バンド・デシネ入門 – 第2回 バンド・デシネをより詳しく知るための7つのポイント

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前回、“バンド・デシネ”とはいったいどんなものか、写真をまじえながら、大まかに紹介した。今回はそのバンド・デシネを7つのポイントからもう少し深く掘り下げてみたいと思う。

①バンド・デシネという言葉

まずはバンド・デシネという言葉から。“バンド・デシネ”という言葉は元々フランス語である。アルファベットで綴るとbande dessinéeとなる。bande(バンド)は“帯”のこと。dessinée(デシネ)は、“描く”という意味の動詞dessiner(これもデシネと発音する)の過去分詞形で、“描かれた”の意。つまり、bande dessinéeとは、「絵が描かれた帯」のこと。イメージは4コママンガが横になった状態。これがマンガを意味する言葉として使われているわけだが、まあ、納得いただけるんじゃないかと思う。bande dessinéeの頭文字のbとdを取って、BDと略すことも多い。その場合、発音はフランス式に「ベーデー」または「ベデ」(音を伸ばすか伸ばさないかの差は重要ではない)である。カタカナ表記する際には「バンド・デシネ」でも「バンドデシネ」でもいいと思うが、2つの単語からできていることもあって、筆者は中黒ありの「バンド・デシネ」を好んで使っている。

②バンド・デシネという言葉が指し示すもの

“バンド・デシネ”は、広義では、日本語の”マンガ”とほぼ同じ意味を持つと考えていい。フランス語圏のマンガに限らず、アメリカのマンガも日本のマンガも、バンド・デシネという言葉で言い表すことができる。だが、一方で、マンガを制作地域別に分けて、異なる呼び名を与えることがある。日本のマンガはmanga、アメリカのマンガはcomics。その場合、bande dessinéeは、特に”フランス語圏のマンガ”を指すことになる。フランス語圏というのは、フランス、ベルギー、スイスの一部、カナダの一部、アフリカの一部などである。日本では一部のバンド・デシネしか知られておらず、それらがしばしばアート性や作画の超絶技巧を売りにしているために、アート性の高いフランス語圏のマンガをバンド・デシネと呼ぶと勘違いされることがあるが、実際のバンド・デシネは、表現的にも内容的にも、実に多様である。最近のややこしい傾向として、フランス語圏で作られた作品であっても、自らmangaと名乗るケースがあったりすることをつけ加えておきたい。

イギリスの評論家ポール・グラヴェット編の『死ぬまでに読むべき1001のコミックス』(1001 COMICS YOU MUST READ BEFORE YOU DIE)の仏語版。ここでは”BD(バンド・デシネ)”は広義のマンガの意味で使われている。

③出版のあり方

日本でマンガと言えば、まず雑誌に連載され、それから単行本化されるというイメージがある。もちろんすべてのマンガがこのサイクルに収まっているわけではなく、特に近年、出版のあり方は多様化の一途を辿っている。バンド・デシネの場合、1960~70年代にはさまざまな雑誌が存在していて、少なからぬ作品が雑誌連載を経て単行本化されていたのだが、それらの雑誌のほとんどが1980年代末くらいまでに廃刊してしまった。したがって、現在では、多くのバンド・デシネが描きおろし単行本として出版されている。もっとも、雑誌がまるでないというわけではなく、1938年創刊のSpirou(『スピルー』)は未だに健在だし、2013年にはLa Revue dessinée(『ラ・ルヴュ・デシネ』)、2016年にはPandora(『パンドラ』)など、新しい雑誌も創刊されている。また、最近は、ブログやWEBマガジン、Instagramで作品が発表されているケースもあり、それらが後に単行本として出版されることも珍しくない。当然、電子出版もあって、Izneo(イズネオ)などの電子書籍ストアが奮闘中である。

1938年創刊の週刊バンド・デシネ誌『Spirou(スピルー)』。写真は2014年7月23日号と2014年8月13日号。

④単行本の判型

それでも、バンド・デシネの出版は、今のところまだ、紙の単行本が中心だと言ってよかろうと思う。バンド・デシネの判型にはある種の定型があって、それを指して48CC(キャラント・ユイット・セー・セー)という言葉が使われたりする。すなわち、48ページ、オールカラー(C=couleur)、ハードカバー(C=cartonné)。大きさもA4版くらいとだいたい決まっていて、それらはクラシックなバンド・デシネと呼ばれる。もっとも、この判型も、大昔からこうだったわけではなく(そもそもバンド・デシネという言葉が誕生したのは1930年代だと言われている)、1950年代に定着したもののようである。一方で、1990年代以降、バンド・デシネの判型は多様化していて、現在では、ソフトカバーでページ数が多く、判型がより小さい本や定型とは大きく異なる本も多く存在している。

バンド・デシネ単行本のさまざまな判型。左上がいわゆる48CCの単行本。

⑤カラー

オールカラーであることはバンド・デシネの必須条件ではないが、それでも日本のマンガと比べると、オールカラーの作品がはるかに多いのも事実である。そして、そのカラーがまた魅力的だったりする。アメコミと同じように、カラーを担当する職業もある(フランス語ではコロリストcoloristeと言う)。もちろん作家自身が自分で彩色するケースもあり、原画に直接彩色をすることを示す、Couleur directe(クルール・ディレクト)という言葉があったりする。バンド・デシネの彩色の変遷については、2003年に印刷博物館で行われた「色彩のアルバムBD-フレンチ・コミック」展のカタログに簡潔な説明があるので、興味がある人には一読をおすすめしたい。

 

『色彩のアルバムBD―フレンチ・コミック 図録』(2003年)

直接彩色が美しいエマニュエル・ルパージュの『ムチャチョ―ある少年の革命』(大西愛子訳、飛鳥新社、2012年)

⑥バンド・デシネのジャンル

筆者がバンド・デシネのことに興味を持ち始めた頃にお世話になった本にGUIDE FNAC DE LA BANDE DESSINÉE(『バンド・デシネ・フナック・ガイド』)というものがある。FNACというのは、本やCD、DVDなどを中心に販売するフランスの総合小売りチェーンで、そこが2004年に出版したバンド・デシネのガイド本だ。その本では、バンド・デシネを、冒険もの、SF、ユーモア、ファンタジー、サスペンス、ヒロイック・ファンタジー、歴史もの、自伝・ドキュメンタリーと、8つのジャンルに分けていた。ジャンル分けというのは、ともすると恣意的で、当てにならないものだが(作品が面白けりゃ、ジャンルなんてどうだっていいに決まってる)、バンド・デシネの全体像を考えるには、案外便利なのも事実である。日本のマンガのジャンルと比べてみると興味深い。バンド・デシネには、学園ものや恋愛、スポーツ、グルメものなどが少ない気がする。とはいえ、状況は年々変わっている。グルメものやスポーツものもちらほら目につくようになってきた。フランス語圏では、世界各地のさまざまなマンガが次々に翻訳されているので、バンド・デシネはそれらの良いところを日々取り入れているのかもしれない。

⑦バンド・デシネをどこで買うか

バンド・デシネなんて見たことないという人もいるかもしれないが、邦訳なら、日本国内の大型書店やネット書店で案外簡単に購入できる。翻訳者的には、読者の皆さんにどんどん買って読んでいただきたいところ。では、フランス語の原書はどうかというと、日本でなら、洋書を扱っているリアル書店、洋書を扱うネット書店、海外のネット書店などで購入可能だ。案外、日本のAmazonでヒットすることもあるので、まずは検索してみてはいかがだろう。筆者がよく使うのはフランスのAmazonで、かなり高い送料を払う覚悟があれば、フランスから日本まで4~5日で届くオプションがあったりする。フランス語圏に行く機会があれば、ぜひバンド・デシネ専門店を訪れてみてほしい。新刊だけ扱う店、新刊と古本を扱う店、古本だけ扱う店、稀覯本だけ扱う店など、いろんな種類がある。ちなみに、フランス語圏では、地域の図書館がバンド・デシネを収集していることもままあって、そこで借りて読んでいる人もかなりいるらしい。筆者は利用したことがないが、図書館によっては、かなりの品揃えを誇っているそうだ。機会があったら、そうした施設を利用してみるのもいいかもしれない。

古書を中心に扱うパリのバンド・デシネ専門店AAAPOUM BAPOUM


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About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

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