「海外マンガ読書会 第4回:ショーン・タン『アライバル』を読む」レポート

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6月30日(日)、神保町にある専修大学神田校舎で「海外マンガ読書会第4回:ショーン・タン『アライバル』を読む」が行われました。

日時:2019年6月30日(日)15時~17時30分
場所:東京都千代田区神田神保町3-8 専修大学 神田校舎 7号館(大学院棟) 8階 781教室
参加者:14名

3カ月に一度のペースで開催している海外マンガ読書会も今回ではや4回目。ちょうど5月11日から7月28日にかけて、ちひろ美術館(東京都練馬区)でショーン・タンの日本初となる本格的な個展「ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ」が開催されているのと、最新翻訳作品『セミ』(岸本佐知子訳、河出書房新社、2019年)が刊行されたこともあって、今回はショーン・タンが日本および世界で注目されるきっかけとなった作品『アライバル』(河出書房新社、2011年)を取り上げました。

ショーン・タン『アライバル』(河出書房新社、2011年)

まずは日本マンガ学会海外マンガ交流部会の運営を担い、この「海外マンガ読書会」を主宰する中垣恒太郎さんが、ショーン・タンという作家と今回取り上げる『アライバル』という作品、そして彼のその他の作品について簡単に紹介し、議論の糸口になるテーマや注目点をいくつか提示してくださいました。

『アライバル』の構成を紹介する中垣さん

今回は参加人数がそれほど多くなかったこともあり、続いて、ひとりずつ自己紹介がてら、『アライバル』との出会いや『アライバル』に対する思い入れを語っていただきました。『アライバル』はもともと2006年にオーストラリアで出版された作品で、多くの日本人読者は日本語版が出た2011年以降にこの作品を読んでいるかと思いますが、中には日本語版が出る前に読んでいたという方もいれば、今回の読書会の直前に読んできてという方もいて、その出会いはさまざま。サイレント作品という点に惹かれているという方もいれば、写真との関連で興味を持っているという方や、巨大な建造物や不思議なクリーチャーが好きだという方もいました。

読書会の様子

その後、『アライバル』をもう少し深読み。この作品はマンガと言えるのか、マンガとして読みやすいのか、どうして基本的なコマの形が正方形なのか、特に回想場面でコマが古い写真を模しているのはなぜなのか、各場面にはどんな意図が込められているのか、主人公に付き添う不思議なクリーチャーにはどんな意味があるのかといった点から始まって、作者が明かしている影響関係、読者である参加者がこの作品をどのような文脈に置いているかなどといった点も含め、『アライバル』についてさまざまな意見が交わされました。中には、写真がデータとして普及していく時代にあって、『アライバル』はモノとしての写真が帯びる新たな価値に着目している、一見アナログっぽい作品だが、さまざまなレベルでデジタル処理がなされていて、デジタルによるモノ作りが可能な時代だからこそできた作品である、などといった示唆に富んだ指摘もありました。

議論は尽きませんでしたが、17時30分を回ったところで終会。サイレント作品ということもあり、当初はどれだけ話を掘り下げられるだろうかと不安な部分もありましたが、この作品もまた、これまで扱ってきた海外マンガと同じように、まだまだじっくり読み込むことができそうです。しばらく間を空けて、改めて取り上げてみるのもいいかもしれません。

『アライバル』は非常に完成度の高い作品ですが、個人的には現在行われている 「ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ」 (5月11日~7月28日)でこの作品の創作プロセスを目にすることで、この作品がより身近なものに感じられるようになりました。『アライバル』は好きだけど、まだ同展は見ていないという方がいれば、ぜひ訪れてみてください。ちひろ美術館監修の同展カタログ『ショーン・タンの世界 どこでもないどこかへ』(求龍堂、2019年)と、『アライバル』の創作プロセスを1冊の本にしたショーン・タン『見知らぬ国のスケッチ:アライバルの世界』(小林美幸訳、河出書房新社、2014年)もオススメです。

ちひろ美術館監修『ショーン・タンの世界 どこでもないどこかへ』(求龍堂、2019年)
ショーン・タン『見知らぬ国のスケッチ:アライバルの世界』(小林美幸訳、河出書房新社、2014年)

今回この読書会にも参加してくれたCJ・スズキさんがComic Streetに寄せてくれた『アライバル』についてのレビュー「越境と移民への誘い―ショーン・タン『アライバル』」もぜひ読んでみてください。

次回の海外マンガ読書会については日程も取り上げる作品もまだ決まっていませんが、決まり次第改めてお知らせいたします。


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About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

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