アメコミ入門 – 第3回 分担作業も多種多様、アメコミ作りの分業制

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前回の第2回アメコミ入門では、アメコミの目につきやすい特徴であるフルカラーのコミックについて書かせていただきました。今回はまた趣向を変えてアメコミの表面上あまり目立たない特徴である、コミック制作の分業制について考えていきたいと思います。

コミック制作の分業制について言えば、日本のマンガ制作現場でも、マンガ原作者がいたり、ペン入れをする人がいたり、背景を描く人がいたりと、実際多くの場合様々な形で分業制が敷かれています。ですから分業自体はことアメコミに限ったものではありません。しかしアメコミの制作現場においては、その分担された仕事にはそれぞれ独自の肩書きが存在しており、その名称は日本のマンガには見られないユニークな特徴と言えます。それではその名称の中からいくつか代表的なものをあげてみましょう。

ライター:コミックの脚本を書く人です。コミックの元となるスクリプトを書くライターから、大まかなプロットを書くライター、より具体的なネーム(マンガにおける絵コンテのようなもの)を作る人まで、その仕事内容は様々です。スパイダーマンの生みの親、スタン・リーなどがライターとして上げられるでしょう。

スタン・リーがライターを担当した『アメイジング・スパイダーマン』の掲載されたコミック

ペンシラー:コミックの下絵を描く人です。今はデジタルツールがとても発達しているので、必ずしもペンシル(エンピツ)を使うわけではありません。下絵と言っても大まかな当たりで描かれた簡素なものではなく、背景まで描き込まれたものが一般的で、基本的な絵の設計はここで完成しています。世界で最も売れたコミックの一つ『X-MEN』を描いたジム・リーなどがペンシラーとして有名です。

ジム・リーがペンシラーを担当した『X-MEN』

インカー:ペンシラーが描いた下絵にインクで墨入れをする人です。実際にインクを使うかはペンシラーの場合と同様で、様々なツールが用いられています。インカーの仕事はモノクロ原稿の仕上げに相当するので、この作業によっても絵の仕上がりに大きな違いが出ます。この行程を経ずに彩色を行うコミックスもあります。先ほどペンシラーの例で上げたジム・リーと長年仕事をして来たスコット・ウィリアムズなどがインカーとして上げられます。

スコット・ウィリアムズがインカーを担当した『ジャスティス・リーグ』

カラリスト:仕上がったモノクロ原稿に彩色を行う人です。カラー原稿を作る場合はこの行程が必要になります。長年カラーインクによる着彩作業が一般的に用いられていましたが、現在はもっぱらコンピューター着色が主流になっています。『300(スリーハンドレッド)』などフランク・ミラーの作品を多く手がけたリン・バーレイもそんなカラリストの中の一人です。

リン・バーレイがカラリストを担当した『300(スリーハンドレッド)』

レタラー:仕上がったカラー原稿に、登場人物のセリフやナレーション、オノマトペなどの文字を書き入れる人です。現在では手書き風のデジタルフォントが用いられる事がほとんどで、この作業行程の時点で一緒にフキダシのレイアウトもされる事が多くなっています。多くの傑作コミックにユニークなレタリングを施したトッド・クレインなどが有名です

トッド・クレインがレタラーを担当した『サンドマン』

さらに作品を管理する為の様々な肩書きのエディター:編集者や、ディレクター:制作責任者などがここに加わります。

以上のような呼び名が、アメコミ制作の分業制においては代表的な肩書きになります。これらは、現在販売されているコミックブックの中にも制作者のクレジットとして記載さているため、アメコミの愛読者の中では一般的に定着していると言えるでしょう。ただしこれらの表記は、アメコミの歴史の中で長く統一されてきたものではなく、さらに表記の有無も出版社によってまちまちでした。

これにはコミック制作に携わる人達の、地位や権利が向上するにしたがって、長い年月をかけてそのクレジットが明確になってきた歴史的背景があります。そのため、コミックのキャラクターの権利が企業や作家個人などに独占的に管理されている場合には、コミック制作者のクレジットが掲載されない作品が自然と多くなります。

また、これらの分業制を発達させた主な原因の一つとして、コミックスの権利を管理している主体が出版社(およびその親会社)であり、コミックを制作するスタッフはそこから発注を受けているという、基本的な仕組みがあげられます。

ですから、アメリカに本社を置くコミック会社がイギリスのライターにシナリオを発注し、そこからオーストラリアのアーティストに絵を描いてもらい、日本のカラーリストに着彩を頼む、ということも通信手段が発達した現在では十分にあり得ます。

脚本からレタリングまでの一連の流れ

もちろん、大手マンガ制作スタジオなどでは、同じ建物の中にいるスタッフがシナリオからアートまでを一括して担当し、原稿を仕上げる場合もあります。さらに常にチームで作業をするアーティスト、夫婦で分担して原稿を仕上げるアーティストも沢山いるので、こういったケースについては日本のマンガ制作現場と照らし合わせても、非常に想像がし易いものといえるのではないでしょうか。

さらに言えば、上記のような6つの肩書きが、全てのアメコミ作家にあてはまるわけではありません。代表的なものを上げれば、脚本と絵の両方を担当する人はアーティスト・ライターなどと呼ばれる事もありますし、下書きから着彩、時にはレタリング担当する人は、総合的な意味で単にアーティストと呼ばれる事もあります。

また、作品によってライターがペンシラーになる事もあれば、ペンシラーがインカーになることもあり、それぞれの役割が専業職なわけでもありません。アメコミを特徴づける大きな要素と考えられている分業制ですが、その中にも出版社や作家そして作品ごとに内情は随分異なっているといえるでしょう。


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About Author

うしおだ きょうじ

フリーのイラストレーター、一方でライター業などイラスト以外の仕事も多い。
新旧問わずマンガと名のつくものは大体好きで、マンガを読むのと散歩が日課。
海外のマンガとは何かと縁があって、子供の頃から良い付き合いをさせてもらっている。
ペット、引っ越し、ランニング、この3つの内どれか1つくらい何とかしたいと5年ほど前から計画中。
だけど計画するだけ。

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