年2月6日(火) 18時~19時半 ※要申込:2月1日(木)まで
会場:在日カナダ大使館E.H.ノーマン図書館
レアル・ゴドゥブ(Réal Godbout)さんとカナダ・ケベック州発のコミックス〈ケベック・バンド・デシネ〉について語ろう

About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

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