香港漫画入門 – 第1回 香港漫画ってどんなもの?

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香港にも独自の漫画シーンがあり、オリジナル作品が数多く刊行されています。そのスタイルはおおまかに分類すると
① 単行本漫画
② 薄装本漫画
③ アートブック・エッセイ系 大判漫画
となります。

上から時計回りに、単行本・薄装本・大判コミック

①(写真上)は日本の単行本とほぼ同判型。1色刷りでコマ割りやストーリーの運び方も日本漫画と大差なく、現地小売ルートも日本漫画の中文翻訳版(発行点数が非常に多い!)と同じです。

単行本の紙面

特徴的なのは②の「薄装本漫画」(写真下右)です。

薄装本漫画の一例(金庸/原作 黄玉郎(ウォン・ユッロン)「神鵰侠侶」)

オールカラーでほぼB5サイズ・約30ページ。表紙は軟弱で、アメコミの「リーフ」に近い刊行形態です。週刊~隔週刊で刊行され、一般書店や漫画専門店ではほぼ取扱がありません。路上で店開きしている、雑貨販売を兼ねた新聞スタンド「書報攤」(ビル外側の片隅など、建物の中にお店をかまえたスタンドなら「書報店」)が主な小売先です。

軟弱な体裁や刊行・小売形態でお気づきのとおり、雑誌・週刊誌と同じ「読み捨て」が基本です。週刊少年ジャンプのようなものかな?ともお思いでしょうが、基本的には1冊に1作品しか載っていません。そしてページをめくると驚かされるのは、「読み捨て」とは到底思えない絵の緻密さ、クオリティの高さです。

薄装本の紙面(黄玉郎「新著 龍虎門」)

薄装本のコマ拡大

大ゴマ中心のワイドな画面に、精緻な劇画がギッチギチに描き込まれています。しかもフルカラー! 2000年前後までは、スミ一色で描いた原稿に印刷所で色データを指定して差し込む「分色」が中心でしたが、現在はスミ原稿にCGで彩色し、版元でカラー原稿を完成させて納品しているようです。かつては手描き彩色原稿で全編仕上げる猛者もいました。

もちろんそんな原稿を、漫画家ひとりで仕上げられるわけがありません。総勢10人以上、かつては20人以上もの手をかけて、完全分業制で每週システマチックに制作されています。漫画作品というより「企業の生産物」的な側面が強いですね。

人気が出れば薄装本数巻分が一冊にまとめられ、きちんとした体裁で再発行されます。これを「合訂本」といいます。かつての合訂本は色データを抜いて1色刷りにされることが多かったですが、最近はフルカラーデータで保存した原稿をそのまま(あるいは小さめの判型に縮めて)刊行することが多いです。

そんな薄装本漫画ですが、①の単行本漫画ともども、近年出版点数が激減しています。日本と同様、深刻な出版不況に見舞われ、人手と手間のかかる制作形態は維持が困難となってきているからです。そんな中、③(前出写真下左)のアートブック・エッセイ系漫画が意外と活況を呈しています。

絵本と漫画の中間のような画風で、カバーつき表紙で比較的大判。思索や社会風刺に富んだ、あるいは香港独自の歴史や文化に寄り添った内容をもつ「アートブック系」。あるいは「香港人あるある」「子供のころの残念な想い出」など、「おれたち香港人ってカッコ悪いよね、でもオチャメで憎めないよね!」的ネタを繰り返す「自虐系エッセイ漫画」。これらは活字本を商う一般書店にも並びます。のみならずベストセラーにも名を連ね、たまに社会現象になるほどヒットしたりします。これからの香港漫画界はこのジャンルが牽引していきそうな気配です。


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About Author

てんしゅ松田

インターネット通販ショップ「香港漫画店」店主。東京外国語大学中国語学科卒業後、レコードメーカー等勤務を経て2003年にショップ開店、香港現地産コミックを輸入販売。近年は香港コミック・おたく事情の紹介活動にも力を入れており、ミニコミ誌「マンガ論争」寄稿、トークライブハウス「ネイキッドロフト」等出演も。共著「深く美しき香港漫画の世界」は、自費出版ながら中華書籍専門店「東方書店」(東京・神保町)月間ベストセラー第3位ランクイン。

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