失われた故郷を求めて―『神之郷(かみのふるさと) / 上』

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作者:左萱(サケン)
タイトル:神之郷(かみのふるさと)/上
制作国:台湾
ジャンル:青春/恋愛/ファミリー
ページ数:214ページ

台北の大学で美術を学んでいる女子大生、陳暖暖(チェン・ナンナン)は、進路に漠然とした心配を抱えている。3年生が終われば、卒業制作の準備をはじめなければならない。指導教授との面談では、技術的には申し分ないと評価されつつも、何かが足りないと指摘された。「創作にはちょっとした衝動やキッカケが必要だからね」。指導教授のそんな言葉が、胸に響く。

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陳暖暖(チェン・ナンナン)。何か足りない女。

指導教授の言葉に感化された暖暖(ナンナン)は、勇気を振り絞り、衝動の赴くままに、ずっと気になっていた同級生、夏志薫(シャー・ジーシュン)にアプローチをかける。

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イケメン夏志薫(シャー・ジーシュン)と衝動の女、暖暖(ナンナン)。

大学の講義「台湾郷土文化」の夏休みの課題としてフィールドワークを行なうことになった二人は、志薫(ジーシュン)の故郷である大溪(ダーシー)に向かう。

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志薫(ジーシュン)の故郷、大溪(ダーシー)。

志薫(ジーシュン)は父母の離婚に伴い、母親について7年前に台北に引っ越してきて以来、大溪(ダーシー)に戻っていなかった。実に7年ぶりに故郷に戻った彼(と暖暖)をかつての親友、一心(イーシン)が迎える。

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しばらく会わないうちに田舎のヤンキーと化した一心(イーシン)。

折しも大溪(ダーシー)では、第二の正月とも言われる盛大な祭り「六月廿四(ろくがつにじゅうよん)」の準備が進められていた。地元の若者の一人として積極的に準備を進めている一心(イーシン)は、志薫(ジーシュン)に祭りに加わり、僮仔(ダンアー)役を演じてみないかと誘う。最初は躊躇した志薫だが、久しぶりに再会した父親の心無い言葉で、かえって挑戦してやろうという気持ちが高まる。

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伝説上の人物、三太子(サンタイツー)をかたどった僮仔(ダンアー)。

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いかにも頑固そうな志薫(ジーシュン)の父親。

こうして僮仔(ダンアー)を踊るための志薫(ジーシュン)の特訓が始まる。一心(イーシン)とともに僮仔を踊ること、それは幼い日の憧れであり、台北に引っ越す前の一心との約束でもあった。志薫が台北に引っ越すことで止まってしまった時計が、再び時を刻み始める……。

ということで、この作品『神之郷(かみのふるさと)』は、大溪(ダーシー)という田舎出身で、現在台北で大学生をしている志薫(ジーシュン)が、故郷を再発見し、仲直りをする話であると同時に、都会出身の女子大生、暖暖(ナンナン)が、片思いの相手であるその志薫を通じて、田舎の文化を発見する話でもある。志薫だけでなく暖暖を配置したことで、都会(台北)と田舎(大溪)の対比がより一層際立っているんじゃなかろーか。都会と田舎の対比は日本にももちろん当てはまることだが、そこで描かれる文化が日本とは異なっていて興味深い。老街(ラオジェ)と呼ばれる古い街並み、六月廿四という祭り、三太子、僮仔、月光餅……。月光餅食ってみてー。志薫について大溪を訪れた暖暖は、消えゆく伝統文化とそれを残そうとする人々の想い、そして何より、愛する故郷から引き離され台北という都会で暮らさざるをえなかった志薫の複雑な心中をつぶさに知ることになる。都会にいても田舎にいても、人はそれぞれ、さまざまなわだかまりを抱えながら生きているわけだけど、それがふとしたきっかけでこじれたり、ほぐれたりするさまが実に繊細に描かれている。絵もうまくてストレスフリー。もはや日本のマンガと何ら変わらないと思う。上巻は志薫と一心(イーシン)のわだかまりが解け、父親との関係にぐっと迫りそうな引きを残して終了。これは下巻も出さにゃならんでしょう。

About Author

原 正人

1974年静岡県生まれ。フランスのマンガ“バンド・デシネ”の翻訳者。訳書にバスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(小学館集英社プロダクション)、マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン&ケラスコエット『かわいい闇』(河出書房新社)など。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。「世界のマンガについてゆるーく考える会」主宰。もちろん日本のマンガも大好き。

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