アングレーム国際漫画祭2019 参加レポート(3)

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「所詮同じ地球の中の話ー」
「意外と行けるのでは???」
ーある弐瓶勉展参加者の投稿よりー


企画展示の行われた、アングレーム市内BD美術館前

2019年の第46回アングレーム国際漫画祭について紹介していきます。漫画祭には出版社等による見本市的な展示のほか、特定のテーマや作家を特集した企画展が複数開催されます。2019年の漫画祭では日本から松本大洋、弐瓶勉が招待されたことでも話題にもなりました。2015年には谷口ジローの特集、2016年には大友克洋オマージュ展が開催されるなど、日本の漫画ファンにとっても毎年何かしら気になるニュースがあるところでもあります。

この記事では、実際に見てきた展示、アングレーム国際漫画祭の教育的プログラムである学生向けバンド・デシネコンクール、今年の新しい試み”Manga City”についてレポートします。

Manga Cityの宣伝に来た霧亥さん(BLAME!) 街の至る所にこの看板がありました

1:アングレーム国際漫画祭の企画展について

アングレームは「国際」漫画祭であるため、フランス語圏のバンド・デシネ作家に限らず、日本漫画やアメリカのコミック、韓国や中国の漫画、他ヨーロッパからの作家特集を立て、常に世界の漫画に光を当てる傾向が見られます。加え、前年のグランプリ受賞者に関する特別展、ほか児童向け作品や、ある程度の政治性を持つテーマの企画など、毎年幅広い種類の展示が行われています。

2019年は、例として以下の展示が行われました。

・リチャード・コルベン展 (2018年グランプリ受賞者特別企画)
・ベルナデット・デスプレ「トムトムとナナ」展 (児童向けのロングセラー作品)
・バットマン80年展
・ミロ・マナラ展 (「ガリバリアーナ」作者)
・松本大洋展
・弐瓶勉展

2:弐瓶勉特集「未来の探索者」展

アングレームが東亜重工になった

初めにお断りしてしまいますと、筆者は前記事の通りに、出版社展示とサイン会をメインに狙って参加したため、企画展のすべては見ておりません。中でもちゃんと見てきたのは辛うじて弐瓶勉展(”L’arpenteur des futurs(未来の探索者)”展)のみでした。なので、その内容を紹介いたします。

弐瓶勉展は市内のエスパス・フランカンという劇場で開催され、会期中数度足を運んだ際、どのタイミングでも会場は観覧客でにぎわっていました。トークセッションやライブペインティングなども行われたようで、時間があれば行ってもよかったと少し悔やまれます。

主に「BLAME!」、「シドニアの騎士」、「人形の国」の3作から原画・複製原画、関連グッズ・映像等を展示し、解説を添えていました。「人形の国」の主人公、エスローの1/1人形はこの展示が初出だったらしいです。とてもかっこいい。

Everything but the girl. 弾体加速装置を構えるエスロー

展示の解説は弐瓶作品に頻出する要素、すなわち、圧倒的人工物である超構造体(メガストラクチャー)と巨大建築に立ち向かう個人の対比、人間性の超越/拡張、などSF的な描写に込めた作者の未来観・哲学性を考察するものでした。弐瓶勉が(漫画に限らず)影響を受けている作家からの引用箇所を引き、どのような経緯で弐瓶ワールドが形成されていったのかを説明しています。 

メガストラクチャー

個人的な感想として、圧倒的質量・時間・距離スケールの巨大構造物と、孤独に・時に無為に探索を試みる個人(主人公)の構図を指摘しつつ、SF流のポップカルチャーと哲学的探索の間で揺れ動く作風、と評したコメントが印象に残っています。

「未来の探索者」

展示会場は弐瓶作品の質感を尊重した黒白無機質で、ファンならば会場に足を踏み入れただけでも演出の意味がわかってしまいます。

あれは第一種臨界不測兵器重力子放射線射出装置
「シドニアの騎士」の登場人物たち。仄シリーズ好き

アングレーム国際漫画祭の企画である事はさておき、いち弐瓶勉ファンとして展示を堪能してきました。

余談ですが、この弐瓶勉展を見るために渡仏したファンの方がいらっしゃったようです。サイン会にも参加されたようで、その熱意に敬意を表し、文頭のコメントをSNS上の投稿から引用させていただきました。筆者はバンドデシネ目当てなので渡仏のきっかけは違いましたが、完全に同類の方とお見受けしております。会期中にニアミスしていたかもしれません。

3:学生向けコンクール

各種展示の他、毎年の催しとして“Le Concours de la bande dessinée scolaire(学生バンドデシネコンクール)”、未成年者を対象としたバンド・デシネのコンクールが行われます。下はなんと5歳から、年齢を一定ずつ区切って優秀な作品を選出します。

学生向けコンクール会場前

優秀作品の選定基準は作画面での秀逸さに限らず、シナリオの始め方と締め方・テーマ選定・コマ割り含む構図の取り方など、つまりは漫画としての全般的な完成度の高さを見るものであるようでした。

こちらの参加要領ページ右側に、漫画制作における各ステップへのアドバイスが詳細に記されています(仏語)。これらの要請に従いクオリティを整えているか、という基準で評価された結果が、当日会場で公開されていました。

受賞作展示の様子
11-12歳部の受賞作品例

この学生向けコンクールは次世代の作家を育成する、教育的な目的を兼ねた文化事業という事になります。日本でも知られる作家の中では、ペネロープ・バジューもかつて本コンクールの受賞者となった事があったようです。アングレームについては、過去の実績を賞するグランプリについての報道で知られる機会が多いと思われますが、将来に向けての試みも常に進んでいるという点も記憶に留めても良いでしょう。

4:Manga City

市内外れのManga City会場

2019年のアングレームでは、バンド・デシネ系の出版社ブース、企画展示のほかに、MANGA(日本式漫画)ジャンルに特化した会場、”MANGA CITY”も見てきました。MANGAというだけあって大体は日本作品の仏訳ですが、フランス産MANGA、香港・台湾漫画の展示もあって、バンドデシネの展示を回るのとはまた異なる面白さがあります。

写真は台湾漫画の紹介を行うブースです。残念ながら買う事は出来ませんでした。コミックカタパルトにて邦訳版が出ている「冥戦録」がありました。余談ですが、2018年に台北の西門町へ行った際にこのキャラクター(林黙娘)を見たのを思い出し、多少興奮しました。

先述の弐瓶勉のほか、日本からの招待作家は主にこの “MANGA CITY”でサイン会をやっていたようです。

“MANGA CITY”では、すでに読んでいたフランス産MANGA、「花の吐息(Hana no Bleath)」の作者さんからサイン&イラストをいただき、また大手出版社グレナのブースでやはりフランス産MANGAの「フォー・ライフ(4LIFE)」を買いました。やはりサインはしっかりともらいました。 この2作はどちらも面白かった。

キャリー(CALY)、「花の吐息(Hana no BreatH)」
「花の吐息」へのサイン
アントワーヌ・ドル(シナリオ)、ヴィンニュー(作画) 「フォー・ライフ(4LIFE)」
作画、ヴィンニューさんのサイン。ぽっちゃり体形のタムちゃんが可愛かったので思わず…

フランス産MANGA作者のサイン会も、他のバンドデシネ作家と同様に会期中常に行われており、MANGA CITY会場に寄った際には常に盛況となっていたのを見ました。筆者は普段バンドデシネを主に読んでいますが、フランス産MANGAもまた奥深い世界であろう事を感じ取れました。

5:その他イベントなど

漫画祭公式の企画はここまで紹介した内容のほか、見れなかったものも含めるとまだまだ数多くあり、到底語り切れません。

補足として、非公式の企画も多少見てきましたので紹介いたします。

市内聖堂にて、キリスト教バンドデシネの販売
複数作品で同じ一節の描写を比較する展示

市内の聖堂にて、キリスト教系バンド・デシネの展示が行われていました。独自の賞である「国際キリスト教バンド・デシネ賞」を運営しているようです。聖堂内では、複数の作品から同じ聖書の一節を描写した部分を比較するという、なかなか興味深い企画が行われていました。

今回泊まった民泊のご主人夫妻に誘われ、ライブドローイング付きコンサート(無料)、コンセール・デシネ(Concert dessiné)に参加してみたり。ちょうど映画封切り直後だった事もあって、Queenのボヘミアン・ラプソディーを演奏しながらフレディ・マーキュリーを描く…という粋な趣向が見られました。

演奏前の写真です。作画中=演奏中なので、絵の写真は撮れませんでした

とにかく4日間、街のあらゆるところがバンド・デシネに染まります。興味のある部分だけを見ても時間が足りないほどに充実したプログラムが組まれており、会期中退屈する瞬間は全くありませんでした。筆者は主にサイン会を狙って回りましたが、事前に攻略チャートを念入りに準備してなお、諦めざるを得ない部分が多々あった程です。

6:おわりに

会期が終わり、帰路につく参加者たち

ここまで読んでいただきありがとうございます。本記事を書いているのは漫画祭の会期から5カ月経った7月ですが、未だに会場での出来事をありありと思い出せます。語りつくせないほどに多くの出来事があったアングレーム国際漫画祭でした。フランスのイベントという事もあり参加へのハードルは低くはありませんが、もし関心を持っていただけたのであれば、一度でも現地で体験してみることを強くお勧めいたします。バンド・デシネとはどういう漫画文化なのか、その一端をきっと感じ取る事ができるのではないかと思います。


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About Author

ty

海外マンガ業界とは特に関係のない業種に勤める一般会社員。フランス語の学習を兼ねてバンド・デシネの未邦訳作品を読みながら、SNS上で感想を流したり、時々思い立って現地でのイベントに参加したりしています。作家サイン会を回るのが一番好き。アングレーム国際漫画祭には2014、2016、2019年の3回参加しました。

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