海外マンガの人々―ヌヌミさんインタビュー

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海外マンガの仕事に関わる人物を紹介する「海外マンガの人々」。今回ご紹介するのは、カナダのケベック州はモントリオールで活躍するヌヌミさん。ヌヌミさんは2017年に発表した初のバンド・デシネ『スカイ・ローバー(Sky Rover)』で、2017年の文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員推薦作品に選ばれています。今年2018年11月末から12月上旬にかけて来日し、さまざまなイベントに出演する予定です。

ヌヌミさん(Nunumi)

ヌヌミさんのお仕事をまだご存じでない方も多いと思います。まずは簡単に自己紹介していただけますでしょうか? 長い間アニメ業界でお仕事をされていて、バンド・デシネは最近始められたとか?

そうなんです。私は15年間アニメ業界で働いてきました。ここしばらくモントリオールのアニメ業界はとても盛り上がっていて、おかげで2010年から私はもっぱら長編アニメの仕事に専念しています。役割はその時々で違うんですが、アニメーター、キャラデザ、ストーリーボードなど、いろいろです。2Dの仕事をすることもあれば、3Dの仕事をすることもあります。ここ4年ぐらいは特にストーリーアーティストの仕事をすることが多いでしょうか。ストーリーアーティストといのはアメリカのアニメに固有のポストで、脚本とストーリーボードを兼ね備えた仕事です。

ストーリーアーティストの仕事を通じて、ストーリーを書くということについて改めて考えるようになって、自分自身の物語を語ってみたいと思うようになったんです。それがきっかけで自分でバンド・デシネ(以下BD)を描くことになりました。

アニメではどんな作品に関わったのですか?

一番よく知られた作品だと『スーサイド・ショップ』と『フェリシーと夢のトウシューズ』です。その他だと『エイプリルと奇妙な世界』と『戦争を止めた犬(英題:The Dog Who Stopped the War/仏題:La Guerre des Tuques)』3D版にも関わりました。新しいところだとネットフリックスで公開された『ノーム・アローン(Gnome Alone)』。この作品ではストーリーアーティストを務めました。愉快で、もったいぶったところのない作品です。他にも関わった作品はいろいろあるのですが、まだ制作途中で、これから数年間かけて公開されていくはずです。プリプロダクションから公開まで、映画を作るには膨大な時間がかかるんです。

少し前から地元で制作されている『フェリックスとモルガーの宝(Félix et le Trésor de Morgäa)』という映画に関わるようになったのですが、そこでは助監督を務めています。助監督は初めてなので、勉強になることが多いです。

ヌヌミさんが関わったアニメ

ヌヌミさんのバンド・デシネ『スカイ・ローバー(Sky Rover)』は2017年に文化庁メディア芸術祭マンガ部門で審査委員推薦作品に選ばれました。ご自身のサイトで無料公開されていますが、これはどんなお話なのでしょう?

主人公は飛行機で旅するある旅人です。ちょっと事故があって、飛行機の修理のために、彼はしばらく足止めをくらってしまいます。そこで彼はランタンを作る女性職人と出会います。ふたりはまるっきり異なる暮らし方をしています。普通に過ごしていたら決して出会うことはなかったであろうふたりが出会うわけです。

女性は特殊なランタンを作っていました。中に入っているのはホタルで、ひとつひとつのランタンがホタルの家になっているんです。ホタルが幸せなら、ランタンも明るく光り輝きます。ところが、ひとつだけどうやってもうまく輝いてくれないランタンがあります。彼女はすっかり頭を抱えてしまいます。そこに旅人がある助言をする…そんなお話です。

『スカイ・ローバー(Sky Rover)』表紙

これはヌヌミさんの最初のBDなんですよね? セリフがまったくないサイレント作品ですが、どうしてセリフを使わないという選択をしたのでしょう?

ええ、初めて作ったBDです。

実は元々、短編アニメ用の企画だったんです。アニメーション作家はサイレントの物語が大好きなんです。言葉を用いないと、キャラクターの演技が重要になりますからね。それこそアニメーターの本分です。

アニメーションの問題は、1分間のアニメを作るのに膨大な時間がかかるということです! 自分ひとりで完成させようとすると、それこそ何年もかかってしまいます。それなのに語りたい作品はものすごくたくさんあったりする。全部をアニメーションにしようとしたら、とてもじゃないですが、時間がたりません! それでBDにしてみようって思ったんです。元々BDは大好きだったし。

BDを作るに当たって、元々の無言劇の短編アニメの基本的なスピリットは残しました。キャラクターたちに話をさせなきゃいけない必然性を感じなかったんです(彼らには名前すらありません!)。

実際にBDを描いてみて思ったのは、セリフなしでBDをやるのは、セリフのないアニメを作るより難しいということです。BDだと、作者が物語の“時間”をコントロールすることができないんです。アニメではそれが可能で、物語を語る便利な道具になりえます。とはいえ今回はBDで物語を語らなければならないわけで、うまい手立てを考えなければなりませんでした。その工夫のせいもあってか、物語に曖昧さのようなものが生まれ、個人的には気に入っています。

BDには描かれていない部分もあるわけですが、読者にはその空白を補いながら、物語に参加してもらいたいですね。

『スカイ・ローバー』中面。セリフなしで物語が進む

この作品は元々WEBで読むように構想されたのですか? 紙版も存在しているのでしょうか?

元々はWEBで読まれることを想定して作りました。でも、自費出版で紙版も作っています。PCではBDを読まないという人にも読んでもらえますからね。『スカイ・ローバー』にはセリフがありませんから、あらゆる読者に広く読んでもらえるポテンシャルがあると思います。ランタンの比喩はある程度の大人でないとわからないかもしれないけど、3歳の子供でもこの作品を“読む”ことはできると思います。

『スカイ・ローバー』以外にも作品を作ってらっしゃるんですか?

はい。ちょうど2作目の『どこにも辿りつかない切符(英題:A Ticket to Nowhere/仏題:Un Billet Pour Nullepart)』が完成したところ(つい先週!)です。『スカイ・ローバー』の続編ではないのですが、スピリットは同じです。今回はキャラクターに話をさせているのですが、もうひとりのキャラクターのセリフは目に見えないようにしてあります。片方のセリフや絵を手がかりに読者が自分自身で対話を考えなければなりません。私はどうやら読者の皆さんにも仕事をさせたい傾向があるみたいですね(笑)。

『どこにも辿りつかない切符(英題:A Ticket to Nowhere/仏題:Un Billet Pour Nullepart)』表紙

『どこにも辿りつかない切符』は近々ルナーク(Lounak)社からフランス語で出版される予定ですが、自費出版した英語版を日本に持っていきます。なので、日本の皆さんが最初の読者ということになります。海外マンガフェスタで販売しますので、ぜひ読んでみてください!!

『どこにも辿りつかない切符』中面

それから、『プランシュ(Planches)』というケベックのバンド・デシネ雑誌があるんですが、次の号に作品を掲載することになっています。バンド・デシネによる詩のような作品で、タイトルは『ホエール・エクスプレス!(Baleine Express!)』。環境問題を意識した作品です。

『ホエール・エクスプレス!(Baleine Express!)』イメージ

ヌヌミさんにとってアニメとバンド・デシネの違いとはなんですか?

時間です!!!! 初めてBDを作ったとき、時間のコントロールをできないことにどれだけ面食らったことか……。アニメーションでは、沈黙の時間やアクションの速度、休止といったものをコントロールすることができます。これらの要素を通じて無限にいろんなことを伝えることができます。BDでは、そうしたことの決定権があるのは読者で、時として私はその手綱をうまく手放せずにいるんです。私のBDを読んだら、紙の無駄遣いだと思う人もいるでしょうね。ちょっとしたアクションを描くのにも私はたくさんの絵を費やしているありさまですが、同じアクションを描くにしても、BD作家の中にはたった1枚の絵で済ませてしまえる人もいるのではないかと思います。私の場合は、プロとしてアニメのストーリーボードを描いていたことが強く作用しているのでしょう。

これはもしかしたら“悪い習慣”なのかもしれませんが、ただ私はそれを必ずしも放棄してしまいたいわけでもないんです。視線が変わったり、態度が変わったりするのを2つ3つのフキダシで表現することも可能でしょうけど、絵をたくさん使って、その変化を絵として表現してもいいのではないかと思います。

BDは子供の頃からお好きだったんですか? あるいは日本のマンガやアメリカのコミックスのほうが身近だったのでしょうか?

小さい頃にフランス・ベルギーのBDのクラシックを読んだのが最初でした。『タンタンの冒険』に『アステリックス』に『ラッキー・ルーク』……。母が地元の図書館のボランティアをしていて、図書館に行くときは私も一緒でした。そんなとき、私が退屈しないようにと、これらの本を引っ張り出してくれたんです。当時まだ文章は読めませんでしたが、絵を眺めては自分なり物語を作って楽しんだものです。それが私にとって最初のBD体験でした。

もちろんそれは暇つぶしとしては楽しい体験でしたが、これらの本を通じて、BDにどっぷりはまったわけではありません。

1990年代になって、ある日、書店のウィンドウに新しいタイプのBDがあるのを見かけたんです。それは日本のマンガでした。学校の体育の授業をさぼっていた(しっ! ウチの母親には内緒にしておいてくださいね!)私は、こうして初めてマンガを手に取ったのでした。店内をひとしきり(こっそりと)見渡したあと、私は試しに『らんま1/2』の第3巻を買ってみることにしました。じっくり読んでみてショックを受けました。それまでこれほど有機的にアクションとドラマとロマンスが結びついたものを読んだことがなかったんです。ひとたび読み始めたら、ページを繰る手が止まりませんでした!!

年が経つにつれ、多様なマンガが翻訳されるようになり、やがてケベックの本屋の棚に決定的に欠けていた空白まで埋めることになります。それは少女や女性のための作品です。あからさまに少女・女性向けを押し出した売り方をしていたわけではないのですが、翻訳された初期のマンガは女性読者にとって魅力的に映っていました。これは当時、アメリカのコミックスではなかったことです。

私の好きなマンガは常に少年マンガでした。とはいえ、それらのほとんどは女性によって描かれた少年マンガでした(『らんま1/2』、『鋼の錬金術師』、『地球へ…』)。どうしてなのか、それは私にもわかりません。

ケベックのBDはいくつか日本語に訳されていますが(イザベル・アルスノー絵、ファニー・ブリット文『ジェーンとキツネとわたし』、ジュヌヴィエーヴ・カストレイ『少女ゴーグル』など)、おそらくケベックのBDシーンについては、日本ではあまり知られていないと思います。ケベックのBDにはどのような特徴があるのでしょう?

ケベックのBDにはこれまでいくつか波がありました。1990年代にはユーモアBDが花盛りで、『サファリール(Safarir)』や『クロ(Croc)』などの雑誌が影響力のあるモデルでした。ここ10年くらい(あるいはもう少し長いかもしれません)、BDはそれまでより個人的で、知的な様相を呈してきています。ユーモアBDも未だにありますが、ユーモアはより控え目で、個人的かつデリケートなものになってきていると思います。ミシェル・ラバリアーティ(Michel Rabagliati)のような作家の作品を通じて、ケベックBDは世間的にも高い評価を得られるようになりました。読者も今や、BDは面白おかしいだけでなく、時に人を涙させるものであることも理解しています。加えて、例えばギィ・ドゥリールの作品などは、BDが“ジャーナリズム”としても潜在的な可能性を持っていることを教えてくれました。

私がケベックのBDに関して気に入っているのは、ケベックBDとはこれこれこういうものですといはっきりとした特徴がまだ明確になっているわけではなく、定義されずに、さまざまな可能性に開かれている点です。アーティストたちもとても自由です。個人的には、ケベックBDがこのまま定義されない状態を維持し、永遠に耕し続けられる土地として存在し、規則でがんじがらめにならずにいてくれたらと思っています。

今でもマンガやBDを読みますか? 気になっている作家や作品があれば教えてください。

実はアニメの仕事と個人的なBDの企画で手いっぱいで、なかなか思うように最新動向に追いつけずにいるんです……。世界が速すぎるのか、私が遅すぎるのか……(年を取ったせいかしら?)。最近読んだ中で心から感動したマンガが2つあって、『聲の形』と『僕だけがいない街』です。どちらも傑作だと思います。フランス語圏のBDでは『星々の城』(3巻と4巻はまだ読めてませんが…)が大好きです。

日本にはいらしたことがあるんですよね? どんな印象をお持ちですか?

何度か行ったことがあります! 今回で5回目ですね。大好きな国です。皆さん親切だし、景色もきれいだし、食べ物もおいしいし。何度も行っているのに、行くたびに新たな驚きがあります。日本はやっぱり秋が最高ですね。暑くなくて(日本の夏は私のようなカナダ人にはとても耐えられません !!)、紅葉がきれいです。

私は日本語の音が好きなんです。まるで川のせせらぎを聞いているみたいな感じがします。日本語では時にはっきりとものを言わず、説明をコンテキストに任せることがありますが、そのやり方も詩みたいです。日本語がもっとうまくなってもっと理解できるようになるといいのですが……。

あとは紫芋のデザート! 紫芋のデザートを食べられるのは日本だけなんですよね。おいしくて大好き !!

日本での予定を教えてください。

11月23日(金)に「国際的視点でマンガを考える! ケベック・バンド・デシネ特集シンポジウム」に参加して、11月25日(日)には海外マンガフェスタに参加します。A5ブースにいますので、ぜひ会いにきてください! 12月1日(木)には京都国際マンガミュージアムで子供向けのワークショップを開催します。12月6日(木)には再び東京に戻ってきて「海外マンガ交流会―ケベックのBD作家ヌヌミさんをお招きして」に参加します。

最後に今後の予定を教えてください。

今度はBDの「連載」に挑戦しようと思っているんです。複数の巻にわたって物語が展開するこの連載という形式が昔から好きなんですよね。連載なら、読者がキャラクターたちと一緒に長い旅をする、そんな読者をひきつける物語を作ることも可能です。日本では多くのマンガが連載形式ですが、実はケベックにはそういう作品はほとんど存在しないんです! そのような物語を作ることが、ケベックでは、作家にとっても出版社にとっても、いかにリスクのある冒険かということがわかります。おそらくはWEB上での連載ということになるかと思います。サイレント作品にはならないでしょうが、それでも無言劇のような演技はたっぷり入れたいと思います。もうストーリーはできているので、あとは机の前に座って描き始めるだけです!

新作のためのイメージ

About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

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