マックス&モーリッツ賞2018まもなく発表!

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昨年=2017年の10月に、ドイツ語コミック『マッドジャーマンズ』(小野耕世さんによるレビューはこちら)を翻訳・刊行しました。その前年=2016年に「マックス&モーリッツ賞」なるものを受賞したらしく、ニュースになった記事を留学中の友人がFacebookにシェアしていたのが刊行のきっかけです。

マックス&モーリッツ賞2016を受賞し、その後、邦訳されたビルギット・ヴァイエ『マッドジャーマンズ―ドイツ移民物語』(山口侑紀訳、花伝社、2017年)

とはいえ……「マックス&モーリッツ」とは誰なのか、ドイツにコミックの文化がどれほど根付いているのか、どんな賞なのか……等々、まだまだ知られているとは決して言えないでしょう。隔年発表のマックス&モーリッツ賞、いよいよ発表は6月1日に迫ってきました。今回はノミネート作品を中心にお伝えいたします。

1.マックス&モーリッツとは?

マックスとモーリッツとは、1865年に出版されたヴィルヘルム・ブッシュによるドイツの絵本。いたずら者の男の子二人が仕返しされる様子を描いています(1986年に岩波書店とほるぷ出版から日本語訳が刊行)。この作品はドイツで知らない人がいないだけではなく、その後、新聞漫画の誕生に寄与した「漫画の元祖」と言われているそう。

そんな「漫画の元祖」に敬意を表して、1984年から優れた漫画作品に与えられているドイツの賞が「マックス&モーリッツ賞」です。ニュルンベルク近郊のエアランゲンで隔年開催されている「エアランゲン・インターナショナル・コミック・サロン」で発表されています。

審査員を務めるのは、自身も最優秀漫画家賞の受賞経験があるイザベル・クライツのほか、日刊紙「ターゲスシュピーゲル」の記者、コミック出版も多い出版社・カールセンの元編集長、さらに漫画書店の店長さんなどなど、多彩なメンバーです。

受賞部門は以下の通り。

・最優秀ドイツ語漫画家賞
・最優秀ドイツ語コミック賞
・最優秀ドイツ語翻訳インターナショナルコミック賞
・最優秀ドイツ語コミック・ストリップ賞
・最優秀児童漫画賞
・最優秀学生コミック出版賞

この他に、4月から、グラフィックノベル、アメコミ、マンガ(Manga)の3部門で候補作を募る「読者賞」や、事前に受賞者が告知される「名誉賞」などが存在します。2018年の名誉賞は、海外コミック好きの皆様にはおなじみの『ヴァレリアン』で有名なジャン=クロード・メジエール先生に与えられることになっています(おめでとうございます!)。

2.ノミネート25作品

本年の候補作品は以下のリンクで紹介されている25作品です。
https://www.comic-salon.de/de/nominierungen

このうち私が気になった作品をご紹介したいと思います。

●日本語からの翻訳作品

特に注目すべきは、やはり日本語からの翻訳作品でしょう。

大今良時『聲の形』(読者による投票でのノミネート)、望月ミネタロウ『ちいさこべえ』、浅野いにお『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』がノミネートされています。以前には中沢啓治『はだしのゲン』や谷口ジロー『遥かな町へ』が受賞しており、今回3作品もノミネートされていることからも、中沢先生・谷口先生に続く、新たな日本語漫画家受賞者の誕生の可能性は高いと言えるでしょう。とりわけ、昨年アングレーム国際漫画フェスティバルでシリーズ賞を受賞した『ちいさこべえ』は、ドイツでも注目度の高い一冊と言えそうです。

大今良時『聲の形』

望月ミネタロウ『ちいさこべえ』

浅野いにお『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』

●注目ドイツ語グラフィックノベル

①Birgit Weyhe画・Sylvia Ofili原作『German Calendar No December(ドイツのカレンダーには12月がない)』

『ドイツのカレンダーには12月がない』(Birgit Weyhe & Sylvia Ofili, German Calendar No December)

『マッドジャーマンズ』の作者ビルギット・ヴァイエによる、5月22日に発売されたばかりの最新作。ナイジェリア出身の女の子がドイツに移住し、他の移民と出会っていく様子を特徴的なカラー(緑色、橙色)で描いています。『マッドジャーマンズ』以前のヴァイエ作品はモノクロが多いのですが、今度はさらに色が増え、表現も多彩になりました。

何度も記していますが、『マッドジャーマンズ』は前回2016年の受賞作品。今回もヴァイエさんが受賞することを個人的に大いに期待しています。

②Jan Bachmann『Mühsam – Anarchist in Anführungsstrichen(ミューザム--引用符の中のアナーキスト)』

『ミューザム--引用符の中のアナーキスト』(Jan Bachmann, Mühsam – Anarchist in Anführungsstrichen)

1878年にベルリンで生まれ、1934年にオラニエンブルク収容所で処刑されたアナーキスト作家のエーリヒ・ミューザム。彼の日記がグラフィックノベル化され、スイスの出版社Edition Moderneから刊行されるや否や、すぐに話題作となりました。作者イアン・バッハマンは1986年生まれで、映画やテレビ番組の制作をベルリンで学んだ経歴の持ち主。大判カラー刷りの漫画には、筆記体でミューザム本人の日記の引用が、そしてイタリックで、作者が当時ミューザムが話したであろうと想像した会話などが盛り込まれています。

ミューザムはナチスとの関係で語られることが多い作家だとは思いますが、初期の日記を取り上げたことで、お金の心配をしたり、性の話など、政治とは少し離れたところからひたすらに彼の人間性が浮かび上がる素晴らしい内容です。

③Ulli Lust『Wie ich versuchte, ein guter Mensch zu sein(だから、いい人間になろうとしたんだってば!)』

『だから、いい人間になろうとしたんだってば!』(Ulli Lust, Wie ich versuchte, ein guter Mensch zu sein)

今年のアングレーム国際漫画フェスティバルでも大人気だった、ウィーン生まれ・ベルリン在住のウリ・ルスト。ドイツ語コミック作家としては、最も有名な一人と言うことができるでしょう(私もすごく大好きです!!!)。2009年に刊行されるやいなや、2010年のマックス&モーリッツ賞をはじめとして、世界中の漫画賞を受賞した『Heute ist der letzte Tag vom Rest deines Lebens(今日はアンタの人生の残り最後の日)』に続き、自伝2作目となった本作でも、彼女自身の奇想天外な人生がピンクと黒インクの二色刷りで綴られています。20歳年上の恋人と、ナイジェリア人難民の男性との間で揺れる心と、セックス描写の数々。かつてラカンは「女性は存在しない」などと言って、女性の側の性の言説が少ないことを指摘したりもしていましたが、今やこの世界にはウリ・ルストのように女性の側からの発話が存在し、しかも、従来男性作家が多かったドイツ語コミック界でも高い評価を受けているのが現状です。

『今日はアンタの人生の残り最後の日』(Ulli Lust, Heute ist der letzte Tag vom Rest deines Leben)

以上、私個人の好みに応じて、偏った紹介になってしまいましたが、この中に受賞作が出るのか、それとも別の作品なのか、発表を楽しみにしています。

発表は6月1日午後8時(現地時間)です!

About Author

山口 侑紀

1987年福島県生まれ。一橋大学社会学部在学中にハイデルベルク大学哲学部に派遣留学。一橋大学大学院言語社会研究科修士課程修了。2017年にドイツ語コミック『マッドジャーマンズ』を翻訳し、勤務先である花伝社より刊行。2018年日本翻訳大賞第二次選考作品ノミネート。

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