日本マンガ学会海外マンガ交流部会第11回公開研究会レポート

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毎年恒例の日本マンガ学会海外マンガ交流部会公開研究会(第11回、2018年7月15日、於・専修大学神田校舎)を、幸いにも多くの方々にお越しいただくことができまして、無事終えることができました。

全体の進行役を務める中垣さん

本年度は「海外マンガ研究の現在とこれから」をテーマとして掲げ、大学院生による研究発表、ラウンドテーブル、トークの3部構成により、海外マンガ研究(隣接分野を含む)をめぐる現在の状況を概観し、課題や可能性について展望しました。

海外マンガの翻訳は近年、数多く刊行されるようになり、「ガイマン賞」「世界のマンガをゆるーく考える会」、ウェブ「Comic Street(外漫街)」などの活動も盛り上がってきています。その中で、小田切博さんによる記念碑的著作『戦争はいかに「マンガ」を変えるか――アメリカンコミックスの変貌』(NTT出版、2007年)が刊行されて十年経過した今、海外マンガ研究は今どのような状況にあり、どのような課題を抱えているのでしょうか。また、米国をはじめとするコミックス研究は今どのように進展してきているのでしょうか。

小田切博『戦争はいかに「マンガ」を変えるか――アメリカンコミックスの変貌』(NTT出版、2007年)

海外マンガ作品を精力的に翻訳紹介されている方々、研究論文や研究書の書き手の方々を講師としてお招きし、日本における海外マンガ研究の現状と課題について様々に意見・情報交換をさせていただくことができました。

第一部、若手研究者による研究発表の部「海外マンガ研究の隣接領域との接続」では、萱間隆さん(専修大学・院)「『桃太郎 海の神兵』における占領地の表現」、平野泉さん(専修大学・院)「ホビーマンガの想像力とアニメーション」にそれぞれ報告をいただきました。前者は、古典アニメーション作品『桃太郎 海の神兵』(1945)をめぐる歴史文化研究を基盤に、ニュース映画を交えたメディア文化比較の視座をも包括。後者は、『ゲームセンターあらし』(1978-83)の原作マンガおよびアニメ版の比較を軸に、「ホビーマンガ」とジャンルを規定する研究の可能性について。共に、比較メディア、時代思潮、初出媒体の雑誌文化、児童文化における位置づけなどさらなる発展を感じさせる内容でした。

第2部ラウンドテーブル「海外マンガ研究の現在とこれから」は、原正人さん(BD翻訳家)、椎名ゆかりさん(翻訳家・コーディネーター)に進行をお願いし、まず米国在住のコミックス研究者、鈴木(CJ)繁さんによる報告「2010年以降の北米英語圏におけるコミックス・スタディーズの動向――個人的なパースペクティブから」では、全体像を掌握することが不可能であるほどコミックス研究が活況を呈している現状について概観された後、その中で日本のマンガ/コミックス研究者が注目すべき研究動向について具体的な研究書、学術雑誌やデータベースへの言及を交えながら展望されました。大衆文化であるコミックス研究を学術的に扱うにあたり、どうしても扱いやすい作家や作品などは生じてしまうもので、であるとすれば、大衆文化研究の中でまた中心化と周縁化が生じてしまうジレンマについてなど、共有しうる課題が多いことも確認しました。

左から鈴木(CJ)繁さん、小田切博さん、
椎名ゆかりさん、原正人さん

論点を継承する形で、『戦争はいかに「マンガ」を変えるか』の著者、小田切博さんをお招きし、著書刊行当時の状況、さらにこの十年間の海外マンガ研究をめぐる動向を共にふりかえりつつ、課題とこれからの方向性を共に探りました。

今回のラウンドテーブルに先行して、原さん、椎名さんはラジオビューグルにて本書をめぐり小田切さんを交えてお話をされています。息のあったかけあいも見事なもので、海外マンガ研究およびマンガ研究の課題を探るための議論を深く広く展開することができました。

フロアには、海外コミックスの流通紹介に長年にわたり尽力されてこられた、小野耕世さん、おしぐちたかしさん、また、マンガ研究を理論的に探究されている野田謙介さん、三輪健太朗さん、マンガ研究の国際的なネットワーク形成にも意欲的な藤本由香里さんらも交え、海外マンガを取り巻く文化流通の変遷から、中でも、『戦争はいかに「マンガ」を変えるか』でなされた問題提起が、日本のマンガ研究における海外マンガの捉え方はもちろん、夏目房之介さんが推進されてきたマンガ表現論を考える上でも有効ではないかという点に至るまで活発な意見交換がなされました。

『戦争はいかに「マンガ」を変えるか』はNTT出版から当時、叢書のように刊行されていたマンガ研究書の一冊であり、タイトルが示すように、同時多発テロ以後のアメリカンコミックスの動向を論じたパートを軸に、日本の海外マンガ研究をめぐる問題点を指摘するパート、当時の日本マンガの米国での流通をめぐるパートに大別されるもので、中でも本書の最大の功績の一つとして、「アメコミ」として一見、共通理解があるようでいながら実は扱いが難しいアメリカンコミックスの概念について丹念に説明がなされている点が挙げられるでしょう。発表当時の21世紀初頭の状況および著者の熱意を伝えてくれる史料的価値のみならず、海外マンガ研究に対する様々な示唆に満ちた一冊であることを再認識することができました。ぜひラジオビューグルの配信を聴きながら一読・再読を。

第3部は、恒例となる部会代表、小野耕世氏に最近のご関心をうかがうトーク。当初の目論見では、最近の主要なご関心の一つであるネルソン・マンデラをめぐる伝記的グラフィック・ノベル(2017)のお話になるかと思いきや、まったくさにあらず。様々に回想と最新の情報がめぐる展開となりましたが、海外マンガにまつわる飽くなき情熱が伝わる内容で、現在もウェブ「Comic Street(外漫街)」をはじめ精力的にレビューを発表され続けています(最新レビューは、アレックス・アリス『星々の城』原正人訳、双葉社)。

小野耕世さん(右)

日本マンガ学会海外マンガ部会では、年1回の公開研究会に加え、現在、海外マンガ作品をめぐるワークショップ型読書会の開催準備も進めています(第1回は2018年10月開催予定)。

公開研究会、読書会ともにどなたでも気軽にご参加できます。詳細はComic Streetでもご案内いたします。

About Author

中垣 恒太郎

1973年広島県生まれ。専修大学文学部教授。アメリカ文学・比較メディア文化研究。大学では「思春期文化論研究ゼミ」を展開。米国と日本を軸にした女性のコミックス/マンガ表現をめぐる比較文化研究、さらに、欧米で注目されている「グラフィック・メディスン」の動向を踏まえた医療マンガの比較文化研究に関心を寄せています。日本マンガ学会海外マンガ交流部会(部会代表は小野耕世氏)ほか、女性MANGA研究プロジェクトなどに参加。

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