香港漫画入門 – 第2回 10の「點解(でぃむかぁぁぁい)?」

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「點解」=広東語で「なぜ」。発音記号だと「dim²gaai²」ですが、「解」の部分をゴムひものようにビョーンと「かぁぁぁぁーーーい」と伸ばすのが発音のポイント。それはいいとして、香港の漫画には「なぜ?  どうして?  點解??」と聞かずにはいられない謎がいっぱい!  ここでは代表的な10の「點解」をあげてみましょう。

1)なぜ「薄装本漫画」ばかりが発展したの?

薄装本漫画の一例(邱 福龍〈ヤウ・フッロン〉/著「神兵4」)

B5サイズ、約30ページでオールカラー。週刊~隔週刊で発行され「読み捨て」が基本の薄装本。1970年代半ばに定着した刊行スタイルですが、「龍虎門」「中華英雄」「風雲」をはじめ、大ヒット漫画は多くがこの薄装本。日本と同じ単行本サイズの漫画作品もあるのに、なぜかこのスタイルが香港人読者の熱い支持を集めてきました。

2)なぜバトルアクション漫画ばかりなの?

薄装本漫画はテ-マ・ジャンルが極端に偏っています。9割5分以上がアクションもの、それもホットな戦闘シーンが矢継ぎ早に飛び出すバトルアクション。刀剣や武功での勝負が印象的な武侠アクション、敵対組織どうしが刃を交え、ときには肉弾戦も辞さない黒社会アクション等々…拳闘などのスポーツものもありますが、ルールやスポーツマンシップそっちのけでひたすら熱くバトっています。

3)なぜ武侠小説のコミカライズが盛んなの?

武侠小説「天龍八部」コミカライズ版 (原作/金庸)

中華圏では絶大なる人気を誇る小説ジャンル「武侠」。歴史的世界を背景に、渡世に生きる主人公が刀や剣、キックや拳など肉体技の中華拳法、さらには掌から気を爆発させぶつける「掌法」といった絶技を身につけ、戦い、のし上がっていくというもの。金庸・古龍といった人気作家はまさに中華圏じゅうの尊敬の的です。そして香港漫画はこの「武侠小説」のコミカライズがとても多いのです。オリジナル脚本作品でも、既存武侠小説の技や秘義をしばしば流用します。

4)なぜ日本製格闘ゲームの漫画化が盛んだったの?

ゲーム「ストリートファイターIV」オリジナルコミカライズ(許景琛〈ホイ・ギンサム〉/画)

1990年代初頭「ストリートファイターⅡ」の大ブームを皮切りに燃え上がった、日本の格闘ものTVゲーム。香港では日本以上に人気を博し、なぜかオリジナルのコミカライズが次から次へと制作されました。「街覇」(ストファイ)、「拳皇」(King Of Fighters)、「バイオハザード」等々…。オンライン・スマホゲームの時代に移行するにつれ下火になってしまいましたが、かつては薄装本で100巻以上続いた作品もありました。

5)なぜ黒社会漫画がこんなにたくさんあるの?

黒社会漫画最大のヒット作「古惑仔」

もうひとつ、香港漫画特有の人気ジャンルが「黒社会もの」。香港マフィアの世界を描いた漫画です。実在の組織をモデルに描かれることも多いですが、脅しやみかじめなど現実の陰湿な活動は描かず、若い構成員が抗争の連続の中で成長していくという筋書きが主です。なぜかこのジャンルの漫画はエロシーンが多く、流血描写や粗口(広東語のスラング)もつきものなので基本的に「18歳未満禁止」です。

6)なぜみんな、なんとなく池上遼一っぽい絵柄なの?

「風流」(馬榮成〈マー・ウィンシン〉/著 1979年)※2007年復刻版

そんな薄装本漫画は多くが劇画タッチ。さらに「なんだかどの作品も、あの人の画風に似てません?」 香港漫画店が実にしょっちゅう聞かされる言葉です。そうです。池上遼一リスペクトな作家・作品がやけに多いのです。70~80年代に勃興し、今に至る原形ができた薄装本漫画。その当時お手本になるべき日本の劇画作家は他にもたくさんいたはずなのに、どういうわけか池上遼一の影響が突出しております。池上氏は現地漫画関係者のアイドルとして必要以上に愛されています。

7)なぜ本屋さんで薄装本・単行本漫画が売ってないの?

漫画専門店の店先(新界/元朗 ショッピングセンター「同益商場」内)

一般書店(灣仔「三聯書店」)

露天の新聞スタンド。薄装本はここで売られる

なんだか香港漫画に興味がわいてきた。よし、香港に行って買ってみよう! 勇んで現地書店に行ったものの、あれ? 漫画売場はどこ!? 絵本サイズの大判漫画、エッセイコミックはあるものの、単行本は棚の隅にごくわずか。薄装本に至っては影もかたちもありません。そうです。単行本は漫画専門店で買うもの。そして薄装本は街角の雑誌スタンドでしか取扱がありません。コンビニも雑誌や幼年向け学習漫画類は取扱いますが、薄装本は現在ほぼ取扱がありません。

8)なぜ、同じ漫画家さんの名前ばかりクレジットされてる気がするの?

薄装本漫画を手にとると、表紙クレジットでやけによく見かける作家名があるような…あれもこれもみな、「黄玉郎(ウォン・ユッロン)」の名前ばかり。少し古い本なら「馬榮成(マー・ウィンシン)」、ゲーム漫画なら「許景琛(ホイ・ギンサム)」、そして「温日良(ワン・ヤッリョン)」「司徒劍僑(アンディ・セト)」「邱福龍(ヤウ・フッロン)」…。膨大な数の薄装本作品が出ているのに、だいたい7~8人の漫画家名でほとんどすべておさまってしまうような気がします。そんなに人材不足なのか? 超多産家の天才数人で回しているのが香港漫画界なのか!?

9)なぜ香港には漫画雑誌が見あたらないの?

隔週刊雑誌「新少年」(東立香港/刊) ※2016年にWEB移行

日本は週刊誌・月刊誌とりまぜ漫画雑誌が花盛りですが、香港は街の即売スタンドをのぞいてもほとんど見あたりません。ここ10~20年、香港の漫画雑誌刊行がかなり地味だった上、少女誌「Comic Fans」少年誌「新少年」など人気誌が近年相次いで休刊。かろうじて生き残っている大部数誌は幼年向けホビー&漫画誌「CO-CO!」「LUCKY」程度です。

10)なぜ同人漫画シーンとのつながりが薄いの?

日本で近年、新しい漫画界の担い手供給源として無視できないのが同人シーン。香港にも同人誌文化はあり、年2回の大型頒布イベント「Comic World」、巨大アニメ漫画見本市の付帯イベント「Creative Paradise」などが大いに盛り上がっています。ところが同人作家からプロデビューする人が香港では極端に少ないです。薄装本作家に至っては皆無。「同人から才能を発掘しよう」をコンセプトに始まった漫画雑誌もありましたが、あえなく討ち死にしています。

以上、日本人にはかなり不思議、「なぜ?」と言いたくなることばかりの香港漫画世界。しかし実はどれも、歴史に裏打ちされた理由があるんです。今後、ひとつひとつ解明していきましょう。


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About Author

てんしゅ松田

インターネット通販ショップ「香港漫画店」店主。東京外国語大学中国語学科卒業後、レコードメーカー等勤務を経て2003年にショップ開店、香港現地産コミックを輸入販売。近年は香港コミック・おたく事情の紹介活動にも力を入れており、ミニコミ誌「マンガ論争」寄稿、トークライブハウス「ネイキッドロフト」等出演も。共著「深く美しき香港漫画の世界」は、自費出版ながら中華書籍専門店「東方書店」(東京・神保町)月間ベストセラー第3位ランクイン。

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