アメコミ入門 – 第2回 アメコミの極彩色の世界

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皆さんは”アメコミ”と聞いてどんなイメージが頭に思い浮かびますか? 鮮やかで、華やかで、そしてちょっとどぎつい、そんな色彩に溢れたフルカラーのコミックス。私の頭の中にはそんなイメージがまっ先に浮かんできます。そして私はアメコミのそんなところに深い愛着を感じてきました。

極彩色で彩られた70年代のアメコミの誌面

近年では日本でもフルカラーで描かれるマンガが増えてきて、内容的にも大変な充実を見せていますが、アメコミには日本マンガのそれとはまた違った、長年にわたるフルカラーのコミックスを中心にした歴史があります。

『ホーガンズ・アレイ』

その事を考えるのにまず取り上げるべき作品は、1895年からニューヨーク・ワールド紙に新聞連載を開始したR・F・アウトコールトの『ホーガンズ・アレイ』そしてそれに続くニューヨーク・ジャーナル・アメリカン紙の『ザ・イエロー・キッド』でしょう。ホーガンズ・アレイは、当時のニューヨークで貧しい地域に住んでいた人々を主役に据えて描かれた作品で、”世界最初のコミックス”と呼ばれています。この説については賛否が分かれるところですが、ことアメコミの歴史に限って言えば、重要な作品であることに間違いはないでしょう。

『ザ・イエロー・キッド』

その理由の一つに、ホーガンズ・アレイがフルカラーで印刷されてマスに流通した初めての作品である、という事実が上げられます。さらにフルカラーを用いることによって、全身黄色の衣服を纏った有名キャラクター、別名:イエロー・キッドを生み出しました。それ以降、紙面に掲載されるフルカラーのコミックスは庶民向け新聞の呼び物となり、『ザ・カッツェンジャマー・キッズ』や『ハッピー・フーリガン』等、多くのカラー印刷されたコミックス作品を生み出す事になります。

『ハッピー・フーリガン』(左)、『ザ・カッツェンジャマー・キッズ』(右)

その後20世紀に入ると、コミック単体を売り物にする新しいメディア、つまり我々のよく知るコミック・ブックが登場します。1929年には『ザ・ファニーズ』、1933年には『ファニーズ・オン・パレード』、さらにその翌年には『フェイマス・ファニーズ』(以上全てコミック・ブックのタイトル)が出版されます。しかし、その内容はどれも新聞のフルカラーのコミックスをオムニバス形式で編集したものであり、いわゆる新聞掲載のコミックスの再録版でした。このような経緯で、新聞掲載コミックスのカラー印刷はそのままコミック・ブックに受け継がれ、その後のコミック・ブックもフルカラー印刷が主流になったのです。

60年代のロマンスコミックの1コマ

その後コミック・ブックは新聞のコミック・ストリップとはまた違った発展を遂げ、1つのジャンルを作り上げるまでに成長します。しかし印刷コストの問題もあり”質の悪いザラ紙に安上がりなカラー印刷”といったフォーマットには、長年新聞のそれによる影響を強く残しました。1960年代にはポップアートのロイ・リキテンスタインが、既存のコミック・ブックの印刷に見られる粒子の荒い網点を自分の作品に取り入れています。”安っぽくてキッチュで派手”、ある意味ではそこに当時のコミックブックのパブリック・イメージがよく表れていると言えるでしょう。

『ヘビー・メタル』

しかし1970年代に入ると、フランスから新しいコミックスの流れが入って来ます。具体的にはメビウス、フィリップ・ドリュイエなどのバンドデシネ作家たちが、1974年にコミック専門誌の『メタル・ユルラン』を創刊したのです。その数年後にアメリカ向けローカル版である『ヘビー・メタル』が創刊しますが、それはアメリカで一般的に考えられていたコミック・ブックとは全く違う形式の本でした。その大人向けの内容もさることながら、高級誌のような紙質と深いトーンを表現したフルカラー印刷に、アメリカの主流コミック各社は大いに刺激を受けることになります。

エピック・グラフィック・ノベル(左)、マーベル・グラフィック・ノベル(中央)、『エピック・イラストレイテッド』(右)

そして1980年代。マーベル・コミックス、DCコミックスをはじめとした多くのメジャー出版社が、高級なコート紙に高価なカラー印刷を用いた、新しい規格のコミック誌を次々と刊行しました。さらに新しい動きとして、1987年にマーベル・コミックスから大友克洋の『AKIRA』がフルカラーに彩色されて出版されます。これは主流コミック・メディアとして初めて大々的にコンピューター着色されたコミックスで、日本でも『オールカラー国際版AKIRA』として出版されている本です。

『オールカラー国際版AKIRA』

その流れは1990年代に入って本格化。コンピューターの低価格化と飛躍的な普及、さらにはアドビ・フォトショップなどのDTPソフトが登場することで、障害の多かったコンピューター着色が一般的なものに変わります。一方で印刷のフォーマットもコレクター消費の増加に合わせて変容、高価なコミック・ブックが市場に大量に流通し、一般的なコミック・ブックもみな高価なコート紙に高価なカラー印刷という形式に変わって行きました。

90年代のスーパーヒーロー・コミック

そして2000年代以降はデジタル・コミックス、さらにはコミックスの電子配信が普及。印刷コストの問題が解消されると共に、フルカラー・コミックスの意味合い自体が大きな変化を続けています。アウトコールトのホーガンズ・アレイからおよそ120年経った今、”ザラ紙に印刷された網点の肌をもつ乙女”の居場所は、新刊コミック・ブックの棚には無くなったと言えるでしょう。


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About Author

うしおだ きょうじ

フリーのイラストレーター、一方でライター業などイラスト以外の仕事も多い。 新旧問わずマンガと名のつくものは大体好きで、マンガを読むのと散歩が日課。 海外のマンガとは何かと縁があって、子供の頃から良い付き合いをさせてもらっている。 ペット、引っ越し、ランニング、この3つの内どれか1つくらい何とかしたいと5年ほど前から計画中。 だけど計画するだけ。

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