海外マンガの人々―Hambuckさんインタビュー

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海外マンガの仕事に関わる人物を紹介する「海外マンガの人々」。今回ご紹介するのは、台湾漫画家 HAMBUCK(ハンバック)さんです。代表作の『龍泉侠と謎霧人―台湾布袋劇伝説―』(原題『龍泉俠大戰謎霧人』)は、福建省から始まったとされる伝統的な人形劇「布袋劇(プータイシー)」を、創り手の視点からドラマティックに描いた作品です。構想のきっかけから、作品への思いなど、インタビューしました。

Hambuck(ハンバック)さん

『龍泉侠と謎霧人―台湾布袋劇伝説―』について、日本の方々に向けて、どんな作品か、簡単に説明していただけますか?

「布袋劇」は台湾人にとって、百年前から連綿と続く主要なエンタテインメントの一つです。戯台の前に布袋劇を見に来た人々がいっぱいに集まり、演師たちは渾身の力で、生き生きした科白(せりふ)と人形を操作するテクニックで、観客を別の時空へと導きます。路上で布袋劇の演目を観ることは、私の世代にとっても祖父母の世代にとっても共通の思い出です。そんな布袋劇がキラキラと輝いた時代と、演師たちが経験した様々な物語を、漫画を通して、お届けできればと思ってこの作品を描きました。

『龍泉侠と謎霧人―台湾布袋劇伝説―』(原題『龍泉俠大戰謎霧人』)
日本語版試し読み

『龍泉侠と謎霧人―台湾布袋劇伝説―』を企画した経緯を教えてください。
調査資料などはどのように集めたのでしょうか?

中央研究院が新しく創立した漫画雑誌『CCC創作集』に関わったことがきっかけでした。歴史資料については、私の担当編集の頼国峰さんが用意してくれました。その後二人で討論を重ね、この作品を作っていったんです。

雑誌『CCC(Creative Comic Collection)創作集』 創刊号~第20号書影

布袋劇の発祥について教えてください。

布袋劇の発祥は17世紀の中国福建泉州です。元々は演者一人が道具を背負って、路上で簡易な戯台を作り演じたものだったそうです。その後、徐々に精緻な人形、舞台、脚本が用いられるようになり、楽団の生演奏が行われるところまで発展してきました。布袋劇は台湾でさらに発展し、劇団は廟会などのイベントがあると、常に出演を打診されます。現代の人々がテレビやインターネットでドラマ番組を一話ずつ追いかけるように、布袋劇はかつての人々にとって、主な娯楽の一つでした。テレビがまだ普及していなかった時代、布袋劇を一話一話、毎日廟会で追いかけるのは、私の両親世代と祖父母世代にとって、日常的なことでした。
その後、時代の波に巻き込まれ、生演出の伝統布袋劇は瞬く間に没落し、消えていくのですが、常に革新と変化を求め続ける演師たちはへこたれたりしませんでした。彼らは布袋劇を現代風にアレンジし、音声と画面を融合したより凝ったテレビ布袋劇に転換させ、テレビやインターネットを通して、今もなお活躍し続けています。

Hambuckさんが取材時に撮影した写真より
(台北偶戲館で行われた特別展にて撮影)

作中で、日本の植民地時代には、日本の警察からの取り締まりを避ける為に、演目を鞍馬天狗に切り替える場面がありますが、これは実際にあったことなのでしょうか?

これはすべて実話なんです。戦前戦後にかかわらず、布袋劇の演目はその時代の政治背景により変化し、さまざまな制限を受け、その中でさまざまな挑戦が行われました。作中に描いたように、漢劇の禁止令に合わせ、日本布袋劇を発展させようとしたこともありました。戦後の冷戦時代には、反共抗俄の演目が強要されたこともありました。すべて当時の演師たちが経験した本当の話なんです。

『龍泉侠と謎霧人―台湾布袋劇伝説―』内で鞍馬天狗が布袋劇に登場するシーン

この作品は、リズムと構成が非常に練られているように感じますが、そのあたりはどのような工夫があったのでしょうか?
特に冒頭は、まるで自分が子供に戻ったように、吸い込まれてしまいます。何か工夫されたでしょうか?

作品の章立ては、布袋劇の歴史を反映した構成になっています。章と章の間をどう繋げ、作品の完成度を高めるか、執筆当時は相当頭を悩ませました。悩み抜いた挙句、劇中劇の形式で演出することを決めました。布袋劇のストーリーには、「快意恩仇」(恩は恩で倍返し、讐は讐で倍返しするという意味)というテーマがよく登場し、「暴力は暴力で治める」という価値観が提示されるのですが、それに対するささやかな抵抗でもあります。

作品冒頭の見開き3連続が読者を物語の世界へ誘う

奥様(LONLONさん)も漫画家でいらっしゃいますが、お互いの作品を手伝ったりするんですか?

夫婦ともに漫画家であることの長所は、締切りになったら助け合うことができる点です。ネームを見せ合って相談することもできます(笑)。もちろんお互いの作品について、アドバイスも出し合います。自分のネームを相手に見せるときは、「このコマ割りすごいでしょう、見てごらんよ~」という自慢げな気持ちになったりするものですが、相手がそのネームを読んでキラキラした表情を見せたりすると、思わずうれしくなります。もちろん毎回うまくいくわけではないので、逆の結果になった場合は、頭を掻きながらいそいそと直すわけですが……(笑)。

LONLONさんの作品『巧藝奇縁(こうげいきえん)』
日本語版試し読み

プロフィールに「自由な生き方が憧れだったが、」とありましたが、本当はどんな仕事がしたかったのですか?

実はこの問いの答えを未だに探し続けているんです。私はシンプルかつ自由な生活に憧れています。独身だった頃は、バックパック一つ背負って、三ヶ月間アメリカを、東海岸から西海岸まで横断したこともありました。誰と会うか、何が起きるか、特に予想も期待もせずに過ごしてきました。いつかどこかの田舎に定着し、田畑を耕しながら生きていくことも、あり得ると考えていました。もちろん今は、結婚して子供もできましたから、背負うべき責任があります。でも、やっぱり人生は、複雑なことをせずに、シンプルかつ幸せに送ることができるのではないかと信じています。

【作者プロフィールの日本語訳】
台北人、漫画創作者。
自由な生き方が憧れだったが、漫画創作の誘惑に負けて、これが自分の天職だと決めた。

『龍泉侠と謎霧人―台湾布袋劇伝説―』には、たくさんのキャラクターが登場しますが、モデルとした方はいますか?

昔の雰囲気を掴むために、布袋劇演師たちの伝記を読みました。主に参考にしたのは、台湾の布袋劇巨匠・李天禄先生の伝記です。担当編集から提供された資料とエピソードを取捨選択しつつ、ストーリーに取り入れました。

■『龍泉侠と謎霧人―台湾布袋劇伝説―』の登場人物(序盤の主なキャラクター)


謝金鋒(しゃ・きんほう)
呉(ご)師匠に「生まれながらの布袋劇師だ」と称賛され、劇をひと目だけ見れば、科白(せりふ)を朗々と読み上げ、そっくりの芝居を再現できてしまう、ずる賢い奇才。


呉保袁(ご・ほうえん)
謝金鋒の兄弟子で、呉師匠の長男。錦福軒(きんふくけん)布袋劇団の二手(にしゅ)を担当。性格は豪放で粗削り、堂々たる気概を持っている。激しい立ち回りが好きで、新しい人形操作の開発に力を注いている。


呉師匠(ごししょう)
錦福軒布袋劇団の籠主(ろうしゅ)兼頭師(とうし)、科白回しが上手い。通俗演義小説から改編された公案劇『包公案』を演じる専門家。長男の呉保袁に劇団を継がせることで悩みを抱えている。


王德仙(おう・とくせん)
幼い頃から布袋劇が大好き。総督府で文芸娯楽委員に任命される。皇民化政策により台湾布袋劇が全面的に禁止された最中、幅広い人脈を活用し、劇団活動解禁のチャンスをつかみ取る。

これまで来日したことはおありですか?

実はこれが三回目の来日です。毎回、動物が本能的に巣に帰るかのように、秋葉原と中野へ向かってしまいます(笑)。普段から散歩がとても好きなのですが、日本は街並みが素敵で、治安も良いので、散歩に最適な国だと思います。深夜になってもずっと散歩をし続けて、ホテルに戻りたくないと感じることさえあります。今後機会があれば、日本のいろんな街を歩いてみたいです。

台湾漫画がもっと盛り上がるためには、これからどんなことが必要だと思いますか?

自分たちが生活している台湾という土地を探り、価値のある感情と物語を発掘するべきです。そして、この時代の思想にふさわしい方法で、自信を持って世界とコミュニケーションすることが必要でしょう。

今後、どんな作品を描き、どんな活動をしたいですか?

心理学の知識を取り入れた漫画作品を描いてみたいと考えています。漫画は手軽に読めて、簡単に知識を吸収できるコミュニケーションツールだと思うんです。読者を楽しませると同時に、実用的な価値もある漫画をぜひ作ってみたいですね。

ライバルと言える作家や注目している台湾アーティストはいますか? また、日本や台湾以外で気になる作家はいますか?

尊敬する作家も、好きな漫画家もたくさんいて絞ることができません。最近特に注目している台湾漫画ですと、李隆杰(リー・ロンジェ)先生の『1661国姓来襲』です。そして、いま好き過ぎて、手放すことができない作品はこうの史代先生の『この世界の片隅に』です。

『1661国姓来襲』李隆杰(蓋亞文化)

『この世界の片隅に/ 上』こうの史代(双葉社)
試し読み

最後に日本の読者の方にメッセージをお願いします。

漫画を通して日本の皆さんとつながれることを、心からうれしく思っています。




Hambuckさんは11月後半に複数のイベントに出演予定です。ぜひお越しください。

Hambuckさんご参加イベント:

2017年11月23日(木・祝)11:00~16:00
東京:東京ビッグサイト『コミティア122』内特設会場
海外マンガフェスタ2017
12:10~13:50 ライブドローイング @メインステージ
14:30~15:30 サイン会 @コミックカタパルトブース

販売物:
① 龍泉侠と謎霧人〈日本語版コミック〉/各500円(税込)
② 蓋亜文化漫画作品集(日本語)+サインボードセット/1,500円(税込)

2017年11月24日(金)18:30開場 19:00開始
東京:台湾文化センター(東京都港区虎ノ門1-1-12虎ノ門ビル2階)
講座第2回「台湾漫画で知る 台湾の伝統 昔と今」
事前予約制

2017年11月26日(日)11:00~19:00
東京:共同印刷株式会社播磨坂スタジオ(東京都文京区小石川4-15-7)
BRAVE&BOLD VOL.3

販売物:
① コミッション/各5,000円(税込)
② 龍泉侠と謎霧人〈日本語版コミック〉/各500円(税込)
③ 蓋亜文化漫画作品集(日本語)+サインボードセット/1,500円(税込)

About Author

平柳竜樹(TK)

1977年東京都豊島区生まれ。テレビ番組のナレーション、システム企業での新規事業立ち上げ、ベンチャー企業のスタートアップや事業再生のサポート業務を経て、2009年よりデジタルカタパルト株式会社に参加、2012年取締役就任。現在は、海外のブックフェアや出版社を巡る仕事が中心。一度、海外出張に出ると、なかなか日本に帰ってこないため、「マグロ漁船にでも乗ってるようですね。」と言われる。

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