海外マンガの人々―ラウラ・イョーリオさんインタビュー

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海外マンガの仕事に関わる人物を紹介する「海外マンガの人々」。今回ご紹介するのは、バンド・デシネで活躍するイタリア人作家ラウラ・イョーリオさん。ラウラさんは、2017年、『闇の心(Le Cœur de l’ombre)』(ロベルト・リッチ、マルコ・ダミコと共作)で第10回日本国際漫画賞優秀賞に選ばれました。まもなく来日する予定で、4月上旬から下旬にかけ、日本全国でさまざまなイベントに出演される予定です。

ラウラ・イョーリオさん
(Laura Iorio)

ラウラさんの作品は、残念ながらまだ公式的な形で邦訳が出ていません。簡単に自己紹介していただけますか?

イタリア人で、バンド・デシネ(以下、BD)作家でもありイラストレーターでもあるんですが、主にフランス語圏の市場で仕事をしています。小さい頃から絵を描く仕事に就きたいと思っていて、地元の美術系の高校に通い、そのあと、ローマでBDの勉強をしました。フランスのBD界で仕事を始めたのは2007年からです。今のところ、BDを2冊出版しているのですが、これからは絵本の仕事もしたいと思っていて、いろんな企画を温めているところです。その中には日本の昔話に着想を得たものもあるんですよ(笑)。

2冊のBDというのは、2009年に出版された『ジューン・クリスティ(June Christy)』と2016年に出版された『闇の心(Le Cœur de l’ombre)』ですね。どちらもフランス語圏で出版されていますが、イタリアの作家さんがフランスでお仕事をするというのは、よくあることなのでしょうか?

そうですね。『ジューン・クリスティ』と『闇の心』は、どちらも、今回一緒に来日するロベルト・リッチと作ったもので、どちらもフランスの出版社から刊行されました。私より前にも、多くのイタリア人作家がフランスで仕事をしています。私は個人的に、フランスのBDと日本のマンガで育ったので、イタリアでの出版にはあまり興味がなく、フランスで仕事をしたいと思っていたんです。でも、昨2017年の6月に、『闇の心』のイタリア語訳が出版されて、私もついにイタリアデビューできました(笑)。

『ジューン・クリスティ』表紙イラスト
(June Christy, Éditions Nocturne, 2009)

『ジューン・クリスティ』中面

フランス語がおできになるということですよね?

そうですね。フランス語がすごく上手かどうかは措くとして、とにかく使うことはできます。参考書を見つけてきて、勉強しました。基礎を学んでからは、仕事のメールを書いたりして、実践的に身につけていった感じです。最初のうちは、フランスの編集者にたったひとつのメールを書くのにもすごく苦労したのですが、次第に早く書けるようになっていきました。そんなことが数カ月あって、それからパリに引っ越したんです。フランス語で話をする勇気がなかなか持てなかったんですが、人が話すのをたくさん聞いて、いろいろ学んでいった感じです。

代表作の『闇の心(Le Cœur de l’ombre)』は、2017年に第10回日本国際漫画賞の優秀賞を受賞し、フランスやイタリアでも高く評価されているようですね。

とてもありがたいことで、私自身とてもびっくりしています。一番驚いたのは、第10回日本国際漫画賞の優秀賞受賞でした。私は日本文化が大好きなので、日本でこういう賞をいただくことができて、心から感激しました。2017年には、イタリアのルッカ・コミックス&ゲームスというフェスティバルで、その年の優れたグラフィック・ノベルの1冊にノミネートしていただくことができ、これもうれしい出来事でした。

『闇の心』表紙
(Le Cœur de l’ombre, Dargaud, 2016)

そもそも『闇の心』の企画はどのように始まったのでしょう?

この企画の出発点は、私が学校を卒業した頃に遡ります。当時私は、既に絵本を描きたいと思っていて、絵本にふさわしい技法を手探りしていました。いろんな絵本出版社に持ち込みもしてみたんですが、あまりいい結果が得られず、それなら絵本的な技法でBDを描いてみたらどうだろうと思ったんです。そんな話をロベルト(・リッチ)にしたところ、彼が昔から温めていた物語を提案してくれました。それは、世界一怖がりの少年の話で、彼がウオモ・ネロ(黒い人)と出会うんです。ウオモ・ネロというのは、イタリアではよく知られている民話に登場する幽霊のような存在です。その話がとても気に入ったので、私たちはさっそく一緒に仕事をすることにしました。マルコ(・ダミコ)が脚本を担当してくれ、私とロベルトとで、グラフィックの部分(ストーリーボード、作画、彩色)を担当しました。

『闇の心』表紙イラスト全景。
表から裏にかけて一枚の絵になるように作られている

このBDの世界観を作り上げるのはとても楽しかったのですが、決して簡単なことではありませんでした。というのも、私はまだ学校を卒業したばかりで、あまり経験がなく、自由自在に絵を描くことができなかったからです。それでも、どうにか試しに2ページを描き終えて(原書のP39とP49)、私たちが好きなフランスの出版社に片っ端から送りました。すると、ダルゴー(Dargaud)社がすぐに、熱烈な返事をくれたんです。こうして、『闇の心』の出版企画が本格的に始まりました。

企画の提案時に出版社に送ったという
『闇の心』P39

企画の提案時に出版社に送ったという
『闇の心』P49

絵と色彩がすばらしいですね。具体的にどんな技法を使われているんですか?

すごく時間がかかる、面倒な技法です(笑)。今ではこの技法はBD向きでないとはっきり言えますね。でも、当時私はまだ若くて、エネルギーがあり余っていたし、あまりよく物事を考えていませんでした(笑)。その証拠に、2008年に出版契約をしたこの本が実際に出版されるのは、なんと2016年になってからなんです。

元々私は子供向けの本のイラストが好きで、ヴァカンスでパリを旅行したときに、レベッカ・ドートルメール(ドートゥルメール)の作品に出会いました。まさにひと目惚れです。そして、彼女の作品みたいに、グアッシュを用いてBDを描いてみようと思い立ったんです。

実際、『闇の心』は、全ページ原稿に直接彩色しています。基本的にグアッシュを使っていますが、ところどころ色鉛筆で補足もしています。描き始めてから、こんなことをするのは狂気の沙汰だと気づきましたが、それこそ後の祭りでした。

『闇の心』中面
世界一怖がりな少年リュック

『闇の心』
リュックに襲いかかるウオモ・ネロ(黒い人)

『闇の心』は子供向けのBDと言っていいのでしょうか?

いいと思います。私たち自身、主に子供たちに読んでもらいたいと思って、物語を作りました。ただ、大人の中にも気に入ってくれる人がいるかもしれませんね。例えば、ピクサーのアニメ映画がそうであるように。

日本ではイタリアのマンガのことはほとんど知られていないのではないかと思います。イタリアのマンガについて教えていただけますか?

しばらく前まで、イタリアのマンガ市場は、ボネッリ(Bonelli)社とイタリアのディズニー社の2社が牽引していました。ボネッリは主に、『テックス(Tex)』や『ディラン・ドッグ(Dylan Dog)』といった大人向けの作品を出版し、ディズニーは幼児や青少年向けの作品を出版していました。この2社から出版されているのは、基本的にはシリーズもの(既存のシリーズもので、作家の新規オリジナルではありません)で、さまざまな脚本家やマンガ家が関わります。イタリアでプロのマンガ家になるためには、このどちらかで仕事をする必要があったのです。こうしたマンガが好きでない人や、絵柄がこうした作品向きでない人は、必然的に他の市場(アメリカ、またはフランス)に向かうことになります。

こうしたイタリアのマンガとフランスのBDを比べると、物語の語り方や判型、刊行ペース、テーマなど、さまざまな点で違いが認められます。販売場所は主にキオスクで、中面はほとんど白黒で描かれています。一昔前まで、フランスのBDの翻訳はあまりなく、アメリカのコミックスは、スーパーヒーローものが中心でした。日本のマンガは、ある時期以降、着実に浸透していって、今やイタリアで一番売れているもののひとつになっていると思います。

ただ、しばらく前まではこういう状況だったのですが、ここ数年でいろいろと状況が変わってきました。新しい出版社がいろいろと誕生し、海外のマンガが多く翻訳出版されるようになりました。それまでイタリアでは読めなかったタイプのマンガが、読めるようになってきたんです。さまざまなマンガが出版され、キオスクだけでなく、書店でもマンガが買えるようになりました。イタリア国内からも、フランスのBDやアメリカのコミックスに近いものが出版されるようになり、それぞれのマンガが好きだった読者も、新しいイタリアのマンガを読むようになってきている印象があります。

BDをお読みになるという話でしたが、好きな作家や作品はありますか?

正直言うと、BDやアメリカのコミックスは年々読まなくなってきてしまっています。それでもヨーロッパにもアメリカにも好きな作家はいます。例えば、ジピ(Gipi)、クレイグ・トンプソン、デビッド・マツケリー、フレデリック・ペータース、マニュ・ラルスネ(Manu Larcenet)、クリストフ・シャブテ、パスカル・ラバテ、アルフレッド(Alfred)、シリル・ペドロサ(Cyril Pedrosa)……。既に世界的に名声を博している巨匠だと、メビウスとかアラン・ムーア、フランク・ミラーなども好きですが、こうしてあげていくと、キリがないですね!

日本のマンガも少しは読まれますか?

少しどころではないですね。ほとんど日本のマンガしか読まないと言っても過言ではありません。私は日本のマンガが大好きなんです! マンガがあったからこそ、私自身、マンガを描きたいと思いました。初めて読んだのは15歳の頃ですが、それから未だにずっと読み続けています。当時は、駅のキオスクでマンガを買って、電車の中で読んだものでした。少女マンガから入って、徐々にその他のジャンルを発見していきました。今は松本大洋先生と浦沢直樹先生のお仕事が特に好きです。おふたりと同じくらい優れた感性と作画技術、語り部としての能力を身につけられたら、どんなにいいでしょう。それ以外にも好きな作家さんは本当にたくさんいます。桂正和先生、惣領冬実先生、村上たかし先生、浅野いにお先生、小幡文生先生、安倍夜郎先生……。いがらしゆみこ先生、北条司先生、武内直子先生、高橋留美子先生、永井豪先生、池田理代子先生などは、子供の頃からお世話になっているマンガ家さんです。永井先生と池田先生には、日本国際漫画賞の授賞式のときに、光栄にもお目にかかることができました。まさにわが人生最良の時でした!

日本のアニメも大好きですよ。80年代に少年少女時代を過ごしたイタリア人は、誰もが日本のアニメとともに成長したものです。そのときに抱いたアニメやマンガに対する愛が嵩じたあまり、今私はこうしてBDを描く仕事をしているのです。

昨年、日本国際漫画賞の授賞式で日本を訪れた際に、ぴえろの創業者でもある布川ゆうじさんにお目にかかる機会があったんです。布川さんは『闇の心』を読んで気に入ってくれたそうで、アニメにするのにぴったりの作品だよと言ってくださいました。日本のアニメで育っただけに、天にも昇るような気持でした。どなたかアニメ化してくださる方がいたら、ぜひお願いしたいですね(笑)!!!

つい先日、高畑勲さんが亡くなられたことをニュースで知りました。世界のアニメ界にとって多大な損失です。高畑さん、宮崎駿さん、今敏さん、細田守さん、宮崎吾朗さんは、私の大好きなアニメ監督で、私にとって尽きせぬ霊感源になっています。高畑さんが亡くなられたのは、本当に残念です。

今回は少し長めに日本に滞在するそうですね。日本でどんなことをなさる予定ですか?

今回は22日間日本に滞在する予定です! 4月11日(水)から22日(日)までは、ロベルト・リッチと一緒に日本のいろいろな都市を訪れ、講演やワークショップをさせていただきます。とてもいい経験になりそうですし、想像力が刺激されて、私たちの仕事のいいインスピレーションになってくれるんじゃないかとワクワクしています。残りは東京で観光を楽しむつもりです。いくつか好きな作家さんの展覧会も訪れてみたいと思っていますし(特にジェームズ・ジーンと寺田克也さんの展覧会)、街そのものを楽しんだり、美しい書店に行ってみたり、画材屋さんをのぞいてみたりしたいと思っています。東京にはヨーロッパやアメリカからやってきて仕事をしているマンガ家も多いでしょうから、そんな人たちとも出会えたら楽しいでしょうね。日本で暮らしている海外のマンガ家がいれば、ぜひ連絡してほしいです(笑)。私たち自身、いつか日本で暮らしながら仕事ができたらいいなあと考えているので、今回の滞在がその足がかりになれば最高ですね!

ラウラ・イョーリオさん(右)と
ロベルト・リッチさん(左)

最後に今なさっているお仕事や今後の予定をお聞かせください。

今は複数の仕事を並行して進めています。数カ月前にまだ若いフランス人原作者セドリック・マイヤン(Cédric Mayen)から、一緒にBDを作らないかという提案を受けました。その企画の世界観やデザインに手をつけたところです。企画の立ち上げ当初は、手探り状態で、あまりスピードがあがらないものなのですが、加えて、今までより早く原稿を完成できるように、技法を変えたばかりなので、なおさら時間がかかっています。この作品についても、ロベルト・リッチがストーリーボードを担当してくれる予定です。

ラウラ・イョーリオさんのイラスト1

ラウラ・イョーリオさんのイラスト2

それと並行して、絵本の挿絵を3冊手がけています。ひとつは、ヨーロッパの雨の多い悲しげなある都市を舞台にした物語で、そこに魔法のような力を持ったあるケーキ職人の少女がやってくることで、“大変なこと”が起こるという作品です(友人のダニエラ・ヴォルパリDaniela Volpariが文章を担当してくれます)。残りのふたつはアジアが舞台で、そのうちのひとつは中国の物語(ヴァレリア・コラサンティ作の物語で、中国のクマがさらされている困難な状況を語る寓話です)で、もうひとつは日本の物語(昔話の「鶴の恩返し」で、日本人マンガ家でイタリアでマンガを教えていらっしゃる山根緑さんとの共作です)です。このうちのどれかひとつでも日本で出版できたらうれしいですね。うまくいくようにお祈りしています。

ラウラ・イョーリオさんのイラスト3

ラウラ・イョーリオさんのイラスト4

これらとはまた別に、自分ひとりだけでBDを作りたいという気持ちも大きくなってきています。まだ真剣に検討する段階にきていませんが、特に急ぐ必要もありませんし、じっくり考えていきたいと思います。

今回の日本旅行のために編集したラウラ・イョーリオさんとロベルト・リッチさんが編集した『闇の心』紹介動画


ラウラ・イョーリオさん出演イベント:

日時:2018年4月12日(木)18:30~20:30
会場:イタリア文化会館
講演会「ラウラ・イョーリオ、ロベルト・リッチ×ヤマザキマリ」

日時:2018年4月13日(金)18:30~20:30
会場:アンスティチュ・フランセ 東京メディアテーク
ラウラ・イョーリオとロベルト・リッチによるライブドローイング

日時:2018年4月14日(土)12:45~14:15
会場:アリアンス・フランセーズ(名古屋)
バンド・デシネ ワークショップ

日時:2018年4月17日(火)18:30~20:30
会場:アリアンス・フランセーズ(仙台)
ラウラとロベルトのライブ・ドローイング

日時:2018年4月18日(水)18:00~20:00
会場:札幌アリアンス・フランセーズ
ラウラ・イョーリオ&とロベルト・リッチを囲んで

日時:2018年4月21日(土)17:00~18:30
会場:イタリア文化会館– 大阪( 中之島フェスティバルタワー 17 階)
ラウラ・イオリオとロベルト・リッチを迎えて

日時:2018年4月22日(日)11:00~12:30
会場:アンスティチュ・フランセ関西 稲畑ホール
漫画家イオリオとリッチのワークショップ

About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

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