海外マンガの人々―クリストフ・フェレラさんインタビュー

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海外マンガの仕事に関わる人物を紹介する「海外マンガの人々」。今回ご紹介するのは、日本で生活しながら日本のアニメ界で仕事をする一方で、フランス=ベルギーでバンド・デシネを発表している二刀流のフランス人作家クリストフ・フェレラさんです。クリストフさんが作画を手がけた『ミロの世界』第1巻は2016年3月にコミックカタパルトから電子書籍として邦訳されました。2017年11月にはその第2巻邦訳が刊行される予定です。

クリストフ・フェレラさん
(Christophe Ferreira)
© Dargaud / Cécile Gabriel

『ミロの世界』第2巻の日本語訳がいよいよリリースされます。心待ちにしていた読者もいるのではないかと思います。元々この作品はどういう経緯で作られることになったのでしょう?

以前、アニメの企画に取り組んでいたときに、脚本のサポート役として、ある人がリシャール・マラザノを紹介してくれたんです。最終的に企画そのものは日の目を見なかったのですが、彼とは親しくなり、その後も友達づきあいが続きました。
それから何年も経って、僕は当時温めていたさまざまな企画をリシャールに話しました。愉快なことに、それらのひとつが、偶然ながら、彼が温めていた企画と基本的なところでよく似ていたんです。僕らはアイディアを整理して、それをダルゴー社に提案しに行きました。こうして『ミロの世界』は日の目を見ることになったのです。

クリストフさんは日本にいながら、原作のリシャールさんはフランスにいながら、一緒にお仕事をしているわけですが、そのメリットとデメリットがあれば、教えてください。

リシャールは静かな環境で仕事をするのが好きだそうで、夜行性なんです。日本とフランスでは時差がありますから、僕らはちょうど同じ時間帯に仕事をしていることが多いですね。ですが、そうした特殊な状況を除けば、特にメリットは見当たりません。逆に、デメリットはいくつかありますね。一番のデメリットは、作品が売られている“市場”から、僕が離れて生活していることでしょう。フランスにいれば、作品に対するリアクションも割と簡単に得られるのではないかと思いますが、日本にいる以上、そうもいきません。編集者や原作者が言うことを全面的に信じるしかないんです。また、遠く離れた日本にいるせいで、めったにフェスティバルなどにも呼んでもらえません。メール経由でフェスティバルに招待してもらうこともありますが、実は日本に住んでいるんですと説明すると、決まってこんな答えが返ってきます。「なるほど。それでしたら、もしフランスにお戻りの際には、ぜひ当フェスティバルにご参加ください」。
バンド・デシネ界からも同業者からも遠く離れた場所に暮らしているんだなあと、日々実感しています。

原作のリシャール・マラザノさん
(Richard Marazano)

『ミロの世界』は少年向けのバンド・デシネと言っていいのでしょうか? 具体的な読者のイメージはありますか?

おそらく少年的な要素もあるかと思いますが、僕らの狙いは必ずしも少年向けのバンド・デシネを作ることではありませんでした。この作品を通じてやりたいのは、家族全員が楽しめる物語と世界を創造することです。

『ミロの世界』は大冒険の物語で、どこかジブリ映画的な雰囲気を感じさせます。世界観などで影響を受けている部分はあるのでしょうか?

どんなバンド・デシネ作家もそうだと思いますが、さまざまな影響を受けていて、その点は僕も一緒です。そのいちいちを列挙するのは簡単なことではありません。それらの影響の多くは、無意識的なものでもあるでしょう。ただ、僕の場合、絵柄については、スタジオジブリの影響ははっきりあると思います。それから、鳥山明先生と大友克洋先生の影響も感じられるかもしれません。
リシャールとストーリーについて相談していたときに、それまでに描いていた絵をいろいろ見せたことがありました。そのときに僕が彼にふと言ったのは、『はてしない物語』のようなものを創れたらいいねということでした。

リシャール・マラザノ原作
クリストフ・フェレラ作画
『ミロの世界』第1巻

個人的に『ミロの世界』で特に印象的なのは、温かみのあるデッサンとカラーリングです。作者のクリストフさんにとって、この作品の見どころやこだわりの点はどこでしょう?

なかなか難しい質問ですね……。いろいろあるとは思います。この作品では、物語の語りというか流れがなめらかにできたなと思っていて、その点は気に入っています。コマからコマへとなるべく自然につながるように、最大限の努力をしました。それから、キャラクターたちの態度が、生き生きとして、まるでそこにいるように感じられるように工夫をしているのですが、その点も気に入っています。自分がキャラクターのそばにいるように感じられるためには、絵の背景が、彼らが冒険を繰り広げるような広々とした空間として感じられる必要があるんだと思います。最後にもうひとつ気をつけたのが光です。光を操り、物語の雰囲気を出したり、コマのある部分を浮き立たせたり。暗い背景にある人物が光を浴びて立っているみたいな場面ですね。
これらのステップは僕にとってはどれも重要で、特にどの部分が重要ということではなく、まるごと全部合わせてバンド・デシネを描くことなんです。

『ミロの世界』第1巻から

クリストフさんは元々アニメーターですが、アニメの経験は、バンド・デシネを描く上で役に立ちましたか? あるいは、アニメとバンド・デシネはまったくの別物なのでしょうか?

日本でアニメーターとして食べていくには、速く的確に描けなければなりません。
日本でアニメーターの仕事をしていたおかげで、そうした描き方を学ぶことができました。
もうひとつ大事なことがあります。フランスでは、アニメーターは背景を描きません。背景を描くのは別の専門家です。そのせいで、僕は最初のうち、背景を描くのが怖くて仕方ありませんでした。どうやって描いたらいいかさっぱりわからなかったんです。
でも、ある日、自分の物語を語るには、背景の中にキャラクターを置かなければならないんだと気づいたんです。それからというもの、少しずつ、背景も積極的に描くようになりました。日本でアニメーターとして働き始めたおかげで、そのことに気づくことができたんです。日本では、アニメーターは自分がアニメーションを担当するシーンの背景を描かなければなりませんからね。
おかげで、今では背景を描くことがすっかり好きになりました。

『ミロの世界』のためのスケッチ

今回日本で出版される第2巻で物語は一応の完結をみます。フランスでは現在第4巻まで出版されていますね。今後、どんな冒険が、ミロとヴァリアを待ち受けているのでしょう? そして、彼らの冒険は、4巻以降も続くのでしょうか?

第3巻と第4巻では、ヴァリアの身に危険が迫り、ミロは再びあちら側の世界に戻らなければならなくなります。
やがてミロは少しずつ、自分の力がどんなものなのか知ることになります。
フランスでは2018年の1月か2月に第5巻が出る予定で、ちょうど今、僕は第6巻に取りかかっているところです。
おそらく第7巻、第8巻と続いていくんじゃないかと思いますね。とすれば、彼らの冒険はさらに続くことになります!

原作のリシャール・マラザノさんとは、『Alcyon(アルシオン)』というシリーズも作っていらっしゃいますね。こちらも少年マンガですか?

古代ギリシャを舞台にアルシオンとフェーブ(フォイベー)の冒険を描いた3巻の物語です。彼らは、それぞれの父親と故郷を救うために、調和の首飾りを探して旅に出ます。
『アルシオン』では、『ミロの世界』とは異なる、“大人向け”の作品を作ろうとしました。
絵柄的にも、『ミロ』よりもずっと写実的です。この作品を描くことによって、ずいぶん勉強になりました。
難しかったのは、『ミロ』の空想の世界とは異なり、『アルシオン』の世界は実在したということですね。当然、歴史的な事実に最大限の注意を払わなければならないのですが、そのうえで、実在しないものはでっち上げなければならないのです。

『アルシオン』第2巻
Richard Marazano & Christophe Ferreira, Alcyon, T2, Dargaud, 2014

今もアニメのお仕事はなさっていますか? もしそうだとしたら、どんなお仕事をなさっているのか教えてください。バンド・デシネの新刊にも取りかかっているとのことですが、どうやって時間の管理をなさっているのでしょう?

2017年3月に一段落したのですが、それまで2年間、『ひるね姫』という劇場用長編アニメに関わらせてもらうことができました。そのときはフルタイムというわけではなく、1週間のうち3日間をアニメのスタジオで過ごし、残りをウチで『ミロの世界』の執筆に当てていました。
それ以降はずっと、自分自身の企画と『ミロの世界』の続きにかかりきりです。

『ひるね姫〜知らないワタシの物語〜』 (Signal-MD、2017年)

『ひるね姫』のためのスケッチ1

『ひるね姫』のためのスケッチ2

2013年に『ミロの世界』第1巻でデビューしてから、はや4年以上が経ちます。デビュー当時と比べて、バンド・デシネというものに対する考え方は変わりましたか? クリストフさんにとって、日本のマンガやアニメと比べたときに、バンド・デシネの魅力とは何でしょう?

たった4年!? もう10年くらい仕事をしている気分ですよ。
自分のバンド・デシネ観が変わったという感じはあまりありません。ただ、この間に多くの作家を知ることができましたから、自分に何ができるのかはよくわかるようになりました。
フランス=ベルギーのバンド・デシネにも日本のマンガにも、それぞれいい点があります。
日本のマンガであれば、例えば、アクション表現。それから、十分なページ数を使って、物語のさまざまな瞬間を展開できる点。
フランス=ベルギーのバンド・デシネであれば、ゆっくり時間をかけて好きなことを(ほぼ)好きなようにやれる点。日本のマンガでちょっと物足りないと思う点があるとすれば、カラーでしょうか……。ただ、いざ自分がマンガを描くことになれば、きっと白黒になじんでいくんでしょうし、その分他にいい点を見つけて、楽しんで描けるんじゃないかと思います。
何しろ僕は、フランス=ベルギーのバンド・デシネ以上に、日本のマンガ・アニメにより強く影響を受けていますからね。

最後に今後の予定について教えてください。

既に述べたように、今現在は『ミロの世界』の第6巻を執筆中です。おそらくその後、第7巻と第8巻を描くことになるでしょう。それから、自分自身で脚本をひとつ書いているところです。もしバンド・デシネにするのであれば、今度はアナログの水彩で着色することに挑戦したいと思っています。

クリストフさんの作業机


クリストフ・フェレラさんは11月後半に複数のイベントに出演予定です。ぜひクリストフさんに会いに来てください。

クリストフ・フェレラさん出演イベント:

2017年11月23日(木)
東京:東京ビッグサイト『コミティア122』内特設会場
海外マンガフェスタ2017
ミロの世界 / 1 日本語紙版販売予定(税込価格 : 1,800円)
ご購入いただいた方のうち先着15名様にクリストフ・フェレラ先生のサインプレゼント!

2017年11月25日(土)
東京:共同印刷株式会社播磨坂スタジオ
BRAVE&BOLD VOL.3
ミロの世界 / 1 日本語紙版販売予定(税込価格 : 1,800円)
コミッション販売予定

クリストフ・フェレラさんについてより詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。2013年6月2日にクリストフさんをBD研究会にお招きしたときのレポートです。

【BD研究会レポート】日本在住のアニメーター兼BD作家クリストフ・フェレラ氏を迎えて①
【BD研究会レポート】日本在住のアニメーター兼BD作家クリストフ・フェレラ氏を迎えて②
【BD研究会レポート】日本在住のアニメーター兼BD作家クリストフ・フェレラ氏を迎えて③

(翻訳:原正人)

About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

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